「マンガ大賞2026」を受賞した児島青『本なら売るほど』担当編集の「ハルタ編集部」淺井康平【左】とプレゼンターを務めた売野機子

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 誰かに勧めたい漫画を書店員をはじめとした漫画好きが選ぶ「マンガ大賞2026」が3月26日に発表となり、児島青がKADOKAWAの「ハルタ」に連載している『本なら売るほど』(KADOKAWA)が77ポイントを獲得して受賞した。2位は清野とおる『「壇蜜」』(講談社)が59ポイントで続いた。3位にはイシコ『邪神の弁当屋さん』(講談社)が58ポイントで入った。

【写真】「マンガ大賞2026」を受賞した『本なら売るほど』児島青が寄せた受賞記念イラスト

 「漫画家になった経緯が能動的ではなかったせいか、1巻を上梓して以来の反響の大きさに、喜び以上に何が起こっているのかという戸惑いを強く感じた1年でした。受賞の報を受け、その思いはいよいよ大きくなりましたが、そんな時、母が私にこう言ったんです。『よかったね。あんた小さい時、絵を描く人かお話を作る人か本屋さんになりたいって言ってたもんね』。私自身も忘れていた幼少期の夢を母が覚えていてくれたことに驚くとともに、図らずも『本なら売るほど』を描くことで、自分が3つの夢を一挙に叶えていたことに気づきました」

 1次投票の249作品から上位12作品に絞り込まれたノミネート作品の中で、最も支持を集めて「マンガ大賞2026」に輝いた『本なら売るほど』を描いた児島青が、編集者の淺井康平を通して伝えた受賞の言葉だ。十月堂という古本屋を舞台に本にまつわる様々なエピソードを拾い上げて漫画にしていった『本なら売るほど』の中で、1本の短編として描かれても不思議のない本にまつわるエピソード。その意味で、相応しい作品と相応しい作者に賞が渡ったとも言えそうだ。

 「能動的ではなかった」とコメントにあるように、児島青と『本なら売るほど』が世に出るまでには、編集者による熱心なアプローチがあった。「絵や漫画を描くSNSの中でひとつ話題になっていた作品があって、それを僕が読んでこれはすごいと思って、そのサービスを通じてメッセージをお送りしたのが始まりです」と淺井。他に仕事を持っていた児島に、「副業のひとつとして漫画家という選択肢を考慮に入れていただきました」と声をかけた当時を振り返り、そこからいろいろと話ながら作品を作っていった経緯を説明した。

 最初に読切作品が「ハルタ」に掲載され、続いて「本を葬送(おく)る」というシリーズの1編が当初は読切として登場。これが評判となり、他に長く連載する作品のテーマも決まらない中、同じ本をテーマにした短編が連作として掲載されるようになっていった。「読切で載った時、原稿を受け取った時の手応えとして『ああ、これは良い』という喜びがありました」と淺井も振り返るほど、面白い作品だったことが読者にも伝わった。「短期集中連載の時の読者アンケートで一番を取ったことで、この作品が読者に届いているんだなという実感が得られました」

 本や古本がテーマになった作品は小説やマンガを問わず数あって、ビブリオマニアと呼ばれるような本好きたちの関心を誘うような内容で熱烈なファンを持っている。この点について、『本なら売るほど』の場合は、「いわゆる本好きみたいな人だけじゃなくて、本に対して距離感がさまざまな人が出てくるというのが本作の魅力のひとつかなと思っています。自分はこの人に近いなと思ってもらえるとか」と淺井。こうした特徴が広い層の人気に繋がり、宝島社の『このマンガがすごい!2026』でオトコ編1位を獲得するような実績をあげてきた。今回もそうした間口の広さが幸いしたのか、様々な趣味嗜好を持つ漫画読みの選考員に広くアピールしたようだ。

 実際、取り上げられる本は実に多彩だ。中島らもの『ガダラの豚』や森茉莉の著作、諸橋轍次らが長い時間をかけて編纂した『大漢和辞典』に久世光彦『一九三四年冬-乱歩』、そして大友克洋の『童夢』までジャンルも体裁も問わず登場して、それぞれに関心のありそうな人を誘う。淺井によれば、「基本的には児島さんが読んできた本で、エピソードを考えてその中に登場させるならこの本かなというふうに選んでいらっしゃる」とのこと。時には描きたい本があってそれを元にエピソードを考えることもあるという。いずれにしても、作者が読んだり触れたりした本の遍歴を感じ取れるシリーズになっている。

 こうした、作中に登場する本の表紙がどれも緻密に再現されているのも特徴だ。当初から「最初に初めて作品を拝見した時に、どこかで連載をやっている方の絵かなと思うぐらい、人物も背景も描き馴れているというか、ある程度完成されていました」と淺井も驚いたほどの画力だったが、『本なら売るほど』の連載を通してますます磨きがかかっている様子。今回の「マンガ大賞2026」受賞を受けて描いたイラストには、『葬送のフリーレン』『ダーウィン事変』『これ描いて死ね』『君と宇宙を歩くために』『ありす、宇宙までも』といった近年の歴代マンガ大賞受賞作が、見ればすぐにそれと分かる絵で散りばめられている。

 そうした画力と、本をきっかけにして心を潤してくれるようなエピソードを探して紡ぐ物語力が合わさったところに生まれた『本なら売るほど』が、これからどのような展開を見せてくれるのか。まずは4月15日に刊行となる第3巻が楽しみだ。

■「マンガ大賞2026」の得票は以下の通り大賞『本なら売るほど』 児島青 77ポイント2位『「壇蜜」』 清野とおる 59ポイント3位『邪神の弁当屋さん』 イシコ 58ポイント4位『おかえり水平線』 渡部大羊 54ポイント5位『友達だった人 絹田みや作品集』 絹田 みや 53ポイント6位『怪獣を解剖する』 サイトウマド 50ポイント7位『路傍のフジイ』 鍋倉夫 48ポイント8位『サンキューピッチ』 住吉九 39ポイント9位『RIOT』 塚田 ゆうた 36ポイント10位『魔男のイチ』 宇佐崎しろ / 西修 33ポイント11位『人喰いマンションと大家のメゾン』 田中空 / あきま 30ポイント12位『妹は知っている 』 雁木万里 27ポイント

(文・取材・写真=タニグチリウイチ)