【日本のインフラ老朽化問題】この国はどのようにして危機を乗り越えようとしているのか

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日本はこのまま崩れ去ってしまうのか? 道路、鉄道、水道、インフラ、橋……なぜ全国各地で次々に事故が起きるのか? お金も人も足りない……打つ手はあるのか?

注目の新刊『日本のインフラ危機』では、私たちの暮らしを揺るがす「大問題の正体」を豊富なデータと事例から解き明かす。

(本記事は、岩城一郎『日本のインフラ危機』の一部を抜粋・編集しています)

国による自治体支援

国土交通省では、現在のインフラの状況や将来の見通し、さらに国内外の社会情勢を踏まえながら、インフラを長持ちさせるための方針を打ち出しています。特に人口減少や少子高齢化が進む地方の市区町村では、インフラの老朽化に加えて人材不足や予算不足が重なり、十分な支援をおこなわなければ自治体の運営が立ち行かなくなるおそれもあります。ここでは、国土交通省が市区町村を中心に進めている施策についてご紹介します。

笹子トンネル天井板崩落事故以降、国土交通省はさまざまなインフラ老朽化対策をおこなってきました。2013年を「社会資本メンテナンス元年」と位置付け、同年には「社会資本の維持管理・更新に関し当面講ずべき措置」を明示し、政府全体として計画的な維持管理・更新を進めるための「インフラ長寿命化基本計画」を策定。これを受けて、2014年には国土交通省が管理・所管するインフラを着実に維持・更新していくための「国土交通省インフラ長寿命化計画(行動計画)」を定めました。さらに2021年には「第2次国土交通省インフラ長寿命化計画(行動計画)」を策定し、持続可能なインフラ維持の実現を掲げました。そして笹子の事故から10年となる2022年には「インフラメンテナンス第2フェーズ」に向けた提言をおこない、その中で「地域インフラ群再生戦略マネジメント(群マネ)」という新しい構想を打ち出しました。

これらの取り組みを通じて共通認識となったのは、インフラの維持を「事後対応型」から「予防対応型」に切り替えることです。つまり、壊れてから直すのではなく、壊れる前に対策を講じることで、長寿命化や費用の節減を目指すという考え方です。

2018年に国土交通省が所管するインフラについて将来の維持管理費を試算したところ、「事後対応型」を続けた場合、年間の費用は2018年度の約5.2兆円から2048年度には約2.4倍の約12.3兆円になると見込まれました(図表4-10)。一方で「予防対応型」に切り替えると、2048年度の年間費用は約6.5兆円と半分程度に抑えられ、30年間の累計費用でも事後対応型が約280兆円に達するのに対し、予防対応型では約190兆円と約3割減少する見通しです。

しかし、地方の市区町村では予算や人材の不足から、事後対応から予防対応への転換は容易ではありません。そこで国土交通省は、人材などを補いながら広域的に、また複数の分野をまとめて効率的に管理する「地域インフラ群再生戦略マネジメント」の推進を進めています。

2023年には「群マネ」の先行的な取り組みを進めるため、公募により11件40の地方公共団体を「モデル地域」として選定しました。まずはモデル地域で実績を積み、その成果を全国へ広げることで、持続可能なインフラ維持を目指しています。

群マネのモデルには、一つの市区町村が中心となって近隣の市区町村と連携する方法や、都道府県が主導して管内の市区町村と連携する「広域連携モデル」、道路・河川・上下水道・公園など複数分野の維持管理をまとめておこなう「多分野連携モデル」などがあります。さらに、自治体同士の協力(発注者としての連携)、技術者の協力(大学との連携や人材育成を含む)、事業者の協力(共同企業体や事業協同組合による連携)といった形で進められます。

これにより、技術職員がいない町村でも県や近隣の市と協力して専門的な知見を補ったり、道路や河川、公園などの管理をまとめて発注・巡回できるため、効率的な維持管理が期待されています。モデル地域に対しては、群マネ計画の策定や業務・工事の実施を国が支援し、得られた知見を「手引き」などにまとめて全国へ展開しています。

そのほか国土交通省では、維持管理に関する理念を広め、業務効率を飛躍的に高めるための新技術の導入も進めています。2016年には、産学官民が一体となって取り組む場として「インフラメンテナンス国民会議」を設立し、シンポジウムやセミナーの開催、自治体のニーズと企業の技術のマッチングなどを全国で展開しています。

2022年には、市区町村長自らが参加する「インフラメンテナンス市区町村長会議」も設立され、2023年には第1回全国大会が開かれ、土木学会との協定も締結されました。2025年5月時点、全国1741市区町村のうち約70%にあたる1252自治体が加入しており、首長がリーダーシップをとることで、現場の職員にまで適切な施策が浸透することが期待されています。

また、インフラメンテナンスに関する優れた取り組みや技術を表彰するため、2016年度に「インフラメンテナンス大賞」が創設されました。2023年度からは従来の大臣賞などに加え、最高賞である内閣総理大臣賞も新設されました。さらに、自治体を対象に専門家が直接助言する「ハンズオン支援事業」も進められており、2023年度から全国13のモデル自治体で支援が始まっています。

私自身もこれらの取り組みに「学」の立場から関わっており、特に土木学会との連携を通じて、これらの施策が有機的に機能し、実際に成果をあげられるよう尽力していきたいと考えています。

さらに、「日本はこのまま崩れ去ってしまうのか…意外と気づかない「インフラ危機」本当の実態」」では、いま大問題として迫っているインフラ老朽化問題をひきつづき見ていく。

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