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[障害者雇用 理念はどこへ]<上>

 午前10時前。

 <おはようございます。本日もよろしくお願いします>。チャットにそう打ち込むと、すぐに「いいね」マークがつく。それを確認すると、眠くもないのにベッドに横になり、真っ白な天井を見上げた。「何をやらされているんだろう――」

 精神障害のある西日本在住の30歳代女性は、障害者雇用ビジネスを手がける「サンクスラボ」(那覇市)の担当者からパソコン操作の「自己学習」を求められ、1日6時間、自分で買ったテキストを読み続けた。その日に学んだことを専用シートに書き込んで共有する。誰からも反応はない。その繰り返しだった。

 同社の仲介で人材派遣会社「エフ・オー・プランニング」(東京)に入社したのは昨年10月だった。在宅勤務で、書類上の業務内容は「エクセル練習、データ入力業務等」。エフ・オー社とのやり取りはない。担当者の連絡先も知らない。それでも毎月、約11万円の給与が振り込まれた。

 これでは働いていることにならない。でも何をすればいいか分からない。いつか仕事を任されると信じ、2か月はまじめに学習を続けたが、もう限界だった。

 「採用は残り1枠」

 西日本在住の30歳代女性は昨年9月頃、障害者雇用ビジネス業者「サンクスラボ」(那覇市)の担当者からそう告げられた。

 精神障害のある女性は当時、障害者に就労機会を提供する就労継続支援事業所で働いていた。事業所を運営するサンクスラボに対し、一般企業での就労を希望すると、人材派遣会社「エフ・オー・プランニング」(東京)を紹介された。

 エフ・オー社は名前を聞いたことがなかった。「1年間は研修」と言われて気も進まなかった。ただ、「あと1人」とせかされ、断れなかった。翌月から、在宅で「自己学習」を繰り返す日々が始まった。

 エフ・オー社とのやりとりはなく、サンクスラボの担当者とはチャットを交わす程度。就労してまもなく、抑うつや不安の症状が強まってきた。相談支援専門員から助言を受け、日中に息抜きで寝たり、ゲームをしたりして気を紛らわせた。雇用主のエフ・オー社への不信感が募った。

 就労4か月目。女性はサンクスラボの担当者に不満をぶつけ、エフ・オー社と直接やりとりできないか尋ねた。すると今年1月末、同社と初のオンライン面談が設けられた。

 面談で女性は、研修後に仕事をもらえるのか聞いた。エフ・オー社の担当者は「(研修が)役立つと思って取り組んでほしい」と述べるだけで、明確な答えはなかった。女性は契約途中での退職を決めた。

 「最後まで、エフ・オー社の一員と感じたことはなかった」。女性はそう振り返る。今は別の福祉事業所で働く。仕事を任される喜びを感じているという。

 サンクスラボを介して2024年にエフ・オー社に雇われた関西地方の20歳代男性も、自己学習を求められるだけで、直接のやりとりはなかったと証言する。男性は翌年に退職し、「障害者は何も期待されず、雇用実績を作るためだけの要員と感じた。人生で一番苦しかった」と話した。

 エフ・オー社は取材に「当社は雇用主として業務の指示、勤怠管理、評価などを主体となって行っている」とした上で、「障害のある方が安心して働き続けられる環境を整えるため、業務状況等をより丁寧に把握する取り組みとして、報告方法等の見直しを進めている」と回答した。

 障害者雇用ビジネスは、農園やサテライトオフィスなど、障害者が働く場を雇用主の企業に提供する事業だ。当然、業務の指示、労務管理は雇用主が行うのが前提となる。

 サンクスラボは19年、自社の事業所で就労する障害者を企業に仲介する形で、雇用ビジネスに参入した。

 元社員によると、同社の事業所では、利用する障害者一人ひとりについて、事業所への出勤率や業務意欲をもとに、SとA〜Dまで5段階に分けていた。

 「一般企業で就労できそうな人に上から順に声をかける」。元社員は、「S」や「A」の人から企業に仲介したと証言する。ただ、時には「C」や「D」の人を仲介することもあった。背景には「ノルマ」の存在があったという。

 同社は事業所ごとに、月2〜3人の障害者を企業に就職させることを目標にしていた。達成に貢献した社員は表彰される一方、就職者数が伸び悩んでいる事業所はウェブ会議で幹部から発破をかけられた。

 現場の社員は事実上のノルマと受け止め、達成が厳しくなると「C」や「D」の障害者を仲介したり、就職に前向きではない人に「履歴書に大手企業の名前を書ける」などと言って説得したりしていたという。

 事業所から就職した障害者が企業で半年以上就労を継続できれば、国と自治体が事業所に支給する給付金に、加算金が上乗せされる。その金額は、就労を継続できた人数や、事業所運営に対する評価点などに基づいて決まる。

 読売新聞が自治体に取材や情報公開請求を行ったところ、同社は24年度までの5年間に少なくとも8市(那覇、福岡、福岡県久留米、佐賀、熊本、大分、鹿児島、山口県下関)から障害者289人分、計約19億円の加算金を受けていた。

 元社員の一人は「むやみな就職仲介をやめ、事業所で丁寧な支援を続けるよう何度も社内で進言したが、受け入れられなかった」と語る。「障害者を加算金を得るための道具にしていたと言われても仕方がない」と悔やんでいる。

 サンクスラボは取材に「支援や就労に向けた目標は設定しているが、就労者の状況と意向を前提としており、準備が整っていない方に対して就労を強いるものではない」としている。

 障害者雇用ビジネスを巡り、一部の障害者が働く意欲を奪われかねない環境に置かれていた。法定雇用率の引き上げなどでビジネスの需要が高まる中、「能力を発揮する機会を与えられる」(障害者雇用促進法第3条)との理念が置き去りにされていないか。実態と背景に迫る。