「一番茶荒茶生産量」までも静岡を抜き“日本一”奪った鹿児島…効率化・大量生産だけでない大躍進の秘密とは?
日本一を守っていた一番茶でさえ荒茶生産量を鹿児島に抜かれてしまった静岡。鹿児島がトップになったのは後発産地だからこその試行錯誤と多くの挑戦があったことが鹿児島での現地取材で明らかになりました。
これまで、お茶といえば“静岡”が定番でしたが、今その地位が揺れています。
2024年、静岡が65年間守り続けてきた「荒茶生産量日本一」が鹿児島に奪われました。これは茶業関係者にとって大変なショックでしたが、それでも味や香りなど品質の高さが自慢の一番茶の生産量は日本一を死守していてそれが唯一の希望でしたが…。先週発表された2025年の一番茶の荒茶生産量では、ついに鹿児島に日本一を奪われ、初めて2位となってしまったのです。
しかし、鹿児島が日本一に躍り出た秘密はそれだけではなかったのです。30年にわたる官民一体での“鹿児島茶ブランド”向上への取り組みがようやく実を結んだ結果でもあったのです。
(鹿児島県茶業会議所 光村 徹 専務理事)
「やらざるを得なかったというのが正直なところと思う。生産者もありとあらゆる努力はしてきたのかなと思っています」
鹿児島で茶の栽培が本格的に始まったのは戦後。明治時代には海外への輸出も行っていた静岡からは大きく後れをとっていました。そのため、まず直面した問題が認知度の低さ。
(鹿児島県茶業会議所 光村 徹 専務理事)
「お茶といえば静岡があり、京都宇治っていうのもありますけど、どうでしょう、鹿児島は後発産地なので。知っていただけないんです」
そこで、まずは鹿児島の茶を知ってもらおうとPRを行おうとしますが、ここで問題が起こります。鹿児島には静岡と同じく知覧茶・枕崎茶・種子島茶といったように産地ごとにブランドが存在したのです。
(鹿児島県茶業会議所 光村 徹 専務理事)
「どうしても茶業会議所という立場では特定の産地だけをPRするわけにいきませんので、『かごしま茶』ということでやるしかなかった。それぞれの産地は産地で頑張り鹿児島県内で作られたお茶は全て『かごしま茶』ですよと」
産地ごとにプライドや誇りがある中、まずは鹿児島として、茶を認知してもらわなければと考え“かごしま茶”という統一ブランドで“オール鹿児島”として戦うことにしたのです。
“かごしま茶”のブランドマークを作成し、日本や世界へPRすることを始めました。それが、今から30年も前のことです。
(鹿児島県茶業会議所 光村 徹 専務理事)
「統一的なものでないと認知は高まりません 鹿児島の表彰茶 値段にふさわしい品質を保っているそういうお茶にシンボルマークをつけお客様に認知してもらおう」
“かごしま茶”のブランドを確立させるため品質の向上にも力を入れ、全国茶品評会において、これまで21年連続で産地賞を受賞しています。その一方で、生産者が茶業を続けられるために早くから“儲かる茶”にも力を入れてきました。
(鹿児島県 農政部 特産作物対策監 大迫 公博さん)
「やはり農家さんが1円でも多くもうかるというところに、われわれとしては生産者の所得向上に力を入れるのが、もう基本だと思ってます」
そこに、急須で入れる煎茶にこだわる静岡とは決定的な方針の違いが生まれたのです。
(鹿児島県茶業会議所 光村 徹 専務理事)
「ドリンク原料大手の飲料メーカーのと契約栽培をして経営を安定させる」
お茶離れが叫ばれる中でも、需要が好調なペットボトルのお茶向けに生産を特化させたり、さらには。
(鹿児島県茶業会議所 光村 徹 専務理事)
「マーケティングの発想で、最近では抹茶ブームということで輸出品目として非常に伸びてます。そういう売れるお茶作りという点での取り組みですね」
世界的な抹茶ブームをうけ、その原料である“てん茶”の生産に舵を切るなど、需要が低迷する“煎茶”ではない茶の利用法を官民一体となり追及してきたのです。
さらに、“茶の品種”の面でも静岡とは大きな違いがあります。鹿児島県枕崎市にある茶の研究施設を訪ねてみると…。
