温厚な人柄のIさんが認知症と診断されたのは、49歳のときだった。きっかけは無銭飲食。不安に思った家族がIさんを病院に連れてきたのだ──。

 認知症とひと口にいうが、その原因疾患はじつに70種類以上もある。血管性認知症、アルツハイマー型認知症が全体の8割近くに及ぶが、40〜60 代の現役世代では人格や言語機能に関連する前頭葉、側頭葉が萎縮するピック病などの前頭側頭葉変性症が4分の1〜3分の1を占める。

 血管性、アルツハイマー型がもの忘れから発症するのに対し、前頭側頭葉変性症では、万引き、無銭飲食などの反社会的行為や同じ行動、言葉を繰り返す常同症、1日中なにもせず寝ている意欲低下など、人格や行動の変化が先行して表れる。記憶や方向感覚は比較的正常なので、認知症とは気づかずに発見が遅れるケースが少なくない。むしろ異常な行動が目立ち、早期ではうつ病や統合失調症と誤診される可能性が高い。

 発症原因はまだ解明されていないが、一説ではストレスホルモンが脳神経細胞を破壊すると考えられている。現時点では、抗うつ薬や興奮を静める薬で症状をコントロールするしかない。ただ最近の研究で一般に使われている抗うつ薬に、脳神経細胞の再生、成長を促す神経栄養因子の増加作用があることがわかってきた。適切な投薬とリハビリを受けることができれば、異常な行動と認知機能の改善も期待できるかもしれない。

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