Photo: Shigeo Gomi / MUTEK.JP

11月20日(木)〜23日(日)の4日間にわたって開催された、電子音楽とデジタルクリエイティビティの祭典「MUTEK.JP 2025」。

毎年本格的な冬入りの前に開催されているこのイベントも、今年で初開催から10回目を迎えました。記念すべき節目の年に行なわれた今回は、渋谷「WWW」と「Spotify O-East」にて開催。国内外から20組以上の気鋭アーティストたちが集結し、連日最先端の音楽と革新的なパフォーマンスを披露し、観客を沸かせました。

電子音楽やメディアアートが大好きな人にとっては、今や“冬の風物詩”的イベントとして完全に日本に定着した感のあるMUTEK.JP。そんなひとりでもある筆者ももちろん参戦してきましたが、今年もアーティストたちの最先端パフォーマンスに度肝を抜かれたのは言うまでもありません。

今回はその感動と興奮を伝えるべく、その中でも特に筆者が感銘を受けたアーティストのパフォーマンスを厳選して、ご紹介したいと思います。

Alva Noto

Photo: Shigeo Gomi / MUTEK.JP

まずは、11月21日(金)にSpotify O-EASTにて行われたプログラム・Nocturne 1に出演したAlva Noto。Carsten Nicolai名義での故坂本龍一さんとのコラボレーションでも知られる彼は、ベルリンを拠点に活動する現代電子音楽の代表的存在です。

MUTEK.JPの常連出演者でもあるAlva Notoは、来日するたびに先鋭的な電子音と映像表現で日本のファンを大いに魅了していますが、今回もその圧巻のパフォーマンスは健在。「聴覚的宇宙生成論」に基づく「HYBR:ID UNI PARA」と題するパフォーマンスを披露しました。グリッチな電子音に加え、その音と対話するかのような映像に息を呑んだのはもちろんですが、筆者が今回最も感銘を受けたのは、その楽曲が放つものすごい音圧の重低音です。

Photo: Shigeo Gomi / MUTEK.JP

いわゆる音圧が高い重低音といえば、レゲエ/ダブなどベースミュージックのサウンドシステムをフルに活用したものが思い浮かびますが、Alva Notoの重低音はそれとは異なる、巧妙なサウンドデザイン由来のもの。科学的に計算され尽くした上で構築されるテッキーかつソリッドな重低音を全身で感じながら過ごす体験に酔いしれました。

Veses GT

Photo: Shigeo Gomi / MUTEK.JP

次に感銘を受けたのは、11月22日(土)に同じくSpotify O-EASTにて行われたプログラム・Nocturne 2に出演したVeses GT。実験的なオーディオヴィジュアル表現から現行のクラブサウンドまでを横断するこの日、Veses GTは間違いなく“現行のクラブサウンド”枠として、最も強い輝きを放っていました。

Veses GTは、2000年代のLAビートシーンにルーツを持つアメリカ人ビートメーカーのNosaj Thingと2010年代のエレクトロニックミュージックシーンで頭角を表したカナダ人プロデューサー/DJのJacques Greeneによるユニット。ポストダブステップをよりミニマルに洗練したようなクールな音楽性を打ち出す彼らは、デビューアルバム、ライブショー、映像作品を含む総合的なコラボレーションとして活動するコンセプト重視の姿勢で知られています。

Photo: Shigeo Gomi / MUTEK.JP

それだけに今回のパフォーマンスも映像表現と音楽表現を組み合わせたA/Vライブになると思い込んでいたのですが、蓋を開けてみてびっくり。まさかの映像なし、音楽のみで勝負するストロングスタイル。ある意味でMUTEK.JPらしからぬこのパフォーマンスに最初は呆気にとられましたが、実はそれが良かった。

シンプルな照明のみの舞台演出は、逆に音に没入できる空間作りの布石だった模様。時にベーシーにサウンドシステムを鳴らしたかと思えば、ミニマルなビートで会場を踊り狂わせる。彼らが表現するフロアライクなダンスミュージックが進行するにつれ、どんどん観客がフロアに集まり、最後にはみんながひとつになる。古き良きレイヴの匂いがする素晴らしいパフォーマンスでした。

∈Y∋ & C.O.L.O

Photo: Shigeo Gomi / MUTEK.JP

そして、最後に筆者的「MUTEK.JP 2025」ベストアクトといえば、Nocturne 1に出演した∈Y∋ & C.O.L.O。BOREDOMSやBoredrumの活動で知られる日本が世界に誇るアヴァンギャルドアーティストの∈Y∋とジェフ・ミルズの『Black Hole Trip』で驚異的な演出を担ったCOSMIC LABの中心人物C.O.L.Oによるこのユニットのパフォーマンスは、一言でいえば、圧巻。いや、それ以上のものでした。

約1時間のパフォーマンスのうち、3/4を占めたのはエクスペリメンタルが極まったドローン/ノイズとそれにあわせたアブストラクトな映像でした。ここまででもかなりアヴァンギャルドな内容でしたが、パフォーマンスに変化が訪れたのがライブ開始から40分が過ぎた頃。

Photo: Shigeo Gomi / MUTEK.JP

いきなりアフリカ発祥の電子音楽・シンゲリや高速ダンスミュージック代表格ガバを思わせるハイスピードでビートが連打されるエナジーフルな展開に。その暴れ狂うかのような音楽にあわせて、映像もどんどんサイケデリックになり、会場は完全にその摩訶不思議な世界観に飲み込まれた状態。しかし、この劇薬を投下するような演出により、その場にいた誰もが狂喜乱舞。ふと周りを見渡すと完全に悦に入った表情の人ばかりでした。

人間が考えつく限りの暴力的な音を1時間に詰め込んでメディアアートに仕上げた衝撃的なパフォーマンスは、毎年一度は必ず遭遇するMUTEK.JPらしい“感覚が醒めるメディア・アート・サイケデリア”決定版という感じ。終わった直後からすでにおかわりしたい気持ちになる中毒性が高いパフォーマンスでした。ガチで驚嘆と感動の嵐。おそらく一生忘れないと思います。

このように毎年参戦している筆者でも毎回新たな発見があったり、身も心も揺さぶられる体験を味わえたりするのがMUTEK.JPの大きな魅力です。はたして、次の10年にはどのような観客を刺激する新しい体験が待っているのでしょうか。今後も電子音楽とデジタルクリエイティビティが融合した表現の魅力をアップデートし続ける、ここでしか体験できないプログラムが提供されていくはずです。

今年もありがとう、MUTEK.JP。これからの10年もどうぞよろしくお願いします。

Source: MUTEK.JP