(農研機構 吉田 克志さん)
「品種構成がかなり多様。これだけ多様であると、いろいろなお茶が作れる。ドリンク需要などでも対応できる。単純に大規模でやってるからではなく、品種面でも鹿児島県のものは優れて昔に比べると大きく進歩してますし、それらは鹿児島の茶業関係者のみなさんの努力だと思います」
2023年の静岡と鹿児島の茶の品種構成を見ると、静岡では「やぶきた」が91%と、ほぼすべてを占める中、鹿児島ではやぶきた以外の品種で4分の3に迫る勢いとなっています。多くの品種を栽培することで収穫期をずらすことが可能となり、長期間にわたり茶を生産することができるのです。さらに、鹿児島では半数以上の56.2%が病気に強い品種となっていて静岡の3.7%に比べ病気への対策もかなり進んでいるのです。
そして今、鹿児島が見据えているのは海外の市場。そこにで売れるための品種も次々と開発されています。
(農研機構 吉田 克志さん)
「こちらが新たに開発されたせいめい」
農研機構が鹿児島の生産者などと検討を重ねて誕生した「せいめい」。その特徴は…。
(農研機構 吉田 克志さん)
「お茶にした時の色が緑が鮮やかであるということ。抹茶などを作った時も色が鮮やかで、旨味が強いところになります」
すでに品種の段階から海外で売れる抹茶を一番に考えているのです。一方で、静岡では大部分を占める「やぶきた」は、古い品種だからこそのある問題を抱えているといいます。
(農研機構 吉田 克志さん)
「今の気候だと温暖化のことを考えると合致してない品種になるですから、病気の多発とか干ばとかで、あまり伸びないということが起きる可能性があります」
今後も心配される記録的な猛暑に、「やぶきた」に頼る静岡は、さらなる打撃を受けるかもしれないのです。しかし、静岡もこうした状況に何もしてこなかったわけではありません。ある明るい話題が…それは。
(静岡県 茶業研究センター 川木 純平さん)
「非常に生産者のためになる品種になると考えている」
菊川市にある茶業研究センターで待望の新品種が開発されたのです。
(静岡県 茶業研究センター 川木 純平さん)
「静岡県は、これから『しずゆたか』と『つゆひかり』の2つの品種に力入れを入れていきたいと思っている。こちらが『しずゆたか』です」
2024年誕生した『しずゆたか』の一番の特徴は収穫量の多さだといいます。
(静岡県 茶業研究センター 川木 純平さん)
「芽の数が多い分収量が多いということで、われわれの試験では『やぶきた』の2倍の収量が取れている」
『やぶきた』と比較しても違いは一目瞭然。葉のつく数が多く同じ面積で収量アップが見込めるというのです。さらに、今、重要視されている茶の色についても。
(静岡県 茶業研究センター 川木 純平さん)
「非常に青さがあり色のいい品種になります。『やぶきた』と比較しても青さが際立っているような品種です」
この「しずゆたか」は静岡県内でのみ栽培できる品種。これまでの2倍も収穫できるということで、生産量のアップや高齢化や後継者不足への大きな救世主になるかもしれません。
その一方で、今や茶の主戦場は世界になっています。世界的な抹茶ブームで、国内のてん茶生産量は5336トンと年々上昇していますが、中国での生産量も増えていて、一部報道では2025年の抹茶生産量は5000トンを越える見込みなのです。すでに国内の生産量を争っている場合ではなく、オールジャパンでの対応が求められているのです。鹿児島が見据えるのもそこだといいます。
(鹿児島県茶業会議所 光村 徹 専務理事)
「果たして世界からの需要に対して供給できるかというと、もう全然足りない状況です。では何が課題かというと。やはり労働力の確保です。国際的な競争になってしまいます。そこの部分の供給っていうのはしっかり責任を果たしていかなければならないというのが鹿児島の立場です」
静岡の茶の生産をどのように維持していくのか。そして、世界を相手に日本茶の存在感をどう示していくのか。産地ごとや茶業界だけでなく日本全体で考える必要がありそうです。
