中山美穂さん

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【全2回(前編/後編)の前編】

 先頃国会では、著名芸能人の遺産相続を取っかかりに、日本の相続税のあり方が議論されていた。かつては、もっぱら資産家にかけられるもので一般庶民には無縁とされてきたのだが、それも今は昔。残される者たちへ円滑に資産を移行するための方策をお伝えする。

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【貴重写真】あまりにも“美少女” デビュー直後、14歳の「中山美穂さん」

 4月9日に開かれた参議院財政金融委員会では、参政党の塩入清香議員が一部報道を引き合いに、片山さつき財務大臣にこう投げかけた。

中山美穂さんのご子息が20億円の遺産相続を放棄され、その相続税が11億。相続税の負担の重さについて、国民の間で大きな関心が高まっている〉

中山美穂さん

 塩入議員はさらに、資産規模が大きい場合は相続税の支払いが困難となり、やむを得ず相続放棄や不動産売却をした結果、市場に流れて外国資本に買われるケースがあると発言。また所得税との二重課税だと指摘されている点にも触れ、国際的に見た日本の相続税の位置付けを問うたのだった。

総額40億円の遺産がいまだ相続されず

 中山さんが54歳で亡くなったのは一昨年12月。相続税は通常、被相続人が亡くなった翌日から10カ月以内に納めることになる。現行の超過累進課税制度により、遺産から基礎控除額を除いた課税遺産総額を法定相続分で案分した取得金額が6億円を超える場合は、最高税率である55%が課せられる。

相続税の税率速算表

「すでに昨年春、パリに住む中山の一人息子が相続を放棄したという報道がありました。その場合、同じく法定相続人である母親が遺産を受け継ぐことになります。今回は、2014年の離婚後から疎遠になっていた息子との関係が大きな原因になったとみられます」(芸能ジャーナリスト)

 また、同じく相続税にまつわるトラブルが報じられているのが、昨年3月に他界したみのもんたさん(享年80)についてである。

「神奈川・鎌倉山の最奥部に立つ自宅は敷地面積3000坪、延床面積240坪を誇り、17億円豪邸とも称されていました。これを含め、遺産は総額40億円に上るとされます。妻は12年に亡くなっており、法定相続人は3人の子たち。ところが3人の間で分割協議がまとまらず、いまだ相続がなされていないのです」(同)

 実際に登記簿を確認すると“御殿”の土地・建物の所有者は今も故人のまま変更されておらず、

「すでに延滞税が発生していると思われます。みのの場合は、子ども1人あたり約13億円の取得金額に対して最高税率が適用され、課税額はそれぞれ7億円ほどとみられています」

「節税分岐点」の計算例

 先の中山さんもしかり、著名芸能人の相続ともなれば、およそ一般的とは言い難い。それでも、日本の相続税はこれまで“世界最高水準”などと論(あげつら)われてきた。前述の参院の審議では、

「答弁に立った舞立昇治財務副大臣は、諸外国と比較して『最高税率だけを見れば、税負担が重いという評価もあり得る』と述べながらも、『税率の構造は8段階で、実際の負担率は平均で約14%』『米国の最低税率は日本より高い18%だが、20億円超の基礎控除が認められている』などとした上で、『単純な国際比較は難しい』と説明したのです」(全国紙デスク)

「各国の税制の“高いところ取り”」

 とはいえ先進国を含む諸外国では、相続税が存在しない国も少なからずある。国際相続に詳しい税理士法人ゆいアドバイザーズの中山史子氏が言う。

「世界の相続税は米国や英国の『遺産課税方式』と、フランスやドイツ、日本などの『遺産取得課税方式』に大別されます。前者は被相続人、後者は相続人が納税義務者とされます。米国の基礎控除額は現在1500万ドル(約24億円)で、最高税率は40%。英国も40%でフランスは45%、ドイツ30%となっています。一方で香港やシンガポール、マレーシア、豪州、ニュージーランドでは相続税がありません」

