世紀をまたいで里帰り、小田原の「チンチン電車」は“満100歳” ファン垂涎の電車カフェは小田原の密かな楽しみだ

かつて神奈川県小田原市内には、路面電車が走っていた時代があった。その電車は今でも、市内にあるカフェでマスコット的な存在として展示・活用されている。こうした電車を利用したカフェは、市内の2か所にあり、件の路面電車の廃線跡をトレイルしながら、”二つの電車カフェ”を気軽に巡ることができる。鉄道ファンのみならず、小田原ならではの隠れた楽しみ方のひとつだろう。廃線跡トレイル(歩き旅)と電車カフェを巡る食レポならぬ“電車レポ”へ、いざ出発進行!
※関連記事は、東海道線が「小田原」を通らない時代があった 100年以上前、わずか12年で廃止の「小田原馬車鉄道」を知る


※トップ画像は、かつて箱根登山鉄道(現・小田急箱根鉄道線)で活躍した登山電車「107号」。”鈴廣かまぼこの里”に併設される「えれんなごっそCAFE107」のマスコットとして活用される=2025年4月5日、小田原市風祭
路面電車「202号」
いつもなら廃線跡に遺された鉄道遺構を探さずにはいられないのだが、今回とりあげた路線は“いわゆる道路上(併用軌道)を走っていた”路面電車ゆえに、その後の道路整備や拡幅工事などで周辺状況は大きく様変わりしているので、その痕跡を探すことは不可能だろう。その代わりといってはなんだが、当時の路面電車が保存されていることを聞きつけ、出かけてみることにした。
でっかい提灯が出迎えてくれる小田原駅から箱根登山電車(小田急箱根鉄道線)に乗車し、ひと駅目の箱根板橋駅で下車した。改札を出ると駅前広場とでも言うのか、そこが妙に広いことに気づく。ここが小田原町内線(のちの市内線)と呼ばれた「チンチン電車」の停留場(始発駅)があったためだろうか。目の前を通る国道1号線に出て、小田原城方面に歩くこと15分、水色に黄色の帯をまとった可愛らしい路面電車が目の前に現れた。「箱根口ガレージ報徳広場」に設置されたこの車両は、かつて小田原市内を走っていた路面電車「202号」だ。
1925年生まれの“100歳”
この202号は、1925(大正14)年の生まれで、2025年で生誕100年を迎えた。最初は、王子電気軌道(のちの東京都交通局東京さくらトラム〔都電荒川線〕)で使用するために造られた車両で、1950(昭和25)年に箱根登山鉄道軌道線(路面電車)へ移籍してきた経歴を持つ。小田原では、1956(昭和31)年5月31日の廃線まで活躍した。
その後、長崎の路面電車(長崎電気軌道)へ同型の4両とともに嫁いだ。この202号は、長崎の地で2019(平成31)年まで活躍したが、老朽化のため引退。2020(令和2)年に、小田原の地に里帰りすることが決まり、2021(令和3)年2月に現在の場所に据え付けられた。なんとも幸せな路面電車なのだ。車体のカラーリングは、小田原市内線当時の色を再現している。


報徳広場に併設されたカフェ&グリル
路面電車ばかりに気を取られてしまったが、この広場には「きんじろうCAFE & GRILL」というお洒落な飲食店が併設されている。店名の“きんじろう”とは、言わずと知れた「二宮金次郎さん」のことである。以前は、小学校の校庭といえば「二宮金次郎像」が必ずあったものだが、昨今では見かけることが少なくなったとか。

広場に居合わせた観光客のほとんどが、おいしそうにカップに入ったソフトクリームを食べていた。気になるではないか。混雑する店舗の中へ入ってみると、ソストクリームだけではなく、グリル料理が楽しめる「カフェ&グリル」、スイーツを取りそろえた「パティスリーヒンナ」、それにフラワーガーデンの3店舗が同居していた。
このお店、小田原城址公園内に鎮座する”報徳二宮神社”の境内にある「きんじろうカフェ」の姉妹店なのだそうで、店内では何がいただけるのかとメニューを見てみる。モーニング(10:00〜11:00)、ランチ(11:00〜15:00)、カフェ(14:00〜17:00)とあり、モーニングがドリンクとスイーツのみ、ランチは地場食材などを使用したグリル料理、カフェタイムはパティスリーヒンナのケーキセットが味わえる。

パティスリーヒンナの“ヒンナ”とは、アイヌ語で「いただきます、ごちそうさま」という意味の”感謝を表す言葉”だそうで、ここのパティシエさんは北海道出身とのこと、なるほど納得。電車の車内も、イートインスペースとして開放しているとの由。素敵な空間だ。訪れたのは、ちょうどカフェタイムだったので、ゆっくり店内でコーヒーとケーキでもと思ったのだが、人気店ゆえに順番待ち。時計と相談した結果、次なる“ターゲット”にも行かねばと、そそくさと店をあとにしたのだった。
〔店舗情報〕箱根口ガレージ「きんじろうCAFE & GRILL」、神奈川県小田原市南町2-1-60、電話/0465-23-2881、営業時間/10:00〜17:00、定休日/不定休、予約不可。






