免疫力が落ちている時は「納豆」に注意? 控えるべき“意外な薬”との組み合わせ【医師解説】
ワルファリン以外にも、納豆の成分が影響を及ぼす可能性のある薬があります。また、免疫力が著しく低下している方にとっては、納豆菌(生きた菌)の摂取が思わぬリスクになる場合があります。抗生物質や免疫抑制剤を使用中の方が知っておきたい注意点を整理します。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
ワルファリン以外の薬との飲み合わせ:納豆が影響するケース
ワルファリンと納豆の相互作用は非常に有名ですが、それ以外にも納豆の成分が影響を及ぼす可能性のある薬は存在します。薬と食品の相互作用は非常に複雑で、個人の体質や健康状態によっても影響の出方は異なります。何らかの薬を定常的に服用している方は、食事内容について自己判断せず、医師や薬剤師といった専門家に確認する習慣をつけることが大切です。
抗生物質と納豆菌の関係
風邪や感染症の治療で抗生物質(抗菌薬)を服用している期間は、腸内にいる善玉菌も悪玉菌も影響を受け、腸内細菌のバランスが乱れやすくなります。このとき、納豆菌(枯草菌の一種)のような特定の菌が腸内で異常に増殖したり、抗生物質の効果に影響を与えたりする可能性が理論上は考えられます。特に、一部の抗生物質は、腸内環境の変化が薬の吸収や効果に影響を与えることが知られています。
ただし、健康な成人が短期的に抗生物質を服用する際に、通常の食事として納豆を1パック程度摂取した場合、臨床的に重大な問題となることはほとんどないと考えられています。むしろ、抗生物質による下痢の予防・改善に、納豆菌のようなプロバイオティクスが有益である可能性も示唆されています。とはいえ、治療内容や個人の状態によるため、抗生物質を服用している期間の食事については、念のため担当医や薬剤師に確認することが基本姿勢です。
整腸薬・プロバイオティクスとの重複摂取
市販の整腸薬や処方されるプロバイオティクス製剤には、乳酸菌やビフィズス菌、酪酸菌など、特定の善玉菌を補うことで腸内環境を整えるものがあります。納豆菌もまた、腸内で有益な働きをすることが知られているプロバイオティクスの一種です。これらの整腸薬と納豆を同時に摂取すること自体は、通常問題ありません。しかし、複数の種類の菌を同時に大量に摂取した場合に、腸内バランスがどのように変化するかは個人差が大きく、人によってはお腹が張ったり、ガスが増えたりといった症状が出ることがあります。
特に注意が必要なのは、後述する免疫機能が著しく低下している方(免疫抑制剤や抗がん剤を使用中の方など)です。このような方々にとっては、生きた菌を過剰に摂取すること自体が、菌血症などの感染症リスクになる可能性があります。整腸薬やその他のサプリメントを服用している方は、納豆の摂取頻度や量について、主治医や薬剤師に情報共有し、相談することが望ましいでしょう。
免疫抑制剤・抗がん剤を使用中の方と納豆
臓器移植後の拒絶反応を防ぐため、あるいは関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療のために免疫抑制剤を使用している方、また、がん治療のために抗がん剤(化学療法)を受けている方は、免疫力が著しく低下している状態にあります。このような方々は、食事に関しても感染症予防の観点からさまざまな制限が設けられることがあります。特に納豆に関しては、その特有の「納豆菌(枯草菌の一種)」が生きたまま含まれている点が問題となる可能性があります。
免疫抑制状態と納豆菌のリスク
免疫機能が正常な状態では、納豆菌のような日常的に存在する細菌が体内に入っても、免疫システムが適切に処理するため何の問題も起こりません。しかし、免疫抑制剤や抗がん剤によって免疫機能が極度に低下している状態では、普段は無害なはずの細菌が体内で異常増殖し、重篤な感染症(日和見感染症)を引き起こすことがあります。納豆菌は一般的には安全な菌とされていますが、免疫不全の患者さんにおいては、腸管から血中に移行して菌血症などを起こすリスクがゼロとは言い切れません。
特に、抗がん剤治療により白血球の一種である好中球が著しく減少する時期(好中球減少期)には、感染症のリスクが非常に高まります。この期間には、感染予防のために加熱殺菌されていない食品の摂取を制限する「低菌食(クリーン食)」が医療機関から指導されることがあります。この食事療法では、生野菜や刺身、生卵といった生鮮食品に加え、納豆、ヨーグルト、味噌、チーズなどの発酵食品も制限の対象となる場合が多く、納豆の摂取は避けるよう指導されるのが一般的です。
治療スケジュールに合わせた食事管理
抗がん剤治療や免疫抑制療法は、治療のサイクルに応じて身体の状態、特に免疫力が大きく変動します。例えば、化学療法の後、白血球数が最も低下する時期(骨髄抑制の底、nadir)と、次の治療に向けて回復してくる時期とでは、食事の制限内容も変わることがあります。治療の各段階に合わせて、どのような食事を摂るべきか、担当医や専門の管理栄養士と密に連携し、個別具体的な食事プランを立てることが極めて重要です。
納豆が好きな方にとって、治療中の食事制限は精神的にも辛く感じられるかもしれません。しかし、治療期間中の安全を最優先し、感染症のリスクを最小限に抑えることが、スムーズな回復への近道となります。治療が終了し、免疫力が回復した後に、いつから納豆を食べられるようになるかについても、自己判断せずに必ず担当医に確認することをおすすめします。
まとめ
納豆は非常に栄養価の高い優れた食品ですが、すべての人にとって手放しで推奨できるわけではありません。
「食べてはいけない」のか、「注意すれば食べられる」のかは、個々の健康状態、病状、服用している薬の種類によって大きく異なります。ご自身の健康に関して少しでも不安や疑問がある方は、自己判断せず、まずはお薬手帳を持参の上、かかりつけの内科医、腎臓内科、薬剤師などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
農林水産省「大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A」
