長命であり社会的な生き物でもある人間は「将来のために今の満足を我慢する」という自制心を進化の過程で発達させてきましたが、無脊椎動物であるイカも人間と同様の自制心を持っていることが実験で示されました。全く異なる2つの種が同様の知性を持っているということは、「生物の知性」というより大きな視点において、非常に興味深い結果だと研究者は見ています。

Cuttlefish show their intelligence by snubbing sub-standard snacks | University of Cambridge

https://www.cam.ac.uk/research/news/cuttlefish-show-their-intelligence-by-snubbing-sub-standard-snacks

Cuttlefish exert self-control in a delay of gratification task

https://www.repository.cam.ac.uk/handle/1810/316950

This surprising cephalopod challenges our understanding of human evolution

https://www.inverse.com/science/cuttlefish-reveal-evolutionary-basis-of-self-control

Cuttlefish can pass the marshmallow test | Ars Technica

https://arstechnica.com/science/2021/03/cuttlefish-can-pass-the-marshmallow-test/



マシュマロ実験は1960年代後半から1970年代前半にかけて、アメリカのスタンフォード大学の研究チームがマシュマロを使って子どもたちの自制心を測り、子どもたちの将来の社会的成功との関連を調べるという目的で行った研究です

マシュマロ実験を簡単に言うと、4歳から6歳の子どもの目の前にマシュマロを置き、「このマシュマロを15分間食べずにいたらもう1つマシュマロをもらえるよ」と伝えて部屋に1人にするというもの。マシュマロ実験は「より多くの報酬をもらうために自制する力」を測るものであり、追跡調査の結果、2個目のマシュマロをもらえた子どもは後に社会的に成功しやすいと研究者は結論付けました。

マシュマロ実験の結果は後に否定されており、以下から実験やその後の詳細を読むことができます。

子どもの自制心が将来を左右するという「マシュマロ実験」が再現に失敗、自制心よりも大きな影響を与えるのは「経済的・社会的環境」 - GIGAZINE



これまでの研究でマシュマロ実験は人間だけではなく他の動物に対しても行われ、実際にカラスやチンパンジーは自制心があると示されています。一方で新たな研究では、イカもマシュマロ実験に成功したとのこと。無脊椎動物であるイカが自制心を示したことは驚きだと研究者は述べています。

もちろん、イカの場合は実験にマシュマロを使ったわけではありません。論文著者の1人であるケンブリッジ大学の生物学者であるアレクサンドラ・シュネル氏はヨーロッパコウイカの個々の味の好みを調べた後、最も好きな味のエサを「自制心を示した後の報酬」、2番目に好きな味のエサを「すぐに食べられる報酬」として設定して実験を行いました。



この結果、イカは自分の一番好きな餌のために目の前のエサを我慢できること、そして我慢できる時間は50〜130秒であることが判明しました。

この研究結果は非常に興味深いものだと研究者はみています。人間がより大きな報酬のために目の前の報酬を我慢できるのは、自制心が、社会的な絆を強めより長く生き延びる「将来」のために役立つからだと考えられています。またチンパンジーやカラスが同様の行動を行えるのも、エサを貯蓄し社会的な絆を強めるという「将来」のためです。

一方でイカのような無脊椎動物の寿命は3年と比較的短く、道具を使ったり、エサを蓄えたり、社会的な絆を強化したりする種ではありません。

「なぜ自制心が発達してきたのかという私たちの理解はこれまで『長寿の社会的な生き物』に関連した進化圧力に基づいてきました」とシュネル氏は述べており、イカはこれとは違う経路で自制心を進化させてきたと主張しています。イカは自分自身をカモフラージュし、エサとなる生き物をじっと待って捕食します。このような捕食スタイルではチャンスが限られているため、チャンスを高めるために自制心を発達させたのではないかというのが、研究者らの予測です。

異種動物間に存在する似た認知能力を特定する今回のような研究は、生物全体の「知性の進化」というより大きなものの理解に役立つと研究者は考えています。