明け方の静寂を引き裂く「ドーン!」という大爆音が、群馬県の関越自動車道藤岡ジャンクション付近の住宅街にまで轟いたのは、4月29日午前5時前のことだった。
 近所に雷でも落ちたのか−−。地元住民が錯覚したほどの轟音。しかしそれは、関越自動車道を走行中の大型バスが防音壁に突っ込んだ音だった。バスがブレーキをかけた痕跡は認められず、時速93キロのまま側壁に激突。バスを運転していた河野化山容疑者(43・自動車運転過失致死傷容疑で逮捕)は、その時の様子を「居眠りをしていて事故当時のことは覚えていない」などと供述している。

 乗客45人のうち、死亡は7人。事故直後、車内では衝撃で座席から投げ出された血まみれの乗客が4、5人、前方の床に折り重なり合うように倒れていた。かすかな呻き声を上げる乗客もいたが、既に心肺停止状態の人がほとんどだったという。その多くは圧死。内臓破裂の人もいた。
 何より、無事だった乗客が驚愕したのは、防音壁の厚い鉄板がフロンドガラスを突き破り、後部座席近くまで達していたことだ。さらにバスの左半分は高速道路からはみ出している。実況見分によれば、防音壁は全長12メートルの車体の左前方から、縦に10.5メートルまで貫いていた。まるで、豆腐に包丁を入れたような格好となったわけだ。

 そんな中、防音壁と座席に挟まれ、身動きできず痛みと恐怖で叫ぶ人もいた。
 「一瞬何が起きたのかわからなかった。でも、バスが大破して下から煙が立ち上っている。窓からの脱出を試みたが、窓はびくともしなかった」
 と、その絶望的な状況を振り返る乗客もいる。実際に最前列左の窓は目茶苦茶になったものの、変形して窓が開かず、救出ではレスキュー隊が窓を割って一人ひとり引きずり出したほどだ。
 辛くも救出されて助かった人の中にも、肩から上を血に染めた女性や、顔面を強打し歯を折った若者もいた。
 夜行バスで熟睡できる乗客はあまりいない。走行中ほとんどの人が寝たり起きたりを繰り返していたという。物凄い衝撃で浅い眠りから叩き起こされると、車内は阿鼻叫喚の地獄絵図だったのだ。

 亡くなった乗客は、ほとんどが左側座席の最前列から5列目に座っていた。唯一、8列目にいた金沢市に住む木沢正弘さん(50)は、長女とディズニーランドに向かう途中で事故に遭い、大破したバスから長女を脱出させると息絶えた。
 「お父さんを返してください。返してください」
 事故後、妻は泣きながら叫んだ。