彼氏の家のトイレ掃除までしていた会社員の妻が「45歳で課長代理になって人が変わった」という経緯
2026年4月1日、より、改正女性活躍推進法が施行される。具体的な内容は、従業員101人以上の企業は、管理職に占める女性の比率の公表が義務付けられる。また、男女間の賃金格差の公表義務対象が、現行の301人以上から101人以上の企業に拡大される。これにより、駆け込み昇進するケースも多いという。
女性のキャリア進出は、多様な意見を取り入れるためにとても重要だ。しかし、長時間労働が常態化していたり、家庭でのケアワークが女性に偏っているままに役職につけられるケースも少なくない。
キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんは、メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。「対外的なイメージアップを図るために、女性社員を急いで管理職に昇進させるケースが多いと感じます。しかし、日本社会は、家事・育児の負担が依然として女性に偏っている現状があり、さらに長時間労働が常態化していて、昇進した女性にさらに負担をかける形になりがちです。昇進により心を病んだり、ストレスから浮気に走るケースもあります」と語る。
学生時代は警察官を希望していたが、当時は身長制限があり、受験資格はなかった。一般企業に勤務するが、目の前の人を助けたいという思いは強く、探偵の修行に入る。探偵は調査に入る前に、依頼者が抱えている困難やその背景を詳しく聞く。山村さんは相談から調査後に至るまで、依頼人が安心して生活し、救われるようにサポートをしている。
これまで「探偵が見た家族の肖像」として山村さんが調査した家族のことをお伝えしてきたが、この連載「探偵はカウンセラー」は、山村さんが心のケアをどのようにして行ったのかも含め、様々な事例から、多くの人が抱える困難や悩みをあぶりだしていく。個人が特定されないように配慮しながら、家族、そして個人の心のあり方が、多くの人のヒントとなる事例を紹介していく。
今回山村さんのところに相談に来たのは、40歳の会社員・翔太さん(仮名)だ。「急に微妙な昇進をすることになってから妻の様子がおかしくなってしまった」と連絡をしてきた。
山村佳子(やまむら・よしこ)私立探偵、夫婦カウンセラー。JADP認定 メンタル心理アドバイザー JADP認定 夫婦カウンセラー。神奈川県横浜市で生まれ育つ。フェリス女学院大学在学中から、探偵の仕事を開始。卒業後は化粧品メーカーなどに勤務。2013年に5年間の修行を経て、リッツ横浜探偵社を設立。豊富な調査とカウンセリング経験を持つ探偵として注目を集める。テレビやWeb連載など様々なメディアで活躍している。
妻は多分浮気をしています
翔太さんから連絡があったのは、深夜0時でした。「妻がまた朝帰り確定です。多分浮気をしていると思うのです」と言うので、翌日の19時にカウンセリングルームでお会いすることに。
翔太さんはジャケットにパンツ姿で、学生のような面影があり、とても優しそうな方でした。システム関連会社の開発部門に勤務しており、物腰も柔らかい。「今、6歳の娘を親に見てもらっていて、できるだけ手短に話します」とおっしゃっていました。妻は水曜日か金曜日の夜に外泊をすることが多いそう。浮気をしていることを前提に、まずは、夫婦の背景から伺います。
「5歳年上の妻とは、結婚10年になります。出会いは、当時僕が出向していた、建築関連会社です。妻はここの社員で、備品の場所や休憩室の使い方など、会社のことを色々聞くうちに、親しくなっていきました」
妻は気が利いて明るく、容姿も美しい。翔太さんはたちまち惹かれていったそうです。
「付き合うようになってから、主にデートは僕の家でした。妻は実家暮らしだったので。でも、料理が上手で掃除や洗濯までしてくれる。風呂やトイレまでピカピカにしてくれるんですよ。なんでこんな素敵な人が、僕を気に入ってくれたんだろうと不思議に思っていました。交際半年目にプロポーズしたタイミングで、『実は8歳の息子がいる』と告白したのです」
翔太さんは驚きましたが、最も恋心が燃え上がっている時だったので、結婚に向かって突っ走ります。
仕事が猛烈に忙しくて家事も育児も妻まかせ
「親は大反対しましたが、押し切ってしまったんです。今思えばバカだったと思いますよ。結婚してから3人で暮らし始めたのですが、息子の方が『もう嫌だ』と妻の前夫のところに行きました。妻は、最も愛情が向いている人に、痒いところに手が届くような世話をする性格です。息子としては、それまで自分だけを可愛がってくれた母が、知らないオッサンの世話を焼いているのを見たくなかったんでしょうね」
その後、翔太さんと妻の間に、娘が生まれます。計画していなかったので、驚いたそうです。
「僕の仕事が猛烈に忙しいタイミングで、全くサポートできませんでした。娘が生まれたあたりから、妻は『私ばかりが家事と育児をしている』と怒るようになった。でも、僕は仕事が忙しすぎて、何もできない。それに、付き合うときにも家事を積極的にすべてやってくれていて、まさかこれだけ忙しい僕に家事育児をやってと言われるとは思っていなかったのも正直あります。
それに僕の方が給料が多いので、『俺が稼がなきゃどうにもならないだろう』と言ってしまい、言い争いになったことも。変な話ですが、僕と妻は体の相性がいい。雰囲気が悪くなっても、なんとかなってきたのは、そういう部分も大きいと思います」
超男社会の妻の会社で急遽課長「代理」に
妻が家事と育児を請け負っていた支えもあったからでしょう。翔太さんは順調に出世しました。
