講演する日銀の植田総裁(3日、東京都千代田区で)=竹下真介撮影

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 日本銀行の植田和男総裁が3日の講演で「物価上振れリスク」を強調したことを受け、市場では、日銀が6月15、16日の金融政策決定会合で利上げに踏み切るのではないかとの見方が広がっている。

 日銀の政策を決定する9人の政策委員の間でも、早期利上げに前向きな声が強まっている状況だ。(岡本朋樹)

シグナル

 「経済の下振れリスクを意識しつつも、物価上昇率が大きく上振れていくリスクが顕在化し、経済に悪影響を及ぼすことをより警戒する必要がある」

 植田氏は講演で、物価上昇圧力が強まることへの警戒感を示した。日銀は2025年1月と12月の決定会合で利上げを決めた際、植田氏がそれぞれ直前の講演などで利上げ判断を行う可能性を示唆しており、市場では、今回もシグナルを送った可能性が意識されている。

 日銀の金融政策に詳しい東短リサーチの加藤出氏も、「講演全体で物価上振れリスクを強調しており、6月の利上げを示唆した内容だと思われる」と指摘する。

5人が前向き

 日銀は4月の前回の決定会合で、政策金利である短期金利の誘導目標を0・75%程度で維持することを決めた。ただ、政策委員のうち、中川順子氏、高田創氏、田村直樹氏の3人の審議委員は、1・0%程度への利上げを主張して維持に反対した。

 日銀内では、原油価格の上昇など物価高対応を重視し、早期の利上げが必要との声が強まっている。5月には、増一行氏と小枝淳子氏の2人の審議委員が講演で、早期に利上げを行うことに前向きな発言を行った。金融政策は政策委員の多数決で決まる。そのため、5人の審議委員が早期の利上げに前向きな姿勢を示している意味は大きい。

 日銀が5月26日に発表した、政府の物価高対策などの影響を「特殊要因」として除いた4月の消費者物価指数は、前年同月比の上昇率(生鮮食品を除く総合)が2・8%だった。特殊要因を含めた上昇率は1・4%で、物価の伸びは政策によって抑制されている。

思惑一致

 植田氏が今回、6月会合で利上げする可能性をにじませた背景には、外国為替市場で円安・ドル高傾向が続いていることもあるとみられる。円安は輸入品の価格上昇を招き、幅広い商品の値上がりにつながるため、日銀内でも円安を問題視する見方が広がっている。

 4月の決定会合で利上げを見送った後、円相場は1ドル=160円台後半まで円安が進行した。政府・日銀は4月30日以降、複数回の円買い・ドル売りの為替介入を行ったが、6月3日には再び160円台をつけた。6月の決定会合で利上げを見送れば、更に円安が加速する可能性が高い。

 外為どっとコム総合研究所の神田卓也氏は「日銀も政府も物価高につながる円安がこれ以上進むことは避けたい。両者の思惑が一致したため、利上げに前向きな発言をしたのではないか」と分析する。

国債買い入れ

 植田氏は講演で、6月の決定会合で決める27年4月以降の国債買い入れ減額計画についても言及した。

 日銀は金利を低く抑えるため、黒田東彦(はるひこ)・前総裁時代の13年から大量の国債を購入してきたが、植田氏の就任後の24年8月以降は買い入れ額を段階的に減らす「量的引き締め」を行っている。26年4月以降は毎月の買い入れ額を四半期ごとに2000億円ずつ減らし、27年1〜3月の買い入れ額は月2・1兆円となる見通しだ。

 市場では、27年4月以降、日銀が減額を停止するとの見方も出ている。ただ、植田氏は、「市場機能の改善と国債市場の安定を考慮し、次回会合で議論をしたい」と述べるにとどめた。