●『めおと日和』監督の持ち込み企画も
フジテレビの縦型ショートドラマアプリ「FOD SHORT」が、25年7月のリリースから好発進で推移している。モバイルアプリの調査会社「Sensor Tower」の調査で、25年12月から「ショートドラマ」ジャンルのアプリ収益とダウンロード数が国内パブリッシャーランキング1位となり、その後もトップを維持している。

海外市場の急成長をきっかけに動き出したこのプロジェクトは、なぜ独自プラットフォームという形を選び、どのような戦略でコンテンツを生み出しているのか。ローンチから半年のタイミングで、事業責任者の村上正成氏とコンテンツ責任者の荒井俊雄氏(いずれもフジテレビコンテンツ事業局)に、立ち上げの背景や制作の舞台裏、そしてその先に見据える“世界展開”まで話を聞いた――。

(左から)人気作品の『おとなの子〜先生とわたしの境界線〜』『BACK TO THE STORIES』(C)フジテレビ

○横で作ってきたノウハウでもっと面白いコンテンツを

FOD SHORTの構想が動き出したきっかけは、2023年後半に村上氏が捉えた海外市場の変化だった。中国でショートドラマが流行していることは以前から知られていたが、それが中国国内だけの現象で終わらず、アメリカでも明確に伸び始めていたという。

さらに、日本でもその兆しが見え始め、2024年初頭には、社内でもショートドラマに対する関心が高まりつつあった。「BUMP」や「ごっこ倶楽部」といったサービスが存在感を示していたこともあり、「これはうちでもやったほうがいい」と事業計画を作成した。

一方で、コンテンツ責任者の荒井氏は、ビジネス面とは異なる角度からショートドラマの可能性を感じていた。「人類は楽をしながら進化していく生き物なので、みんながスマホを持ち、日常的に縦画面でコンテンツを見る時代になったら、ドラマも自然と縦に最適化していくだろうと感じていました」という。

その中で、「今までフジテレビが横で作ってきたノウハウや知見を使ったら、もっと面白いコンテンツを作って社会に貢献できるのではないか」と発案。市場の立ち上がりを見た村上氏と、コンテンツ市場の余白を感じた荒井氏の意識が合致し、「FOD SHORT」のスタートへ大きく踏み出した。

○企画決定から配信スタートまで3カ月の作品も

ショートドラマ市場に参入する方法としては、既存のSNSや外部プラットフォームを活用する選択肢もある。実際、他局ではパートナー企業と組む形で展開する例もある中で、FOD SHORTが独自アプリという形を選んだのはなぜか。

村上氏は「やっぱり自分たちのプラットフォームでやらないと、コンテンツ展開の肝である視聴データが見えてこないので、勝負できないと思いました」と説明。フジテレビにはFODという既存の配信基盤があり、そのノウハウがあるからこそ、制作パートナーが参画しやすいという思惑もあった。

荒井氏は「FOD SHORTの強みは、FODにつながるプラットフォームであり、フジテレビという看板もあることなんです。だからこそ“一緒にやりたい”、“この場で力を発揮したい”と思ってくれる優秀な制作パートナーさんと組めているのだと思います」とメリットを明かす。

制作パートナーがFOD SHORTに魅力を感じる理由としては、作品の幅広さがある。中国型の手法をそのままなぞるのではなく、国内で先行する“不倫”“復讐”といったインモラルな路線一辺倒でもない。「とにかくいろんな作品をやっていかないと、勝ち筋が分からないと、村上と話し合って制作方針を決めました」と荒井氏は語る。

その結果、「王道なテーマがヒットしているように感じます」(荒井氏)。教師と生徒の恋愛を描く『おとなの子〜先生とわたしの境界線〜』、タイムリープして高校時代に亡くなった友人を助ける物語『BACK TO THE STORIES』など、地上波でも通用しそうなテーマが人気になっているという。

さらに、プラットフォーム側が少人数ゆえ、意思決定の速さも大きい。「“この企画はどうですか?”と相談されて、知らない人に“やっぱりダメです”となることがあまりないスタイルになっていると思います」と、方針が分かりやすい体制だという。

