アップルが、AIアシスタント「Siri」の音声操作に対応するスマートスピーカーのファミリーを拡充しました。「HomePod mini」です。10,800円(税別)という、アップルのデバイスの中でもとびきりお手ごろな価格で11月16日の週に発売を予定しています。HomePod miniは何がスゴいのか、改めて詳細を掘り下げてみたいと思います。

ホワイトとスペースグレイの2色を用意する「HomePod mini」。価格は10,800円(税別)とお手ごろ


○設置性と音楽配信サービスの選択に自由度が増した

AIアシスタントを搭載するスマートスピーカーといえば、グーグルがNest Audio、アマゾンがEchoシリーズの新製品を発表したばかり。今秋は、アップルを含めた3社の最新スマートスピーカーによるガチンコ対決の火蓋が切られそうです。

アップル初のSiriを内蔵するスマートスピーカー「HomePod」(2019年8月発売)は、グーグルやアマゾンのスマートスピーカーに比べると抜群に音質が良いと筆者は思います。伸びやかな高域、立体感に優れる中音域、パンチの効いた低音と、それぞれのバランスの良さはオーディオ専業メーカーが商品化するスマートスピーカーにも負けていません。

筆者もHomePodを自宅で使っていますが、課題は2点あると感じていました。ひとつは、サイズがやや大きいこと。スピーカーシステムはエネルギー感あふれる音を再現するためにある程度本体の大きさが必要なので、HomePodに関してはこれで理にかなっているとして、置き場所を選ばないもう少しコンパクトなモデルもラインナップに欲しいと思っていました。今回のHomePod miniの登場で、これが実現したことになります。

日本では2019年8月に発売した元祖HomePodと合わせ、シリーズは2モデル展開になります


もうひとつは、Siriによる音声操作でApple Music以外の音楽サービスを指定して好きな曲をかけられるようにしてほしいと思っていました。iPhoneと心地よく連携するHomePodを使ってみたいけれど、メインに使っている音楽配信サービスはApple Musicではない、という音楽ファンも大勢いるからです。

この点については、今年のWWDCでHomePodがサードパーティの音楽サービスにパートナーの輪を広げることが発表されていたため、そろそろだろうかと期待していました。プレスリリースでは「今後数カ月の間に対応を予定する音楽配信サービス」として、PandoraとAmazon Musicの名前が挙がっていました。後者については、日本でもポピュラーになりつつあるプラットフォームです。Apple Musicと変わらない使い勝手でAmazon Musicの楽曲が楽しめるのかが気になります。

なお、iPhoneでAmazon MusicやSpotifyのアプリを立ち上げてAirPlayを経由すれば、各音楽配信サービスのコンテンツをHomePodで聴くことは現状でも可能です。

日本で利用者の多いAmazon Musicも、Siriによる音声操作に対応することになりそうです


音楽再生に関連する機能としては、HomePod miniもBluetoothオーディオに未対応、という課題が残りそうです。HomePodシリーズとして、アップルデバイスとの親和性を強くアピールするスタンスが今後も当面は貫かれることになりそうです。

○内蔵するApple S5チップとiPhoneとの連係で巧みにサウンドを制御

背丈が約8.5cmというコンパクトな球体のスマートスピーカーがどれほどパワフルな音を出せるのか、現時点でまだ実機を試せていないため、実力のほどは未知数です。

エンクロージャーの内部には、独自設計のフルレンジドライバーが下向きに美しく配置されています。ドライバーの手前に置いたディフューザーにより、音を360度方向へ均等に広げて豊かな音場を作り出す仕組みです。

下向きに配置した独自開発のフルレンジドライバーの正面に、音を360度広げるためのディフューザーを配置。低音は2基のパッシブラジエーターで増強します


フルレンジドライバーユニットを挟んで背を向け合う形で配置された2基のパッシブラジエーターにより、低音を増強します。小さな筐体のスピーカーでワイドな音場感、パワフルな低音を再現するための設計のセオリーを手堅く採用しつつ、チューニングによってアップルらしいバランスの良いサウンドにどこまで仕上げてくるのか、とても楽しみです。

HomePodには、部屋のどのような場所にいま自身が置かれているのかを数秒間で素早く検知・学習してサウンドを最適化する「自動室内センシング技術」が搭載されています。この技術は、HomePodが内蔵する7つのビームフォーミングトゥイーターのカスタムアレイと専用設計のウーファーに深く結びついているため、HomePod miniには載っていません。

代わりに、HomePod miniにはアップル独自開発のSoCである「Apple S5チップ」が内蔵されています。iOSと連係しながら、再生中の楽曲の特性を瞬時にリアルタイム解析し、いつでもベストなチューニングに整えてくれます。

○iPhoneからHomePod miniへの音楽再生引き継ぎ機能、U1チップで精度が向上

iPhoneとHomePod miniによる連係も先進的です。

iPhoneで音楽を聴いている時にHomePodに近づくと、音楽再生をシームレスにスマートスピーカーへ引き継げるHandoff機能は、iOS 13.2.1のころからBluetooth Low Energyの技術によって追加され、現在もHomePodで使えます。

HomePod miniには、アップルが独自開発したUWB(Ultra Wide Band)対応の無線チップ「U1」が内蔵されています。同じU1チップを持つiPhone 11シリーズ以降の端末を手に音楽を再生しながら近づくと、再生中の楽曲が引き継げる仕組み。U1チップの搭載によって、HomePod miniとiPhoneの距離や方向がより正確に検知できるそうです。

U1チップを搭載したHomePod miniは、同じくU1チップを搭載するiPhoneと連係しながら、よりスマートな音楽再生のハンドオフが行えます


U1チップを搭載するHomePod miniならではの機能として、iPhoneを持ってHomePod miniに近づくと、再生中の楽曲情報や関連する楽曲の再生レコメンドがiPhoneの画面に表示されます。

○注目の新しいスマートホーム機能。HomePodにも一部追加予定

ユーザーのアカウントに到着しているiMessage、リマインダーにメモ、カレンダーの予定はHomePodからも呼び出せます。HomePod miniに「今日はどんな日?」と話しかければ、最新のニュースに天気、交通情報などの情報をまとめて教えてくれます。

HomePod miniがハードウェアとして搭載するU1チップに関連する機能を除けば、先に発売されているHomePodにもソフトウェアアップデートにより新機能が追加されます。例えば、宅内に設置した複数のHomePod同士、またはiPhoneやiPad、Apple Watch、CarPlayなど家族のアップルデバイスに短い音声メッセージを送れる「インターコム」の機能も含まれます。

ショート音声メッセージをHomePod同士、または家族のアップルデバイスに送って伝えられるインターコム機能


ただし、アカウントを登録しているユーザー以外の家族の声紋を登録・認識する「マルチユーザー機能」は、当初英語のみの対応となり、日本ではHomePod miniでも使えないようです。

音楽を聴くためのスピーカーとして、またHomeKitに対応するスマートホームデバイスを音声で操作できる司令塔として、HomePodのスマート体験がより身近になることは大歓迎です。あとは、1万円ちょっとのお手ごろ価格でも、アップルのプロダクトとしてしっかりとリッチに仕上がっているのかなど、実機でぜひ体験して報告したいと思います。

著者 : 山本敦 やまもとあつし ジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。 この著者の記事一覧はこちら