『黒執事 -緑の魔女編-』キービジュアル ©Yana Toboso/SQUARE ENIX,Project Black Butler

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 原作ファンにとっては「ついに来たか」と胸が高鳴る、待望の章の幕が開けた。シリーズの中でも屈指の人気を誇る『黒執事 -緑の魔女編-』(以下、緑の魔女編)は、鬱蒼とした森に潜む“人狼(ヴェアヴォルフ)”をめぐる重厚なミステリーを軸に、どこか妖しくも品のある空気感が凝縮された異色の一篇。アニメーションとしてはややショッキングな描写も含むが、耽美と陰鬱が共存する『黒執事』シリーズならではの世界観を濃密に体現しているエピソードのひとつといえる。

参考:渡部俊樹×榎木淳弥×武内駿輔×橘龍丸、P4が『黒執事』と共にあった“青春”を振り返る

 『黒執事』といえば、セバスチャンとシエルの主従コンビが物語の核だ。しかし、各章に登場する個性豊かなキャラクターたち、そして彼らに命を吹き込む声優陣の存在もまた、シリーズを語る上で欠かすことができない。「寄宿学校編」では、渡部俊樹、榎木淳弥、武内駿輔、橘龍丸が演じたP4たちが強烈な存在感を放ち、「豪華客船編」では鈴木達央が演じるドルイット子爵の怪演が場をかき乱した。「サーカス編」におけるジョーカー役・宮野真守の熱演もまた、物語の余韻とともに視聴者の記憶に深く刻まれているはずだ。

 そして、そうしたシリーズの積み重ねを経て迎えるのが、「緑の魔女編」だ。この章で中心に据えられるジークリンデ・サリヴァンは、人里離れた狼の谷に暮らし、村人たちからは“魔女”と恐れられている少女。若くして領主という立場にありながら、その佇まいは毅然としていて落ち着きがある。

 一方で、年相応の無邪気さや旺盛な好奇心もあわせ持ったサリヴァンは、村の男性が執事のヴォルフラム一人しかいないという環境からか、ときおり異性への関心をストレートすぎるほどに示すこともある。こうした、ふとしたところで垣間見えるズレや素直さが、サリヴァンの愛らしさでもある。だからこそ、多くの原作ファンにとってアニメ化における最大の関心事は、サリヴァンのキャスティングだったのではないだろうか。

 そして、このサリヴァンに釘宮理恵の声が重なったときの“しっくり感”は、言わずもがな。『ゼロの使い魔』のルイズ、『とらドラ!』の大河、『灼眼のシャナ』のシャナ--ツンデレ美少女の代名詞ともいえるキャラクターたちを演じてきた釘宮が、本作でもその実力を遺憾なく発揮している。もはや釘宮に「気丈で繊細な不器用な少女」を演じさせたら右に出る者はいない。本作ではサリヴァンの抱える外の世界への淡い憧れを、時に愛らしく、時にまっすぐに心に届く声で丁寧に描き出している。

 凛とした口調の奥に隠れた、年相応の脆さ。その絶妙なさじ加減に、思わず“ニヤリ”としてしまう場面も多く、中でも釘宮の代表作の一つである『ハヤテのごとく!』のナギが好きな人ならきっとハマるに違いない。

小野大輔×坂本真綾コンビに釘宮理恵が与えたアクセント 特に印象的だったのが、第2話のシエルとの部屋での対面シーン。ベッドの上で「甘いひととき」を想像していたサリヴァンが、セバスチャンを伴って現れたシエルに思わず誤解してしまうくだりは、釘宮の演技によって、クスッと笑ってしまうような可愛らしさと、彼女なりの覚悟のにじむ瞬間が巧みに表現されている。

 そして、誤解が解けたあとの「僕の知らない世界を聞かせてほしいのだ」という一言。その中に込められたまっすぐな知識欲と、まだ見ぬ世界への好奇心を、釘宮の声は過不足なく、しっかりと余韻をもって響かせてくる。

 だからこそ、サリヴァンの言葉にシエルが手を差し出す姿にも、自然と納得が生まれるのだろう。そもそも、小野大輔と坂本真綾という鉄板のコンビに、釘宮理恵が加わるこのシーンは、まさに眼福ならぬ“耳福”の極み。令和の今、平成アニメ黄金期を象徴するような顔ぶれが再び一堂に会するだけで、アニメファンにとっては何よりのご褒美と言っていい。

 『黒執事』にはこれまでも、強烈な個性と美学をまとったキャラクターたちが数多く登場してきた。そんな中にあって、サリヴァンは魔女でありながらも、釘宮の声によって不思議と親しみを覚える存在として際立つ。気高く、なのにどこか愛おしい。そんな“緑の魔女”に、私たちはもう魅了されている。(文=すなくじら)