《映画コナン》はなぜ人気なのか?「難しいトリック」がないのに支持される理由

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『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』が大ヒット中

大型連休となるゴールデンウィークを先駆けて全国公開されたアニメ映画『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』が興行通信社調べによる動員ランキングで2週連続の1位に輝いた。累計成績は公開10日間で観客動員422万人、興行収入63億円を突破。

公開規模は全国526館にもおよび、横浜のとある映画館では1日に59回上映されたことも大きな話題になっており、前作を上回るペースでの興収100億円突破が予想されている。

劇場版『名探偵コナン』の興行収入は、ここ数年大躍進している。特に、2016年以降はずっと右肩上がりで2023年には初めて100億円の大台を突破。

2024年の『100万ドルの五稜星』が158億円でシリーズ最高を更新し、2025年の『隻眼の残像』も147億円をマーク。そして、現在公開中の『ハイウェイの堕天使』に至っては160億円、いやそれ以上の数字を叩き出しそうな勢いだ。

国内映画興収が過去最高になるが……

そんな“コナン旋風”や『鬼滅の刃』『国宝』『チェーンソーマン』『8番出口』などの大ヒットもあって、2025年の国内映画興行収入は2744億5200万円で過去最高を更新。動画配信サービスや多数のエンタメが乱立する中で、数字だけでは映画のマーケットは活気を取り戻しているように見える。

しかしながら、その盛り上がりは大きく偏っているのだ――。

トップ30を見てみると、アニメやドラマの映画版、ゲームをモチーフにした作品ばかりが上位を占めており、オリジナル企画は数本のみ。『国宝』が記録的ヒットをマークしたが、あくまでプロモーションやSNSの口コミが見事にハマった例外に過ぎない。それ以外にも数多くのオリジナル実写作品が全国公開されたものの、赤字のまま公開を終えたのだ。

こうした日本映画界の二極化について、現場で働く映画プロデューサー、制作スタッフ、映画ライターはどのように感じているのか? その本音に迫った。

映画鑑賞は祭りやオリンピックと同じ

「観客が映画を観に行く理由を作らないと難しくなった」

国内の映画配給会社で長らくプロデューサーを務めるA氏は、現在の市場を見渡してこう漏らす。

「もともとアニメや原作のファンが多い『名探偵コナン』や『ドラえもん』は内容以前に“今年も行くモノ”として完全に定着している。いわばお祭りや儀礼と同じなんですよ。

『鬼滅の刃』や『チェーンソーマン』は不定期公開ですが、逆に数年おきだからこそオリンピックやワールドカップのようなすさまじい熱狂に変わる。

その点、オリジナル企画の邦画は観に行く理由作りから始めないといけない。今をときめく豪華な俳優をそろえて、ロケ地や脚本にこだわったところで、映画好きの観客以外は「今すぐ見なくてもいいかな」というムードになってしまっている。

去年でいえば、小栗旬さん主演の『フロントライン』や木村拓哉さん主演の『TOKYOタクシー』がその代表例。キャストや題材だけを見れば超大作ですが、15億円ほどに留まった。

そこにはNetflixやAmazonプライムで早々に配信されてしまうという事情も関わっているのでしょうが、個人的には国民の映画愛が薄れているからだと感じています」

コアファン狙いや派手なアクションが爆発的ヒットに

嘆き節全開のA氏だが、コナンが爆発的ヒット作にのし上がったことについては渋々評価した。

「それまで30億円前後だった同シリーズに火が付いたのは、2016年公開の『純黒の悪夢』。そこでライバルである“黒の組織”との対決を本格的に描いたうえに、コアな人気を誇る安室透や赤井秀一といったサブキャラクターを登場させたことが大きかったと思います。

従来の映画版アニメといえば、原作やアニメ放送を見ていない観客でも楽しめる作りにすることが定石でしたから『これじゃコケるだろうな』と思っていましたが、私の考えが古かった……。

コナンは徹底的にコアファンを狙ったエピソードに舵を切り、SNSやファンコミュニティの熱気を高めて“観に行く”理由を作り、何度もリピート鑑賞をさせることに成功した。この発想はなかったので、悔しいですが感心しました。

また、難しいトリックで驚かせるよりも、映画映えする大掛かりなアクションシーンやベタなラブシーンに振り切ったこともヒットの要因だと思います。

観客は難解なミステリーは求めていない。自分の推しキャラが派手なアクションを繰り広げ、胸がキュンキュンするツーショットになる姿を見たがっているのではないか」

映画の舞台を聖地巡礼化させた

A氏は続ける。

「『鬼滅の刃』もまた新しい戦略を仕掛けたアニメ映画ですよね。2020年に公開された『無限列車編』はアニメシリーズの続きにあたるエピソードを描いたモノ。コアファンを狙ってアニメの続きを映画館で見せる形にしたことで、そのまま劇場をファンイベントに変えた。イベント化することで、劇場に行く理由を作った素晴らしい事例ですよ。自分が作りたい映画の方向性とはまったく違いますが、こういった映画の新しいニーズを作り上げた2作品は評価したい」

ライトなファンではなく、コアな原作ファンをターゲットにする集客戦略は、他社の映画プロデューサーでは思い付かなかった盲点だったようだ。

また、映画ライターのB氏は“コナン旋風”のスゴさを別の切り口から語る。

「ファンが舞台となった都市や観光地、施設を巡っているんです。これは『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『君の名は。』などで有名になった“聖地巡礼”と呼ばれるモノですが、それをうまく利用している。

ファンは横浜、函館、長野、大阪、京都といった都市に訪れてコナンのグッズとともに、SNSに写真をアップしている。これが拡散することによって新規の観客が増えている。つまり、広告費をかけないマーケティングになっているんですよ。

実際の都市や観光地を美麗なアニメーションで描くのは、アニメーターとしては簡単なことではないでしょうが、ヒットのためにその労力を惜しんでいないようです」

『みんなが見ている』ことが最大の宣伝に

また、B氏はここ数年の動員の変化についてこう分析する。

「昔は口コミでじわじわ伸びる作品があった。でも今は『みんなが見ている』ことが最大の宣伝になる。内容より先に、熱狂に乗れるかどうかが勝負になっているんですよね。

『コナン』や『鬼滅の刃』も公開直後からSNSのタイムラインがハッシュタグで埋まる。作品の面白さよりも“参加しないと流行に乗り遅れる”と思わせる現象が集客に繋がっている。一方で、実写のオリジナル作品はその現象が起きづらい。

『note』などのブログ記事やSNSの長文ポストを書いてくれる観客もいますが、どうしても『この作品が面白かった理由』を長々と説明しなければならない。SNSとの相性が非常に悪く、タイムライン上では埋もれてしまうんです」

後編記事『何をやっても「コナン」にボロ負け…「オリジナル作品は圧倒的不利」日本映画の《終わりの始まり》』では、二極化する日本映画界の現状について、引き続き関係者の声をお届けします。

【つづきを読む】何をやっても「コナン」にボロ負け…「オリジナル作品は圧倒的不利」日本映画の《終わりの始まり》