企画決定から配信スタートまで、制作期間は「一番短いものでいうと3カ月、大体半年ぐらい」(荒井氏)だといい、編成や営業、クライアントなど多くの関係者が関わる地上波GP帯の連ドラに対し、格段に速い。現在、FOD SHORTでは二桁を超える作品が同時に進行しており、この事業のスピード感を物語っている。

ただ、速く作ること自体が目的なのではなく、良いものを成立させるために、「判断を遅らせないこと」を重視している。

FOD SHORTに参加する監督やディレクターは、すでに縦型で結果を出している外部人材を招く一方で、地上波ドラマの経験者が“縦をやりたい”と参加してくるケースも出てきた。荒井氏によると、『監察医 朝顔』『波うららかに、めおと日和』などを手がけるフジテレビのベテラン監督・平野眞氏も企画を持ち込んできたという。

地上波4月改編の新番組では、組織やジャンルの枠を越えた制作体制が進んでおり、FOD SHORTとしても「ドラマ制作経験に限らず、新しいチャレンジを共にしてもらえる制作体制を目指してます」(荒井氏)という姿勢だ。

●従来と全く違う作り方も「根本は同じ」
約90秒のエピソードを70話前後積み重ねていく構成は、従来のドラマと制作手法が「全然違いました」(荒井氏)。手がかりを得るため、中国を含む先行事例の話を聞くと、「カットは絶対に2秒に1回は割る」といったテンポ設計や、“引っ張り”の作り方、ラストに効果音や視覚的なフックを入れる手法など、ショートドラマならではのセオリーが多くあったという。

それを参考にした上で、試行錯誤しながら制作。当然、結果が出なかった作品もあるが、「こういう作り方が縦型では当たる」という手応えを徐々につかみ、そこにたどり着くまでに約1年かかったそうだ。

撮影手法にも、縦型特有の工夫がある。機材自体は一眼レフなど制作体制によって異なるが、最大の違いは当然ながらフレームが縦になること。

撮り方には大きく二通りある。最初から縦画角で撮る方法と、横画角で撮って後から左右をトリミングする方法。横撮影の利点は、役者の位置が多少ずれても編集で調整しやすいことにある。

だが、最近は編集での負荷を考え、縦で撮るケースがスタンダードに。通常のドラマと同じように編集所でポスプロ作業を行っているが、映像チェックを編集所に入らずにデータチェックするなど、工夫もしている。

このように、従来のドラマと「似て非なるもの」ではあるが、荒井氏が強調するのは、形式が変わってもドラマの本質は変わらないということ。「ドラマを作るというのは人を描くということなので、人に共感をさせるという作り方は、横型でも縦型でも、従来のドラマでもショートでも、根本は同じなんです」と地続きにあると意識している。

ショートドラマは、しばしば“地上波ではできない表現”の受け皿として語られることがある中で、荒井氏は「僕らはレギュレーションとしては、地上波の倫理観を大切にしています」と明言。

タイトルやモチーフだけ見れば刺激的に映る作品もあるが、荒井氏は「尖ったもの、奇をてらったものがいいとは思っていません」とし、単純な刺激競争とは距離を置く姿勢を示す。だからこそ、縦型で生まれた企画がFODへ、さらに地上波へと広がっていく流れも想定し、IPを育てる苗床としても位置づけているようだ。

『あなたの遺伝子をください』

『バイバイフレンド』

『僕ら新宿2丁目で悪いことしてる』

(C)フジテレビ

○大規模オーディション開催、スター発掘の場にも

少人数体制で多数の作品を回しているものの、荒井氏は「だからといって作り方が簡略化されているわけではないです」と強調。脚本打ち合わせ、顔合わせ、そして撮影に入って段取り、リハーサルなど、基本的な工程は通常のドラマと同じ。映る範囲が縦で狭い分、美術などでコストパフォーマンスに工夫できる部分はあるが、作品としてのクオリティを維持する前提は変わらない。

ただ、限られた人数・日数でどれだけ撮り切るかが重要になっており、「1日にものすごい量を撮っています(笑)」(荒井氏)とのこと。役者側も、セリフを覚える負担が大きくなり、『サラリーマン山崎シゲル』に出演した小手伸也は6日間で撮影をやり切ると、「次は10日間じゃないと僕はできない!(笑)」と訴えたそうだ。