「1年前にマネージャーに昇進し、時間ができるようになったことと、妻の課長代理昇格が重なりました。妻が勤務する建築関連会社は、基本的に男社会で女性の管理職がほとんどいません。妻も『現場で働きたい』と考えていたので、いきなりの辞令は、明らかに法令を意識している。課長ではなく“代理”というのが、昔の会社っぽいですよね」
翔太さんは、いずれ管理職になることが当たり前の環境なので、上席の仕事やふるまいを見ながら無意識のうちにイメージトレーニングをしてきました。それに家事育児はほぼしていないので、付き合いもいくらでもできます。妻はその下準備がないまま突然中途半端に昇進し、かといって家事育児があって情報収集やコミュニケーションを取る時間もない。戸惑ったのではないでしょうか。
「多分そうです。管理職になれば給料も上がります。妻は結果を求められても出せない焦りがあったんでしょうね。休日、妻のオンラインミーティングを横で聞きながら、『そんな話し方をしたら、部下はついてこないよ』と思ったことも。妻は相手に嫌われたくないから、婉曲な言い回しをしたり、『自分だけが我慢すればいい』と思って仕事を受けすぎてしまう」
チーム全体の結果の未達率が高く、妻は自己嫌悪になり一時期、うつ状態になってしまったそうです。
「すぐにキレたり泣いたりする。不眠になり導入剤を飲んでいました。でも責任感はあるから、かなり無理して会社に行っていましたよ。家のこともできないから、僕がやるようになりました。ただ、2ヵ月ほど前から、妻は少しずつ明るくなっていった。思えば、その頃から浮気をしていたのかもしれません」
貯金200万円が使い尽くされている
妻は好きな対象がいると気持ちが盛り上がって元気になるところがあるそうです。
「そして、相手に貢ぐ。僕も昔、時計とかバッグとかいろんなものを買ってもらいました。『一流の男はいいものを持たないと』とチヤホヤしてくれるのです。全然話は変わるんですけど、今、初めて妻のことを人に話しています。話すと心が落ち着くんですね。泣きそうです」
人に話すことは、心の浄化作用、自己を客観視すること、感情の恒常性の回復ほか、プラスの作用が多いです。そして、翔太さんは深呼吸して、「本当に言いたくないのですが」と前置きします。
「実は、山村さんに電話した時、妻と僕の貯金200万円が使い尽くされていることがわかったのです。多分、男に貢いでいる。あと、妻は僕に暴力を振るっています。気に入らないことを言うと、モノを投げつけてくる。僕は弱虫だから手を上げられないんですよ。妻は、優しい時はいいのですが、荒れ狂った時が怖すぎる。最近は、僕だけでなく、娘にも矛先が向きました。先日、娘は妻が作った野菜炒めを食べ『パパのほうがいい』と言ったんです。すると、その皿をひったくって床に叩きつけた。娘は驚いて泣いていました」
まず、妻は本当に追い詰められているのだなと感じました。翔太さんはきっと、「家事育児を手伝う」ことはあっても、「絶対やらないとならないこと」とは一ミリも思っていません。付き合っていて子供がいないときから妻が一手にそれを自ら引き受けていたこともあって、翔太さんがそれがデフォルトになっていたことも理解できます。それでも、絶対に子どものためにご飯を用意する、掃除洗濯をする、子供の学校の世話をする。「絶対にやらねばならない」ことが家庭にあり、誰も自らその役割を担おうとしてくれない不安は想像できます。
ただ、妻はそのように追い詰められた背景に加え、元々、愛着障害などの心の問題を抱えていたのではないかと拝察します。それに加えて、管理職の昇進により、理想の自分と現実の自分が乖離し、自己愛性パーソナリティ障害のような状態になっているのではないかと感じました。
「妻は、他人からの評価をすごく求めるから、管理職にあまり向いていないんですよ。自分がデキる人でありたいタイプだし、能力が低い人を切り捨てるようなところがある。この半年くらい、妻のアップダウンに付き合って、僕も娘も疲れ果ててしまいました」
翔太さんの実家は自宅から電車で30分の都内にあり、「離婚して戻ってこい」と言われているそうです。
「両親は妻のことが嫌いです。子供という大切な存在を隠して交際する人間性だと決めてかかっています。父は『自分の利益のために嘘をつく奴だ』と避けています」
妻と妻の実家の関係について聞くと、「最悪です」と即答します。
「妻の母は仕事をしたかったのに専業主婦になったタイプで、働く女性への憧れがあった。だから長女の妻をエリートにするために、熱心に教育したのですが、現実はそれとかけ離れている。妻は僕との結婚をきっかけに、前夫との間の息子を手放した。義母はこの息子を溺愛していたので、原因となった僕を憎んでいます。でも妻も可哀想で、義母からよく『期待はずれ』『私は子育てに失敗した』など言われているんですよ」
妻は不適切な家庭環境で育っていると感じました。
「僕の実家は穏やかというか、平凡です。両親や姉が妻のように激昂するのを見たことがありません。今日、話して初めて思いましたが、僕は離婚したいのかもしれない。スムーズに進むように証拠を押さえてください」
◇困らせる人は困っている人、とはメンタルケアの世界でもよく言われることだ。抱えているトラウマをきっかけとして、他者への攻撃的な行動をしてしまうことがあるのだ。翔太さんの妻は、その気配も感じる。45歳だと、まだ「ケアワークは女性」が今よりなお当然とされていた時代だ。そこから時代が変わり、管理職に多様性がないと、多様な価値観で経営ができないことがわかってきた。しかし家事育児をフルでしたまま管理職がのっかってくるようなことであれば、「できない」となって当然でもある。時代の境目の中でもがいている妻の姿は、他人事と思えない人も少なくないのではないだろうか。
では妻は浮気をしているのだろうか。そして翔太さんはどのように決断するのか。調査の結果は後編「「45歳で課長代理になって人が変わった」妻に悩む40歳夫が目撃したこと」にてお伝えする。
