半導体メーカーは出荷してますと言うのに、デバイスメーカーは足りないと言うのはなぜなのか(笠原一輝)
半導体が不足している、そう言われ始めてから1年以上が経過している。事の始めは、昨年のコロナ禍の初期の混乱の中で、東南アジアにある後工程(ウエハーと呼ばれるシリコンの板からチップを切り離した後、パッケージなどに封入する工程のこと)の工場などが閉鎖になり、サプライチェーンに遅れが生じて徐々に出荷までのリードタイムが長くなったからだとされている。
半導体ビジネスは高度にグローバル化されているため、どこか一か所が詰まってしまうと全体が大混乱に陥るのは、これまでも前工程の工場が集中する東アジアに災害が発生したときなどに繰り返されてきた。
そうした半導体不足は、スマートフォン、タブレットやPCといったクライアントデバイスの生産や出荷にも影響を及ぼしており、メーカーにとっては部材の入手が追い付かず、生産が滞って、納期が延びていっているところもある。
だが、そうしたデバイスを生産するために必要なSoC(System on a Chip)を提供している半導体メーカーに聞いてみると、サプライは十分ではないが約束した分は提供できていると説明するところが多い。であるのにも関わらず、デバイスメーカー側が「半導体不足のため」と言っている例が多いのは、なぜなのだろうか? それともどちらかがうそをついているのだろうか……。
デバイスメーカーが言う「半導体が足りない」は「SoCが足りない」と同義ではない
結論から言えば、どちらもうそはついていない。もちろん、本当はうそをついている場合もあるのかもしれないが、現状を冷静に見つめてみると、どちらかがうそをついているのではなく、両方とも本当の事を言っているが、出荷できなくなる要因は1つではないため、そうなっているという状況なのだ。
具体的にどういうことかと言うと、スマートフォンにせよ、PCにせよ、利用されている半導体はSoCだけではないということ。例えば、スマートフォンやPCの機能は、SoC(System on a Chip)の機能で実現されている。AppleのiPhoneならApple自社のA15 BionicなどのAシリーズのSoCが採用されており、ソニーのXperiaならQualcommのSnapdragon 8 Gen 1などのSoCが採用されている。そのため、半導体が足りずにスマートフォンが出荷できないのであれば、iPhoneであればAシリーズのSoCが足りないということだと考えられるし、AndroidスマートフォンであればQualcommやMediaTekなどの半導体が足りないということになる。

Appleの場合は自社生産であり、その供給状況などについて同社は何も発表していないため、それについて正確なことがわかるのはAppleだけだ。では、仮に足りないということが発生しているならどういうことが起きているのだろうか?
Appleは設計までは自社で行い、製造は受託製造を行うファウンダリー(Foundry)と呼ばれる半導体メーカーに委託して生産を行っている。Appleの場合は、TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)に委託して製造を行ってもらっている。
現状で、TSMCのトップカスタマーはAppleとされており、新しい製造技術のラインはほとんどAppleが押さえてしまっているような状況とされており、Appleの製造キャパシティーは同社が必要とすると分を満たしているという。したがって、仮にApple製品が、SoCが不足して製造できないのであれば、Appleの予想以上に需要があったためと考える方が妥当だろう。
繰り返しになるが、AppleはAシリーズの製造計画も、実際の製造状況なども公開していないので、何が本当なのかはAppleにしかわからない。
SoCのサプライは十分でも、基板上の周辺チップが1つでも足りないと製造できない