廃線跡を辿って風祭駅へ
箱根ガレージ報徳公園から、目の前の国道1号線(東海道)を箱根湯本方面に向け、出発進行!!。このあたりの国道1号線は、路面電車が道路上を走っていた”併用軌道”だった区間で、まさしく小田原馬車鉄道、そして小田原電気鉄道の廃線跡である。残念ながら道路は整備、拡幅されており、当時を伺い知る鉄道遺構など期待できるはずもない。
歩き始めて5〜6分すると、目の前にJR東海道線と箱根登山電車のガードが見えてくる。その手前には歩道橋があり、そのたもとに何やら怪しき石碑を発見。よく見ると「人車鉄道 軽便鉄道 小田原駅跡」の文字が。このあたりには、路面電車の早川口停留場があったところだ。ん?、小田原駅?、と思ったが、かつてこの地から熱海へと向かっていた「豆相〔ずそう〕人車鉄道(のちの熱海鉄道※軽便鉄道線→大日本軌道小田原支社)」の駅跡を標す石碑だった。この鉄道も、熱海線(現・東海道線)が小田原駅から真鶴駅まで延伸開業すると、”競合区間”となったため廃止された。話が脱線すると熱海まで行ってしまいそうなので、豆相の話はここまで。

国道1号線をさらに進むと、東海道新幹線のガードがあり、そのまま歩き続けること12〜3分で箱根登山電車の箱根板橋駅に着いた。この場所から小田原駅まで路面電車が走っていたことを思うと、なんとも感慨深いものがある。さらに隣の風祭駅を目指し、歩みを続ける。廃線跡のうち箱根板橋駅のあたりは、のちに線路が付け替えられる(箱根板橋駅前へ乗り入れる)までは、東海道新幹線のガード手前にある板橋見付交差点から箱根湯本に向かって旧東海道を右に進んでいたので、箱根板橋駅前から先の国道は廃線跡ではなくなる。
しばらくして、登山電車の鉄橋をくぐった先に上板橋交差点があり、ここで再び旧東海道(廃線跡)は国道1号線へと合流し、併用軌道となる。そのまま直進すると小田原厚木道路の高架下あたりで旧東海道は右に逸れる。この地点から廃線跡は旧東海道に入ることなく、国道1号線とも分かれて、左に逸れるかたちで”専用軌道”と呼ばれる線路専用の軌道敷に入る。
専用軌道となった廃線跡は、付近を流れる早川の右岸(下流を背にして)を突き進むのだが、このあたりも区画整理や宅地造成などによって、当時を伺い知ることはできない。線路がどこを通っていたのかなど、もはや解明不能である。国道1号線に戻ると、このあたりは国道と箱根登山電車が並走しており、まもなく風祭駅だ。そうこうしていると、国道沿いの左手に”オレンジ色の登山電車”が見えてきた。
国道1号線沿いに保存される登山電車まで、”箱根登山電車”を利用して行く場合は、風祭(かざまつり)駅が下車駅となる。駅のホーム中程にある改札を抜けると「鈴廣かまぼこの里」が目の前に現れる。その建物内にある”鈴なり市場”を通り抜け、国道1号線に出て左手に視線を向ければ、オレンジ色の電車が見える。

鈴廣かまぼこと登山電車のコラボ
引退した”箱根登山電車”が出迎えてくれる「えれんなごっそCAFE107」は、”鈴廣かまぼこ”の直営店舗だ。“えれんなごっそ”とは、小田原の方言で「いろいろなごちそう」を意味するそうだ。この”電車カフェ”のほかに、同じ敷地内の別棟にはレストランもあり、そちらではブランチやランチが楽しめる。とはいえ、せっかく登山電車が目的で来たのだから、わき目も振らず”駅に佇む登山電車”をイメージした「CAFE107」へ、いざ入店。
注文は、テラスに面したカウンターで、と案内された。イートインスペースは、店内、テラス、電車内と3箇所あり、プラットホームに見立てたテラス席も良いが、ここはやはり電車の中で箱根ビール(クラフトビール)をいただくことにした。このビールは、鈴廣自慢の地ビールで、“鈴廣かまぼこの里”にある醸造所で毎日造りたてが提供される。「箱根ピルス」、「小田原エール」、「季節のビール」の3種類の中から“箱根ピルス”をチョイス。“アテ”は「かまぼこピンチョス」。そうそう、カフェ107の“107”とは、この登山電車の名前(車両番号)「モハ1形107号」から名付けられたもので、これにちなみ“かまぼこピンチョス”は107種類もあるそうだ。その中から日替わりで3種類が選ばれ、セットになって提供される。



アルコールが苦手な方や甘党の方にオススメなのが、箱根登山電車をモチーフにした手作りケーキ、その名も「箱根登山ケーキ」。”CAFE107”だけで味わえるオリジナルスイーツだ。そのほかにも、 小田原の名水「箱根百年水」を使用したブレンドコーヒー や、かまぼこの焼きたてホットサンド、鯵カツバーガー(土日限定)、蒲鉾が入った手作りパン(平日限定/シーセージ焼きパン、シーセージ揚げパン、ちくわパン)などもある。


心地よく酔いもまわってきたので、周りの目を気にせず!?登山電車をじっくり見学させていただいた。”撮り鉄三昧”である。その一心不乱に撮影する姿は、友人に言わせると挙動不審者“だと、からかわれた。さてさて、気のすむまで撮影ができたので、身も心もお腹いっぱいである。ごちそうさまでした。
〔店舗情報〕えれんなごっそCAFE107、神奈川県小田原市風祭50、電話0120-07-4547、営業時間/10:00〜17:00(ラストオーダー16:30)、定休日/なし(1月1日は休み)、テイクアウトなし(イートインのみ)。






文・写真/工藤直通
くどう・なおみち。日本地方新聞協会特派写真記者。1970年、東京都生まれ。高校在学中から出版業に携わり、以降、乗り物に関連した取材を重ねる。交通史、鉄道技術、歴史的建造物に造詣が深い。元日本鉄道電気技術協会技術主幹、芝浦工業大学公開講座外部講師、日本写真家協会正会員、鉄道友の会会員。
