【ハンタウイルス】特性や危険度、感染力は? 研究者が解説 過去の国内感染例は?【岡山大学】
2026年5月2日、南大西洋上を航行中のクルーズ船でのハンタウイルス感染症の発生がWHOに報告されました。
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国立健康危機管理研究機構は「感染源等の特定のため疫学調査や接触者の調査が今後必要であるが、乗船者の適切な管理(感染管理・接触者調査・健康観察)が実施されることにより、さらなる感染拡大のリスクは限定的にとどまると考えられる」としています。
「ハンタウイルス」とは、どのようなウイルスなのでしょうか。
「ハンタウイルス」とは
ハンタウイルスは、ネズミなどのげっ歯類の一部が持っているウイルスです。
分類上、ブニヤウイルス科のハンタウイルス属に属します。流行地域でウイルスを持っているげっ歯類にかまれたり、排泄物に触れたり、排泄物を含んだほこりを吸い込んだりすることによって感染します。
重篤な症状を引き起こす病態として、腎症候性出血熱、ハンタウイルス肺症候群という2つの疾患があります。
主な感染経路は病原体を保有するげっ歯類の排泄物を含む粉じんの吸入や排泄物で汚染された食品や飲料水の摂取です。
基本的にヒトからヒトへ感染するものではありませんが、例外的にハンタウイルスの一種であるアンデスウイルスにおけるヒト-ヒト感染事例が報告されています。
日本国内では近年の患者発生の報告はありません。
重篤なハンタウイルス感染症には2種類ある
【HFRS】
腎機能障害(腎症候性出血熱)
・10~20日の潜伏期の後に、突然の発熱、頭痛、悪寒、脱力、めまい、背部痛、腹痛、嘔吐が生じる。
・顔面の発赤、目の充血、発疹などの出血症状がみられることも。
・軽症型では上気道炎症状と微熱、検査でわかる程度の尿異常だけで回復。
・重症型は発熱に続いて、低血圧・ショック(4~10日)、尿の減少(8~13日)、尿の増加(20~28日)、回復という強い腎機能障害を伴う。
・重症型では3~15%が死亡。
致死率40% 重症度の高い型も
【HPS】
呼吸器疾患(ハンタウイルス肺症候群)
・潜伏期間は1~5週間と推定。
・突然の発熱、頭痛、悪寒がみられます(1~4日間)。
・その後、呼吸困難、酸素欠乏状態が急速に出現。
・呼吸数の増加、脈拍数の増加が顕著に。
・入院時の症状として発熱、筋痛、悪寒がほぼ全例でみられ、嘔気、嘔吐、下痢および倦怠がしばしば。他に短い呼吸、めまい、関節痛、背部痛、胸痛、腹痛、発汗および咳がみられ、まれに鼻汁や咽喉痛。
※1993年、米国南西部で初めて流行が確認された呼吸器疾患で、新種のハンタウイルスが病原体であること判明しました。これまでに、米国、カナダ、南米(アルゼンチン、チリ、パラグアイ、ブラジル、ウルグアイ、ボリビア、パナマ)で患者が発生しています。約40%が死亡する重症度の高い疾患。
「ハンタウイルス」の集団感染が疑われているクルーズ船「MVホンディウス号」では、ハンタウイルスの一種のアンデスウイルスに感染したとみられています。
ハンタウイルスの感染例は過去に国内でも 2001年の論文より
今回のクルーズ船のウイルスとは型が違いますが、過去に国内でハンタウイルスの感染例があり、岡山大学などの研究グループが、2001年発表の論文で調査結果をまとめています。
研究グループは、全国の港湾地域において、ハンタウイルス(HFRSウイルス)抗体陽性ネズミの存在が継続的に確認されている状況のなか、人への感染伝播を推定することを目的として、腎透析患者を対象にした抗体検査とアンケート調査を実施しました。
論文によりますと、国内におけるハンタウイルス感染症(腎症候性出血熱:HFRS)の発生は、1970年に厚生省が初めて報告しました。
