刑務所「懲らしめ」から「立ち直り」へ 長期受刑者を収容する熊本刑務所の今 受刑者はどう受け止め 犯罪被害者は・・・
刑法が改正され、6月1日に、懲役刑と禁錮刑をひとつにした「拘禁刑」が施行されます。
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拘禁刑になると、刑務作業が義務でなくなり、受刑者の特性に応じた作業や指導を組み合わせる更生プログラムが導入されます。
新しい刑罰が設けられるのは明治時代以来115年ぶりというこの改正で、刑務所ではどんな変化が起きるのでしょうか。
「もっと苦しめと言われている」これまでの受刑者の心のうち
無期懲役の受刑者(80代)「お前は殺人を2回もやっているだから、もっと苦しめ、刑務所の中で苦しめということを俺は言われて生かされているんだと思っていますよ」
熊本刑務所は、殺人や強盗といった罪で長期刑を科された受刑者たちが収容されています。
入浴は週3日で1回15分、昼食は10分間ほどで、自由に体を動かせるのは毎日最低30分の運動時間だけです。刑務所での生活は厳しいものです。
無期懲役の受刑者(80代)「楽しみと言えば食事くらい。夏に冷やし中華が出たり、冬にカレーうどんが出たり」
そうした刑務所の在り方に変化が起きています。
「再犯防止」へ115年ぶりの法改正
熊本刑務所 大坪誠所長「拘禁刑は115年ぶりの法改正によって懲役刑と禁錮刑が一元化されて作られた刑罰。個々の受刑者の特性に応じた処遇をやっていく」
6月1日に拘禁刑が施行されることで刑務作業が義務でなくなり、その代わり受刑者に応じた更生プログラムが可能になります。
熊本刑務所 大坪誠所長「作業に従事しながら、ある時間帯はそこから離れて被害者の視点を取り入れた教育を受けるとか、一日の中で作業の時間と指導の時間を分けるとかそういうイメージ」
今回の法改正の目的は「再犯防止」です。
2023年に入所した受刑者の半数以上が、一度出所した後に再び刑務所などに戻った受刑者で、この状況は15年以上続いています。
熊本刑務所 大坪誠所長「懲らしめによって改善・更生が図られるのであれば、それで十分かもしれないが、受刑者が社会復帰する上では問題性を解決したり特性に応じた処遇を展開したりしないといけない」
「懲らしめ」から「立ち直り」へ
刑務所のあり方は大きな転換期を迎えています。
例えば、高齢化への対応もそのひとつです。穏やかな音楽が流れる部屋の中で折り紙やパズルをして過ごしているのは高齢の受刑者たちです。
熊本刑務所では服役している受刑者の3人に1人が65歳以上で、高齢の受刑者たちには認知機能や体力が低下しないようなプログラムが取り入れられます。
この他にも・・・
熊本刑務所 大坪誠所長「規律重視の処遇方法から対話による処遇への転換を図っている。リフレクティングもその一つ」
『リフレクティング』とは、受刑者がまず、自分の話したいことを2人以上の他者に話し、その後、聞き手同士がその感想などを話し合います。
受刑者は、その会話を聴くことで自分とは違う他人の考え方を理解したり、自分の考えを見つめ直したりすることができるというものです。
無期懲役の受刑者(60代)「自分が社会で起こしたことを誰にも話せないのが大きな負担になっている。それを話せるようになってものすごく気が楽になる。そういうやり方もあるんだそういう考え方もあるんだとわかるようになった」
2022年に名古屋刑務所で発覚した、刑務官による受刑者への暴行事件も変化のきっかけの一つで、こうして受刑者と刑務官が対等な立場で会話をすることも以前まではありえなかった光景だといいます。
「同じ人間として対等に扱ってくれている」
特徴的だった行進も見直され、受刑者を呼び捨てで呼ぶことも禁止されました。
無期懲役の受刑者(60代)「やっぱり同じ人間なんだな。対等に扱ってくれているんだなというのを感じます。」
