東アジアの運命を決める「11月台湾統一地方選」で確実に行われる「中国の介入」その実態

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習近平の警告に対しトランプは

5月14、15の両日に北京で行われた米中首脳会談は、台湾政府の関係者によるとトランプ大統領と習近平国家主席が2日間で合わせて9時間話をしたうちの2時間半が台湾問題に割かれたということで、やはり「台湾」が最大の焦点だったようだ。

特に習氏は報道機関に公開される会談の冒頭、台湾問題について「中米関係の中で最重要の問題だ。うまく処理すれば、両国関係は全体として安定を維持できる。うまく処理できなければ、両国はぶつかるばかりか悪くすると衝突に至り、中米関係全体を非常に危険な状況に追いやることになる」と述べた。

通常報道機関に聞かせる話は相手を褒めたたえる「エールの交換」にとどめるのが外交儀礼のはずだが、習氏はかなり強硬な発言でいきなりトランプ氏に「警告」を行ったのである。ただ台湾人ジャーナリストの荘豊嘉氏は、習氏の発言は主に中国国内向けであり、そのことは習氏が一般に言われているほど国内掌握が万全でないことを示していると分析する。

習氏の「警告」に対しトランプ氏は、同調はしなかったものの反論もしなかった。そしてアメリカに帰る飛行機の中で、メディアの台湾に関する取材に対して「誰かが独立を宣言しアメリカが9500マイル離れた場所に戦争に行くことは望まない」と述べ、すでに去年12月に一度決定した100億ドルを超す台湾への武器売却についても「承認するかもしれないし、しないかもしれない」と答えた。またトランプ氏は15日のFox Newsとのインタビューでは、台湾への武器売却が「我々にとって非常に良い交渉材料だ」と話している。

ということは、貿易など他の分野で中国が大きな譲歩をすれば、台湾への武器売却を棚上げする可能性もあることになる。これは中国の強まる軍事的脅威をひしひしと感じる台湾の頼清徳政権にとっては、ある程度予想されたとはいえ少なからぬ“衝撃”であろう。

台湾で中国との関係を所管する大陸委員会の沈有忠副主任委員は16日、「アメリカの対台湾政策は変更がなく、台湾向けの武器売却についてアメリカは中国にいかなる約束もしなかった」と述べた(5月16日、大陸委員会ウェブサイト「陸委會沈副主委強調中共是破壞台海現狀與和平穩定的主要根源,台灣將持續與美國深化合作確保台海現狀不被改變」)が、すでに決まったはずの武器売却が延期になる可能性があるのだから痛手でないはずはない。

武器売却問題の今後の行方について、ベテランジャーナリストの盧世祥氏は「習氏の加える圧力の大きさとトランプ氏の決断によるが、アメリカ内部では台湾を支持する勢力も強く、最悪のケースでも延期や規模の縮小にとどまり、中国が期待するような停止にはならない」との見方を示している。

国民党が抱える深刻な内紛

一方、今回の米中首脳会談の結果について野党第一党である国民党の鄭麗文主席は15日、自ら国民党のYouTube番組に出演し、会談を通じて「新たなレッドラインが確立したことで中米関係の新時代の位置づけをもたらした。台湾独立反対が台湾海峡を安定させるカギだ」と述べた(5月15日、国民党ウェブサイト「《KMT直球對決》首播談川習會重塑全球與台海新局 鄭主席:新紅線確立帶來中美關係新時代定位 反對台獨是穩定台海關鍵 - 中國國民黨全球資訊網」)。

常識的には今回の米中首脳会談は野党が攻勢を強める契機となりそうな雰囲気だが、事はそう単純でない。国民党は実は現在、かなり深刻な内紛を抱えているのだ。

事の起こりは今年2月、2008年から2期8年間総統を務めた馬英九氏が2018年に設立した非営利組織「馬英九基金会」の蕭旭岑前執行長(事務局長)と王光慈執行長の2人を「財務に関する規律問題」を理由に突如解任したことだった。これについて馬氏は「蕭氏は頻繁に(中国)大陸を訪問し多くの進出台湾企業と接触しているが、その際の財務に関するやりとりを報告しなかった」と述べ、一方、蕭氏は「馬前総統は最近物忘れすることが多い」と反論した(3月25日、今週刊「蕭旭岑爭議/馬英九喊六親不認送司法調查,蕭旭岑提前總統忘了很多事…有心人士指金溥聰?事件簿一次看」)。

