【中村 清志】鰻の成瀬とはココが違った…ココイチが《値上げ→大量客離れ》に苦しみながらも「閉店ラッシュ」が起きない不思議なカラクリ

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カレー専門チェーンの絶対王者「カレーハウスCoCo壱番屋」(以下、ココイチ)の様子がおかしい。「カレーはココイチ」と豪語する絶対的なファンたちを抱えながら、ここ最近の値上げと値上げ幅の高さからか、客離れが止まらないのだ。

それに伴って業績も苦しい状況が続いている。外食チェーンにとって、客数の減少は営業基盤の脆弱化を意味する。仮に値上げによる客単価の上昇で、その場の売り上げは確保できても、長期的に見れば、店の将来を支えてくれる顧客が消えれば、そこに成長などありえない。

「貴族の食べ物」とまで揶揄されるようになったココイチ――。いったいいつになったら、この長いトンネルを抜けられるのだろうか。

1年ぶっ通しで“客離れ”が続いていた

ココイチを展開する株式会社壱番屋は4月6日、2026年2月期通期決算を発表した。それによれば、売上高は655億円(前期比+7.4%)と増収を示した一方、営業利益は47億円(前期比−4.3%)と減益になっている。

財務基盤で考えると、自己資本比率こそ67.0%と盤石な状態を保ってはいる。しかしながら、経営効率の指標であるROE(自己資本利益率)を見ると、当期純利益が前年より−19.2%だったことが影響してか、2.1%も低下していることに注視したい。

同社としても、この結果を受けて、想定より経営が鈍化傾向にあることを危惧してのことだろう。来期(2027年2月期)を最終年度とする中期経営計画の下方修正も同時に発表している。

何よりも今回のココイチの決算発表で問題視されているのが、既存店の来店客数が戻ってこない、いわゆる“客離れ”の問題だ。

周知の通り、ココイチは原材料費や人件費、光熱費などの高騰を背景に2024年8月、値段の改定を実施。具体的にはベースとなるカレーを平均10.5%(+43〜76円)、トッピングを平均13.5%(+5〜50円)値上げしている。

もちろんココイチ側も客数減に歯止めをかけようと、アイドルやYouTubeとのコラボ企画やテイクアウトキャンペーン、積極的なTVCM宣伝など、さまざまな営業施策に取り組んでいる。しかし、この1年(2025年3月〜2026年2月)で客数が前年同月比を上回った月は11月の1回のみ。通期で3.5%減と、問題が解消される目途はいまだ立っていない。

ただ、見方を変えれば、業界トップのココイチですら太刀打ちできないほど、カレー業界そのものが深刻な状況に置かれている、とも言える。

「カレーショック」で業界全体が壊滅

帝国データバンクによれば、カレー店(インド料理店なども含む)の倒産件数は、2024年度(2024年4月1日〜2025年3月31日)に13件に達し、過去最多を更新したとある。前述したココイチの値上げ理由と同様、原材料費や光熱費の高騰が経営を圧迫しているほか、デリバリー特需の一服、他業態との競争激化が原因としている。

同じく帝国データバンクが調査している「カレーライス物価平均」を見ても、カレーを取り巻く環境の厳しさがよく分かる。2026年1月には、調査開始以降で最高値となる1食370円を記録。最新のデータとなる2月も364円と、いわゆる「カレーショック」の局面が続いている形だ。

さらに、追い打ちをかけるように、足元ではイラン情勢の悪化による原油価格の高騰も予見されている。食材はもとより、物流などの面でもコスト高騰は必至だ。

ここ最近になって、日本国内ではマクドナルドの店舗数すら上回ると言われるネパール人経営のインドカレー店、通称「インネパ」の閉店も相次いでいる。要因のひとつには、昨年10月に改正された入管法改正により、経営管理ビザの要件が厳しくなったことも挙げられるが、やはり「日本の物価高に堪えられない」と見るや、店を畳んでしまっているのが現実だろう。

ココイチに話を戻すと、同チェーンの原材料価格の仕入価格も驚くほど高騰している。前期比で約20億円も上がっている米を筆頭に、カレーソース、イカフライやチーズなどのトッピングはいずれも高止まりの状況だ。

ただ、ここで不可思議な点が浮かび上がる。客離れにあえぎ、コスト高にも苦しんでいながら、なぜ「ココイチ大量閉店!」といったようなニュースは一切報じられないのだろうか。

閉店ラッシュの「鰻の成瀬」と何が違う?

なぜココイチの店舗網は業界全体を襲う「カレーショック」にもビクともしないのか。その理由は、商品価値そのものと、独自のフランチャイズ(FC)制度に隠されている。

そもそも経営理念共同体としてのFCは、効果的に活用できれば、他人資源を用いて店舗網を拡大でき、大きな経済効果を発揮することができる。その一方で、直営店とFC店とでオペレーションにバラツキがあったり、本部からFC店に対してきめ細かな指導が無かったりなど、運用を間違えればすぐに閉店ラッシュに陥ってしまうのは自明の理。最近では、うなぎチェーン「鰻の成瀬」が悪い見本になったことは記憶に新しい。

その点、ココイチの場合、商品面と運営面で他社には模倣が困難な強みがある。

商品面では、ポークやビーフなど5種類のカレーソースと辛味の増減、さらに豊富な品揃えのトッピングで“自分好み”のカレーにカスタマイズができる点が挙げられる。どれだけ価格が高騰しようとも、この商品価値だけは揺るがないと考えられる。

その上で運営面では、店舗全体の約9割を占めるFC店に対して、積極的な支援策を取っている。独自の制度「ブルームシステム」は、加盟者を正社員として入社させ、安定した収入を得ながら、店舗のオペレーションや人材マネジメントなど経営ノウハウを叩きこませるというもので、これにより一定以上の質を担保しているのだ。また、加盟者側にも、加盟金不要、開業時の債務保証制度、独立後のロイヤリティ不要とメリットが多い。

つまり、双方が安心してFC運営に向き合うことができるというわけだ。実際、2026年2月期の国内の出退店実績は出店18退店16とプラス、店舗数合計は1200台を維持していることからも、いきなり閉店が続発するといったケースは今後しばらく考えにくいだろう。

そうなると、ココイチの目下の課題は、結局「どうやって値上げで失った客足を取り戻すか」に尽きる。もしくは企業として「ココイチ以外の事業でどう収益を上げるか」が選択肢として出てくるはずだ。

つづく【後編記事】『「ココイチ、パフェを買う」は正気なのか…満を持して“カレーの一本足打法”から卒業、その勝算は』では、カレーだけの「一本足打法」だった現状から脱却を目指そうとするココイチの将来性について分析する。

【つづきを読む】「ココイチ、パフェを買う」は正気なのか…満を持して”カレーの一本足打法”から卒業、その勝算は