 とりわけシンガポールは、富裕層の誘致といった観点からも非課税にしているという。続けて、

「日本の相続税は現状で、各国の税制の“高いところ取り”になっています。まず55%の最高税率は国際的にも最高水準。遺産全体を課税対象として計算する点は米国と同じなのに、基礎控除額は低い。フランスも直系卑属の基礎控除は10万ユーロ(約1870万円)と低めですが、特別な手続きをしない限り婚姻後に取得した夫婦間の財産は共有制なので、配偶者の一方が亡くなった時点で相続財産は半分に減る。その上、配偶者は完全無税です」(同)

「戦費調達を目的として始まった」

 さかのぼれば、日本の相続税の最高税率は1987年まで75%、そして2002年までは70%と、いずれも高率だった。その後50%まで引き下げられたが、15年には55%となり現在に至っている。

 相続税に詳しい長谷川裕雅弁護士が言う。

相続税は、戦争と不思議な縁があります。米国で最初に導入されたのは南北戦争の時で、戦費調達のためでした。日本でもやはり、日露戦争の際に戦費調達を目的として始まっている。つまり、古くから当然のようにある税ではないということです」

 それは前述したように非課税の国々があることからも一目瞭然で、

「日本では15年に相続税法が改正され、基礎控除額が『5000万円+(1000万円×相続人数)』から『3000万円+(600万円×相続人数)』へと、大幅に引き下げられました。これによって富裕層だけでなく“普通の市民”も課税対象となったのです」(同)

不動産が優遇される理由

 念のためおさらいすると、民法で定められた「法定相続人」に、故人(被相続人)の配偶者は常に含まれる。それ以外の家族には、故人の「子」「両親」「兄弟姉妹」と優先順がつけられている。相続人が配偶者だけの場合は全ての遺産を相続することになり、配偶者と子が1人の場合は、それぞれ遺産の2分の1ずつ相続。また子が2人であれば、子らは4分の1ずつとなる。そして、子がおらず配偶者と故人の父母だけの場合は、それぞれ3分の2、3分の1といった配分である。

 ちなみに遺言書などの内容にかかわらず、故人の兄弟姉妹を除く相続人には最低限の取り分である「遺留分」が保証されており、割合はそれぞれ通常の法定相続分の2分の1ずつである。長谷川弁護士が続けて、

「納税者の割合は、改正前の14年時点では4.4%だったところ、翌年には約8%に上昇。そして改正から10年後の昨年には10.4%にまでなりました。東京都内は約20%に上っています。超過累進課税であり最大税率は高いものの、最低税率は10%と低い。課税の“すそ野”が非常に広いのが、日本の相続税の特徴です。中間層、とりわけ都市部の人たちにとっては、すでに身近な税といえるでしょう」

 そして、こう指摘する。

「不動産所有者に“優しい”のも、日本の相続税の特徴の一つです。現預金、株式・債券から動産まで、これら財産の“時価”にかかるのが相続税。ですが、不動産だけは趣を異にします」(同)

 というのも、

「一般的な不動産については、土地は『路線価』、建物は『固定資産税評価額』によって相続税評価額が決まります。そこでは、われわれがいわゆる“時価”だと認識している『取引価格』、つまり現在売れる価格と比べ、低く算出されるのです。都市部の道路には価格がついており、土地の値段は、その価格がついた道路に接している面積をかけて算出します。路線価が13万円だったら接する土地は1平方メートルで13万円。この路線価は取引価格より2割安いといわれています。また、建物の固定資産税評価額についても、3割ほど下がるとされているのです」(同)

 かように不動産が“優遇”されるのは、

「登記制度があることで政府が管理しやすいから、といわれることもあります」(同)

 加えて、相続実務士で「夢相続」代表の曽根惠子氏が言うには、

「遺産の評価額を低くしやすいのが、不動産への財産移転です。例えば宅地面積330平方メートルまでの自宅であれば、『小規模宅地等の特例』によって、評価額が最大80%減となります。また他人に貸している不動産も、借地権や借家権を組み合わせて評価額を5〜7割も低くすることができます」

 後編では、相続を巡って、親子間、きょうだい間で最高裁まで争うケースなどについて紹介する。

「週刊新潮」2026年4月23日号 掲載