この問題に関して基金会が設置した調査チームが調査を行い、5月24日に「蕭、王の2氏が財務規律に違反したことは証明できなかった」とする報告を行ったのだが、これとは別に馬氏の依頼を受け調査に当たっていた、馬氏の側近の金溥聡元国家安全会議秘書長が5月25日に記者会見を開き、蕭氏が中国ビジネスを行っている台湾企業家から現金の札束を受け取っている「証拠写真」を公開した上でこの事実を馬氏が知らされていなかったと主張した(5月25日、太報「金溥聰公布蕭旭岑捧錢照 控拿台商現金發百萬年終與績效獎金」)。

そして馬英九基金会は29日、検察に蕭、王の2氏を刑事告訴し、調査チームがこれに反論した(5月31日、自由時報「馬英九基金會提告王光慈、蕭旭岑 3人調查小組:侵犯董事會職權」)。さらに蕭氏が29日、馬氏がこの1年、「頼総統の台湾独立放棄を評価する」とした声明を出そうとしたためこれを阻止し、馬氏との関係が非常に悪化していたことを認め、内紛は際限ない拡大の様相を見せた(5月30日、自由時報「馬英九PO『肯定褚清紱放棄台獨』2度被他阻止 蕭旭岑:這一年我們關係非常不好」)。

この事案は、単に馬氏に認知症の症状が出始めたかどうかという問題にとどまらない重大な要素を含んでいる。まず、台湾企業から蕭氏に手渡された現金の出所と行先である。この現金が、台湾企業が中国で上げた利益から、もしくは中国から台湾企業を経由して蕭氏に支給されたものだとすれば、世論への影響は計り知れない。

また、馬氏が本当にこの現金について知らされていなかったのかどうかはともかく、誰がどういう用途に使ったのかは解明する必要がある。蕭氏は現在国民党副主席の要職にあり、蕭氏が本格的な捜査の対象となれば、蕭氏を起用した鄭麗文主席の責任問題にもなってくる。

「親中派」と「親米派」が対立する国民党

これについて、筆者の友人である藍派(国民党、新党、親民党、無党団結連盟など、中国人意識を持つ政治グループ)の研究者のL氏は、「国民党内で鄭派と反鄭派による主導権争いが背景にある」と分析する。

L氏によると、今、国民党中央を仕切っている鄭氏グループは中国との和解による平和を主張する「親中派」であるのに対し、前回の総統選挙で副総統候補となったメディア人の趙少康氏をはじめとする多くの党幹部は本音では統一に反対し「中華民国」の独立維持を目指す「親米派」で、基本路線に対立があるという。こうした親米派は早期に鄭主席を引きずり下ろし、今年11月の地方選挙と2028年1月の総統選挙を主導したいというわけである。確かに鄭氏の主張は、現在、台湾島内で人気がなく(5月27日、風傳媒「美麗島民調》鄭麗文信任度只剩23%!1個月狂退7.7個百分點 小草也近5成不信她」)、「親米派」からすれば国民党が3連敗中の総統選挙で勝つには鄭氏を早期に交替させる以外にないのだ。

一方、先述の荘豊嘉氏は、双方の対立を「親中派」対「親米派」と見るのは不正確だと指摘する。荘氏の見立てでは、趙氏らのグループが「親中派」で鄭氏のグループは「紅統派」だという。この場合の「親中派」とは、中国との関係は重視するが、中国の指図は受けないという立場で、一方の「紅統派」は、中国の主張を受け入れるという立場だ。