『サラリーマン山崎シゲル』(C)フジテレビ

そんな中で、俳優の発掘・育成の場としての役割も意識。今は地上波もNetflixも含め、ドラマコンテンツがあふれているが、主演を張れる人は限られる。荒井氏は「だからこそ、ここから新しいスターが生まれてほしいという話は、村上とも話していますし、各プロデューサーもそう思ってキャスティングしています」と力を込める。

先日には、約300人が参加する大規模なオーディションを開催。ショートドラマならではの高密度な現場は、若手俳優にとって高い経験値が積める効果的な機会になりそうだ。

●先駆者の中国系サービス超えも目標に
ローンチから半年で、国内発プラットフォームとして一定の評価を得たことについて、荒井氏は率直に「非常に良かったなと思います」と、胸をなで下ろす。立ち上げ時には不安も大きかったが、「自分たちが信じる道を突き詰めて進んできた」と、その成果を前向きに受け止めた。

その背景には、FODで蓄積してきた視聴データの存在も見逃せない。村上氏は「FODとFOD SHORTでは、好まれるジャンルがすごく近いです。なので、これまでのFODの視聴傾向を参考にしながら、制作陣にもフィードバックしています」といい、配信プラットフォームを持つ強みが、作品作りに還元されている。

FOD SHORTでは、オリジナルだけでなく海外作品も含め、毎週金曜日午前0時に新作を更新。VODサービスである以上、いつでも見られるが、それでもタイミングを固定しているのは、「“金曜日に新作が出るぞ”と覚えてもらうため」(村上氏)だ。

見られる時間は通勤時間帯が多いかと思いきや、実際には22時台がピークの傾向。平日昼12〜13時も高いそうだが、隙間時間だけでなく、就寝前の習慣として根付きつつあるようだ。

印象的なのは、事業開始前に中国のショートドラマの専門家から「テレビ局みたいなトラディショナルな(=昔ながらの)企業がやったら絶対に失敗します」と言われたエピソード。そんな定説を跳ね除けたことで、荒井氏は「これだけコンテンツを送り出してきたテレビ局のレガシーは、やはり大きなものがあるのだと再認識できました」と語る。

ただし、「僕らの目標は、決して国内サービスに限定したところでの一番ではないので、まずスタート地点に立てたなというふうに思ってます」と話し、その先には先駆者である中国系サービスを超えることも目標に掲げている。

○今春から海外進出、各国との共同制作も視野

独自アプリという形を選んだFOD SHORT。既存のプラットフォームであるFODとも別のアプリにしたのは、当初からグローバル展開を見据え、権利処理などのスキームを新たに設計していることが理由だ。

この春より海外からのアクセスも解放し、「将来的には、100カ国以上の国でサービスを展開していきたい。そのためには字幕が必要になるので、AIを活用して英語に限らず十何カ国語に対応すべく、今準備を進めてます」(村上氏)と明かす。

オリジナルや海外作品だけでなく、他社がIPを持つ日本のコンテンツも配信することで、「日本から世界に日本の素晴らしいクオリティのドラマを届けることができるようになりたい。日本のコンテンツを世界にどう届けるプラットフォームとして、日本の代表になりたいと思っています」と力を込めた。

さらにその先の展開として見据えているのが、各国とのローカルコンテンツ制作だ。村上氏は「例えば韓国の人と一緒に作ったり、タイで作ったりという形が、今後進んでいくのではないか」と構想。フォーマット販売ではなく、共同制作にまで踏み込む新しいモデルを目指している。

一方で、国内のショートドラマ市場にもまだまだ伸びしろがあると感じている。課金サービスということで、当初は40代以上がボリュームゾーンになると想定していたが、実際に開始すると20代が中心だった。

「その方たちは年を重ねていくので、どんどんパイが広がっていく」と期待を示す村上氏。スマートフォンという端末の前提が変わらない限り、この市場はさらに広がるとの見方を示し、「従来の横型画面のドラマも作りながら、縦型視聴の時間も作ることで、可処分時間を取っていきたい」と意欲を見せる。

制作面では、新しい挑戦も。もともと横型で撮る予定だった企画に対し、同時に縦版も試してみる取り組みをすでに進めていると明かす。完全に縦最適化されたものではないが、「脚本も含めて一回まずチャレンジしてみた」という段階。その先には、本格的な縦横同時撮影の作品も視野に入れている。