※この記事は2021年07月15日にBLOGOSで公開されたものです

4回目の緊急事態宣言。いまだ収束しないコロナ禍の中、職場のテレワークが呼びかけられている。その一方で本社機能を都心から地方に移そうという動きも見え始めており、中でも注目を集めているのが大手芸能事務所「アミューズ」だ。

同社は今春、東京・渋谷から山梨県へと本社機能を移すことを発表していたが、山梨県の富士山麓は富士五湖の一つ、「西湖(さいこ)」のある南都留郡富士河口湖町に「アミューズ ヴィレッジ」を新たに設立。

7月からマネジメント事業など一部はこれまで通り東京に残しつつ(本社として利用してきた渋谷区桜ヶ丘のインフォスタワーの7フロアを半減)本社機能を完全に移した上で本格的に稼働を開始した。

東証一部上場の芸能事務所

アミューズと言えば芸能事務所としては唯一の東証一部上場企業として知られている。

1978年に、大手芸能事務所の渡辺プロダクションでマネジャーだった現会長の大里洋吉氏が独立して設立したのがスタートだった。大里会長について古参の芸能関係者が言う。

「渡辺プロ時代で最も知られているのがキャンディーズの2代目マネジャーだったことです。キャンディーズの解散コンサートでは総合演出も手がけたほどで、解散後には全キャン連(全国キャンディーズ連盟)の発足、運営などにも関わっていました。

独立してからアミューズを設立したわけですが、最初はシンガーソングライターの原田真二のデビューに関わり、その後、サザンオールスターズや嘉門タツオなどを手がけるなど、マネジメント能力を発揮してきました。

さらに、音楽ばかりではなく映画や香港、中国などアジア進出にも積極的で、映像会社のアミューズピクチャーズ、アミューズシネカノンなどの劇場も設立。桑田佳祐を監督に起用して映画『稲村ジェーン』を製作し、公開年の1990年邦画4位の大ヒットとなりました。福山雅治も今でこそアーティストとして人気ですが、実は映画俳優のオーディションで発掘したのです」

現在は、サザンオールスターズや福山を筆頭に宮本浩次(エレファントカシマシ)、BEGIN、Perfume、BABYMETALから大谷亮平、市毛良枝、富田靖子、上野樹里、仲里依紗、吉高由里子まで幅広く手がけ、300組を超えるアーティストやタレント、俳優が所属している。

コロナ禍でイベント激減 売り上げに大きな影響も

しかし、このコロナ禍の中で売り上げは大きく減少した。2019年の売り上げ(連結)は600億円以上あったが、2021年3月期の決算を見ると前年度を32.3%も下回る398億3900万円だった。

「コンサートや舞台公演などの開催を自粛したことで、どうしても減収は避けられませんでした。このため営業利益についても前年度比で30.7%減となっています」(関係者)

こうした事務所を取り巻く情勢が、本社機能移転に拍車をかけたのは言うまでもない。

「社員とアーティストを合わせて600人以上の大所帯になります。大里会長は常日頃『事務所を守っていくのは大変だ』なんて言っていましたからね。最終的には大里会長と奥さんである相談役の2人の意向が強かったと思います。

インターネットの発達もあって東京に事務所を置く必要がなくなったことが大きな要因ですが、山梨県の長崎幸太郎知事が誘致に積極的だったことも弾みになったのでは」(業界関係者)

ちなみに、同社の公式サイトでは移転の目的について、「心身の浄化」「自然との共生」「常時接続からの解放」などを挙げている。

山梨県西湖へ本社移転のナゾ

富士山麓の河口湖畔には、かつて滞在型のレコーディングスタジオがあり、そこではサザンオールスターズが合宿やレコーディングを行ってきた。それだけに大里会長にとっては「ここを拠点にすることは長年の夢となっていた」とも。

今回、創設された「アミューズ ヴィレッジ」は敷地面積が約8800平方メートルもある。もっとも、建物は新しく建てたわけではなく大型ホテルのレイクホテル西湖を再利用する形で使用している。

「ホテルは学生の合宿やインバウンドの客が主だったようですが、コロナ禍の中で経営が行き詰まり昨年9月に閉館したと言います。そのホテルを今回、賃貸契約する形で有効利用することになったわけです。

施設は屋外エリアと屋内エリアを複合したもので、執務室や会議室、食堂などがあり、本館部分は宿泊施設として活用し、さらにスポーツ合宿用として使っていた体育館はレッスン場の他、各種撮影や編集ルーム、多目的ルームなどに改修しています」(音楽関係者)

それにしても…。

「山梨県は都心と山梨、仕事と生活という〝2拠点居住〟を推進していたため、アミューズの本社移転は願ってもないものだったでしょう。しかし、いくら河口湖インターチェンジから西湖まで車で30分以内の距離だとしても、なぜ、移転先が西湖だったのか?その真意が分かりません」(プロダクション関係者)

などといった声もある。

実際、今回の本社機能移転に対して業界内からは、

「確かに魅力を感じる社員もいるかもしれません。県からの補助も期待出来るし、何より税金も安く済む可能性があります。しかし、会社は良くても社員にとって現実はそんなに甘いものではないはず。究極のリストラでは」 なんて声まで出てくる始末だが、その移転の裏側について、ある音楽関係者は「クニマス」を、その理由に挙げる。

「西湖への移転は、もちろん理想の物件が見つかったことが大きかったとは思いますが、それ以上に、本社の裏側の渓流が貴重なクニマスの産卵場になっていることでしょう」

絶滅危惧種「クニマス」の里で自然との共生 イメージアップ狙ったか

クニマスは、環境省のレッドリストで「絶滅」扱いになっていた日本固有の魚だ。その魚が西湖に生き残っていたのだ。

「発見したのは、何と東京海洋大学名誉博士でタレントとしても活動しているさかなクンです。京都大学からクニマスのイラスト執筆を依頼されたさかなクンが、その参考のために西湖から近縁種であるヒメマスを取り寄せたことがキッカケとなったんです。

取り寄せたヒメマスの中から、さかなクンがクニマスに酷似した個体を発見。京都大学で解剖や遺伝子解析を行った結果、クニマスであることが判明しました。絶滅前に田沢湖(秋田県)から西湖に送られてきた卵から生まれた稚魚が生き延び、交配を繰り返していく中で生息するようになったのではないかと見られています」

今、各企業を中心に「SDGs(持続可能な開発目標)」が叫ばれている。

「SDGs」は6年前の2015年に国連サミットで採択されたもので、翌2016年からは国連加盟193ヵ国が2030年までの15年間に達成することを掲げている。

「おそらくアミューズは、芸能事務所としていち早くSDGsに取り組む姿勢を示しているのだと思います。今回の本社移転の狙いの中に『自然との共生』を掲げたのも、そう言った同社の動きを示しているのだと思いますね。

SDGsを掲げ環境保護を訴えるものとして絶滅種だったクニマスの存在はインパクトが大きい。当然、マネジメント会社としてのイメージ戦略にもなります。もちろん昨年7月に亡くなった俳優の三浦春馬さんのことも、その一端として背景にあったとも考えられますが…」(業界関係者)

人材派遣の大手「パソナグループ」も、本社機能を淡路島に移し、2024年までに従業員の1200人を異動させることを明らかにしている。コロナ禍の中で、今後「東京脱出を目指す企業が続出するのではないか」との予測もあるだけに、今回のアミューズの本社移転が大きな起爆剤になるか注目されるところだ。