(※写真はイメージです/PIXTA)

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資産運用や配当収入によって、働かずに暮らす生き方に注目が集まっています。生活費を抑え、資産から得られる収入で暮らすことができれば、時間に縛られない自由な人生を送れるようにも見えます。しかし、身近な家族がそのような生活をしているからこそ、別の価値観を持つようになる人もいます。

「働かなくても暮らせる父」…息子が見てきた小さな違和感

拓也さん(仮名・40歳)は、月10万円ほどの生活費で暮らしています。

独身で、家賃の安い古いアパートに住み、外食はほとんどしません。服も必要最小限。給与の多くを貯蓄や投資に回しています。

一見すると、いわゆるFIRE志向のようにも見えます。しかし拓也さんは、少し違うと言います。

「生活費を下げているのは、働き方を選べるようにするためです」

拓也さんの父・昭夫さん(仮名・68歳)は、長年の投資で資産を築き、現在は配当収入を中心に生活しています。年金もありますが、生活費の多くは株式の配当でまかなっているといいます。

「うちは父がずっと投資をしていました。子どもの頃から、株価の話や配当の話をよく聞いていました」

昭夫さんは、60代前半で会社を退職しました。退職後は、毎朝相場を確認し、昼は散歩、夕方は自宅で晩酌。生活は質素ですが、お金に困っている様子はありません。

「父はよく、“働かなくても暮らせるのが一番だ”と言っていました」

確かに、その姿は安定して見えました。けれど拓也さんには、どこか引っかかるものがありました。

父は自由を得たはずなのに、日々の話題は株価と配当、節約のことばかり。新しい人間関係も少なく、社会との接点も限られていました。

「お金には困っていない。でも楽しそうかと言われると、よく分からなかったんです」

金融庁も、資産形成において長期・積立・分散の考え方を示しており、老後に向けた資産運用の重要性は広く語られています。ただ、資産があることと、日々の充実感があることは同じではありません。

拓也さんは、父から投資の大切さを学びました。一方で、「働かないこと」だけをゴールにする生き方には、少し距離を置くようになったといいます。

会社を辞めるためではない…男性が選んだ“働き続ける自由”

拓也さんは会社員として働いていますが、昇進や高収入を最優先にはしていません。残業の少ない職場を選び、自分の時間を確保できる働き方を重視しています。

「父は“働かない自由”を目指した人でした。自分は、“嫌な働き方をしない自由”がほしいんです」

月10万円の生活は、決して華やかではありません。休日は図書館へ行き、簡単な自炊をし、近所を散歩する。友人との付き合いも、無理にお金を使うものではありません。

それでも拓也さんは、「今の生活が自分に合っている」と話します。

総務省『家計調査(2025年)』によると、単身世帯では住居費や食費が家計支出の大きな割合を占めています。収入を大きく増やさなくても、固定費を下げることで生活の選択肢が広がるケースもあります。

拓也さんは、父のように配当だけで暮らせる資産を目指していないわけではありません。投資も続けています。ただ、完全に仕事を辞めることには慎重です。

「仕事って、社会との接点でもあると思うんです」

父の昭夫さんは、最近になって拓也さんにこう言ったそうです。

「お前はまだ働くのか」

拓也さんは答えました。

「働きたい仕事なら、働くよ」

昭夫さんにとって、仕事は長く“生活のために我慢するもの”でした。だからこそ、配当で暮らせることが自由の象徴だったのです。

一方、拓也さんにとって仕事は、すべてを捧げるものではありませんが、手放したいものでもありません。

「父の生き方を否定しているわけではないんです。むしろ、お金の大切さは父から学びました。でも、父と同じ結論にはならなかった」

親子でも、幸せの形は違います。

資産があれば安心は増えます。生活費を下げれば選択肢も広がります。けれど、それだけで人生が満たされるとは限りません。

拓也さんが選んだのは、配当だけで暮らす父とは少し違う道でした。それは、働くことに縛られすぎず、それでも社会との接点を持ち続けるという、彼なりの“自由”だったのです。