いずれにせよ、馬英九基金会の内紛が一つのきっかけとなって、去年10月の鄭氏の党主席当選以来くすぶっていた国民党内の路線対立と人事抗争が白熱化してきたのは間違いなく、蕭氏が受け取った現金をめぐる刑事事件の行方を含め、国民党にとっては少なからぬ打撃になりそうである。

離党者相次ぐ民衆党

また、野党第二党の民衆党にも暗雲が立ち込めている。

5月20日、同党の広報官を務めた楊宝腊氏が離党し無所属で台中市の市議選に立候補すると表明した(5月21日、自由時報「真的退出民眾黨!楊寶腊宣布獨立參選台中東南區市議員」)。民衆党からの離党者は去年11月から今年5月までの間に幹部だけで12人に達し、雲林県では100人が集団離党している(5月30日、ウィキペディア「台灣民眾黨退黨潮」)。

その最大の原因は黄国昌党主席にある。民衆党はもともと台北市長だった柯文哲氏が民進党と国民党の二極対立の政治状況を変えようと「第三極」を目指して設立したもので、これまでは柯氏の個人商店の色彩が非常に強かった。ところが柯氏は台北市長在任中に市街地再開発の土地容積率緩和をめぐって業者から賄賂を受け取ったほか、政治献金の申告をめぐる背任行為があったなどとして起訴され、一審で懲役17年の有罪判決が出たため、表で活動するのが難しくなった面がある。

これを受ける形で党主席に就任したのが、かつて時代力量という緑派(藍派の対抗勢力で、民進党、時代力量、台聯党、台湾基進、社会民主党、緑党など、台湾人意識を持つ政治グループ)の党主席を務め、その後、民衆党に加入して比例区選出の立法委員になり、2015年2月から民衆党主席になった黄氏である。黄氏はかつての緑派から藍派に近い立場に転換し、今では国民党の鄭氏と同様に舌鋒鋭い民進党批判で知られるが、一方で党運営が独断専行と指摘され、地方議員選挙の候補者に自らの息がかかった人物を起用しようとしているため、柯氏に従ってきた旧来の党員から不満が噴出している。

しかもここへ来て、これまで黄氏を頻繁に番組に招聘していたベテランジャーナリストが黄氏への積み重なる不満を一気に暴露し始め(5月30日、自由時報「昔挺褚今反褚? 黃光芹爆蔡褚初選黃國昌曾想結盟褚清紱」)、黄氏は今年1月に国防秘密漏洩罪などの疑いで台北地検に告発された事案と合わせ(2月4日公開の拙稿「野党党首が、TV局記者が、あからさまに、台湾で相次ぐ『スパイ容疑』事案〜総統選、統一地方選に向け深刻化する『中国の工作』」)、窮地に立たされている。

中国の選挙介入が予想される11月統一地方選

このように現在の台湾政界は、与党民進党、野党の国民党、民衆党のいずれもがマイナス材料を抱える状況の下、11月の統一地方選を迎えようとしている。

当面の焦点は6月1〜12日の日程で国民党の鄭主席が行っている訪米について、特に首都ワシントン入りする9日以降にどのレベルの政府要人と会えるか、何らかの成果が得られるかだが、先述の荘氏は「共産党が推している台湾の野党党首をトランプ氏が重視するかは疑問で、要人は出てこない」との見方を示している。

また11月28日が投票日の統一地方選に関して先述の盧世祥氏は、「中国が必ず介入する。選挙前の9月と11月に予定されている米中首脳会談がその好機と見ており、台湾企業、政治家、メディア、地方の政治勢力、宗教施設などを対象にアメリカへの疑念を投げかける『疑米論』などの認知作戦を強化するだろう」と警戒感をあらわにする。

一方、荘氏は民進党が嘉義市、彰化県、宜蘭県の3県市の首長のみを新たに獲得する「小さな勝利」との予測をしているが、もし与野党のどちらかが圧勝することになれば、2028年の総統選挙の行方にも影響することは避けられず、それは台湾海峡の平和と安定にも関係するため、日本人としても引き続き目が離せないところである。

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