では、Androidスマートフォン用の状況はどうかと言えば、Qualcomm 上席副社長 兼 Mobile, Compute and Infrastructure (MCI)事業本部 事業本部長 アレックス・カトージアン氏は、昨年の12月に行われたSnapdragon Tech Summitにおいて「われわれの製品、特にハイエンド製品に関しては大きな遅れはなく出荷できている。ただし、製品の周辺部分のチップなどに一部遅れがあり、その結果メーカーがスマートフォンを製造できないという状況が発生している」と説明する。
実はこのカトージアン氏の言葉こそが、現状の状況を一番明快に説明しているのだ。
というのも、スマートフォンやPCにはSoC以外にもさまざまな半導体が搭載されている。メインメモリになるDRAMや、ストレージになるNAND型フラッシュメモリはその代表だが、それだけでなく基板の省電力を管理するPMIC(Power Management IC)や電源回路などもアナログ半導体などから構成されている。SoCやDRAM、フラッシュメモリのようなわかりやすいパーツだけでなく、そうしたPMICや電源関連のアナログ回路などがなければ、スマートフォンやPCの基板を製造することができず、製造が止まってしまう、実はそうしたことがそこかしこで起きている。

例えば、Intelは昨年の11月に販売開始した第12世代Coreプロセッサ(開発コードネーム:Alder Lake)のデスクトップPC向けで、DDR5 DRAMという新しい規格のDRAMのサポートを開始した。ところが、新しい第12世代CoreのCPU自体と、DDR5用のマザーボードは出そろっていたのだが、DDR5のメモリモジュールはなかなか供給が追い付かず、入手が難しいという状況が続いていた(現在は価格の高騰はあるが、徐々に入手性はよくなりつつある)。
メモリモジュールメーカーの関係者によれば、その要因はDDR5のDRAMチップそのものの供給が追い付かないのではなく、DRAMモジュール上に搭載されているPMICだったそうで、これも言ってみれば半導体不足の影響の1つなのだ。
このように、半導体が足りないと一言で言っても、それはSoCが足りないのか、メモリが足りないのか、PMICのような周辺チップが足りないのかなどさまざまな要因が考えられるのである。現代のデジタル機器のサプライチェーン(部品供給の連鎖のこと)は複雑な経路で成り立っており、それは1つでも破綻すると、最終製品の出荷延期という形でユーザーに跳ね返ってくることになる。
短期的には今年いっぱいは混乱が続く可能性はあるが、徐々に解消に向かう
それではこの混乱はいつまで続くのだろうか? 短期的には年内一杯と説明する半導体メーカーの幹部は少なくない。前出のQualcommのカトージアン氏はミッドレンジやローエンドに関しては需要に応えられていない事もあることは認めたが、それも今年の半ば頃からは徐々に解消に向かうと説明している(2021年12月上旬時点の話)。そして、PMICや電源回路に使うアナログ半導体などの欠品も徐々にではあるが、解消されつつあり、今の半導体不足の状況は徐々に改善に向かって動き始めている。
新しい半導体工場を建てる計画を相次いで発表されていることからもわかるとおり、ファンダリービジネスで業界首位のTSMCと2位のサムスン電子はいずれも米国に巨大な工場を建てる計画を昨年発表したし、TSMCは日本の熊本にも工場を建設することが報じられ話題を呼んでいる。

また、ファンダリービジネスに参入することを昨年に発表したIntelは、今年から既存の22nmプロセスルールのラインを利用して顧客向けの製造を開始し、2023年後半にはIntel 3と呼ばれる他社の3nmに相当する製造技術をファウンダリーの製造に利用し始め、2024年の後半にはIntel 18Aという他社の1.8nm相当の技術を前倒しして投入することを明らかにしている。加えて、米国オハイオ州とEUのどこか(現時点では場所は明らかにされていない、今年中に発表予定)にも新規工場を建設する計画も明らかにされており、製造キャパシティーは大きく増大することになる。
Intelが本格的にファウンダリービジネスに乗り出し、製造技術の開発を前倒しすることで、最先端のファウンダリービジネスの市場はTSMCとサムスンの2強から、Intelを加えた3強になっていくと考えられる。
今は超売り手市場のファウンダリービジネスが、今後は買い手市場になるかもしれない。そういったことも想定されるだけに長期的で見れば、需要と供給のバランスがとれていくという意味でも徐々に半導体不足が解消に向かって行く可能性が高いと言える。