1983年から1984年にかけて行われた全国横断的な血清疫学調査では、人のHFRS抗体陽性保有率は全体で0.53%(0~1.54%)と低率でした。
いっぽう、調査が行われた2000年ごろ、HFRSウイルス抗体陽性ネズミが高率に確認された東京湾の従業員732人の抗体保有率は2.73%に達していて、ドブネズミ・クマネズミなどの強い関与が指摘されていました。
さらに、当時、HFRSウイルスが急性・慢性腎炎発生の大きな原因となっているという研究報告(Am J Kidney Dis, 33: 734-737, 1999)がありました。この報告によれば、急性・慢性腎炎の26%近くはHFRSウイルス感染によるものである可能性が示唆されていました。
こうした知見を踏まえ、腎透析患者を対象にHFRSウイルス抗体調査とアンケート調査を実施し、ネズミ族のHFRSウイルス抗体陽性地域との関連性について検討が行われました。
当時、大阪港・神戸港の港湾地域でHFRSウイルス抗体陽性ネズミが確認されていたことから、大阪府・大阪市・神戸市・広島県・岡山県地域の腎透析患者を対象に、アンケート調査と患者同意に基づく血清提供が行われました。
HFRS抗体陽性者の詳細
調査の結果、530人の透析患者のうち、HFRS抗体陽性者は4病院で合計8人確認され、全体の陽性率は1.5%でした。
病院別の陽性率はB病院5.0%、C病院9.5%、E病院2.3%、G病院0.9%であり、抗体価はIFAで256倍から1024倍、HI法で10倍から160倍の範囲でした。
8人の抗体陽性者の年齢は47歳から81歳で、男女各4人でした。腎炎発症時期は昭和46年・昭和56年・平成8年・平成9年・平成11年にわたり、それぞれの時期に各地区での陽性ネズミの存在が確認されています。
8人のうち1例をのぞくすべての居住・勤務地は、これまでのネズミ族調査においてHFRSウイルス抗体陽性ネズミが確認されている地区と同一地区か隣接地域だったということです。
「日本人の血液の中に抗体がある」ということは?
──この論文からどのようなことがわかりますか?
(岡山大学病原ウイルス学 本田知之教授)
「(クルーズ船のウイルスとは型が違いますが)日本のネズミにも陽性例があるし、日本人の血液の中に抗体があると言うことは感染したことがある人がいるという可能性を示しています。
ということは、感染した人が気づいていない感染(不顕性感染もしくは風邪のような症状のみ)があるということになると思います」
──どのような対策ができますか?
(岡山大学病原ウイルス学 本田知之教授)
「ハンタウイルスは、基本的にはネズミからヒトに感染するので、対策はネズミ対策です。
ネズミのいそうなところには行かないとか、食品などにネズミが集らないように蓋をするとか、ネズミの糞尿から感染するので掃除をしっかりするとか、ネズミとネズミ周囲環境に関わらないことです。
また糞尿が舞い上がると空気感染しうるので、湿度を保つとか換気をするとかも大事かと思います。
今回のはヒトーヒト間で伝播しているようですが、そのようなウイルス株が珍しいです。今回は、クルーズ船という閉鎖空間で感染が成立しやすかった可能性があり、開放空間ですぐにパンデミックを起こすという危険はなさそうです」
──予防接種はあるのでしょうか?
(岡山大学病原ウイルス学 本田知之教授)
「予防接種はわが国にはありません。げっ歯類との接触がないように環境を整備することが予防上のポイントとなります。糞や尿で汚染された場合には、掃除機やほうきなどのほこりを巻き上げるような器具は使わずに、漂白剤で汚染部を十分に湿らせます。その後ペーパータオルなどを用いてふき取り、ごみ袋に入れて廃棄します」