熊本刑務所 大坪誠所長「受刑者が社会復帰するためには刑務所の中での取り組みだけでは不十分なところもあるので、 関係機関や社会の支援・協力が必要不可欠」
社会復帰の難しさ
中溝茂寿(なかみぞ/もとひさ)さん(59)
履歴書の中にできる空白が中溝さんを苦しめてきました。
中溝茂寿さん「面接に行っても、この期間何してたんですか?ニートしてました。え?その年で?と言われる。自分の名前で検索すれば色々事件が出てくるから受かってもバレたらクビですよ」
福岡市で受刑者の支援活動を行う中溝さん
かつて、覚醒剤の使用や傷害などの罪で8回の実刑判決を受け、あわせて20年以上服役した元受刑者です。刑務所の変化についてはどのように感じているのでしょうか。
カオサポート博多 中溝茂寿代表「今までの刑務所はただ懲らしめるだけ。変わるのが遅すぎる」
中溝さんは再犯を防ぐためには受刑者本人の更生だけではなく、出所後に生活できる環境を整えることも重要だと話します。
カオサポート博多 中溝茂寿代表「働く場所、住む場所があれば刑務所に行かなくて済むし再犯しなくて済む」
服役によって履歴書の中にできる空白期間が就職の大きな壁になります。これまでに多くの元受刑者をサポートしてきた元保護司の女性も、そのような実態を何度も見てきました。
元保護司の女性「働きの場がないとお金にならないので、それで結局昔の知り合いを頼ってしまって同じ罪を繰り返す」
女性は、これまでの刑務所内での生活と出所後の生活との差が大きすぎたことが、再犯防止に繋がらなかった原因の一つとして考えられると指摘します。
元保護司の女性「出所直後にうどん屋に連れて行くとフーフーして食べていいと?と言う。45~50歳くらいのおじちゃんがですよ。刑務所内で温かいものはなかったんだねと言うと、ないないと」
カオサポート博多 中溝茂寿代表「刑務所にいる時から流れを作ってあげる。スムーズに社会復帰ができるように。第二次・第三次の被害者を作らないために」
黒田裕美子弁護士「被害者の方は複雑な思いを抱くのがほとんどだと思う。被害者は終わらない被害を抱えて、ずっと時が止まったような状態であるにも関わらず、加害者の方が更生という未来に向けた取り組みを進めるというところについて思うところがあるという方の方が多いと思っている」
前田直輝記者「熊本刑務所の大坪誠所長は、被害者や被害者の遺族がそういった思いを抱くということは十分理解していると。ただ、その中でも再犯者率が高止まりしている現状があるので、何か手を打たなければいけない。再犯を一人でも減らすために何ができるか、どうすべきかということを考えながら日々仕事をしていると話していました」
――受刑者の受け止めは?
前田直輝記者「受刑者の中には、熊本刑務所には無期懲役の受刑者がいるので、拘禁刑になっても、出所するつもりはないから、あまり関係がないというようなニュアンスの話をしている受刑者もいました。被害者に対してどういったことを思いますか?と尋ねても、被害者に関しての話はなかなか出ないということはあったかなと」
黒田裕美子弁護士「結局、被害者としては加害者に刑務所の中で償いをしてほしいと思っているのがほとんどだと思います。被害者に対しての言及がないということであれば、やはり問題だと思っています」
――更生プログラムに実効性は?
黒田裕美子弁護士「大人ですと、これまでの人生経験が積み重なっている状況ですから、短期間の更生プログラムでどのくらい変わるのかというところは私自身は疑問に思ってしまう」
前田直輝記者「刑務所としては〝緩める〟という意識ではなくて、ひとりひとりに必要な処遇をしていく。作業が必要な人にはこれまで通りしていきますし、作業が身体機能・認知機能からできないという人は高齢者・福祉的な取り組みを進めるかたちになりますので、ひとりひとりに応じたやり方に重きを置くことになります」
