液タブのワコム社長を物言う株主が批判… オフィス内のダンススペースを子女が長期使用と“私物化”指摘
アニメーションやマンガ制作に欠かせない液晶ペンタブレットの世界的なメーカー・ワコムが物言う株主に揺さぶられている。イギリスのアセット・バリュー・インベスターズ(AVI)が代表取締役社長・井出信孝氏の解任などを求めたのだ。
AVIは井出氏が会社のオフィスの一部を私物化していることを問題視。取締役会のガバナンス不全を正し、企業価値の向上を求めている。
AVIが指摘したものの一つが、東京支社の31階にあるダンススペースだ。井出氏の子女がこのスペースで5年以上の長期にわたってダンスの練習と撮影を行っていたという。AVIは、年間500~850万円程度の会議室相当のスペースが、ダンスの練習・撮影などに占有されたと推計している。
従業員からは「会議室としての登録も無い謎のスペースで、履歴や入出記録も残りません。徹底的な対策がされたうえで私物化されている印象」との声が上がっていることも紹介した。公私混同と評価されてもやむを得ない行為が従業員の士気を著しく損ね、企業価値を毀損(きそん)していると痛烈に批判している。
AVIが問題視する内容はこれだけに留まらない。井出氏は2021年2月に自身が代表理事を務める社団法人コネクテッド・インク・ビレッジを設立。ワコムは井出氏が代表取締役に就任して以来、この団体に対して2億8000万円もの寄付金を拠出しているという。
コネクテッド・インク・ビレッジは毎年「コネクテッド・インク」というイベントを新宿住友ビル三角広場で実施している。井出氏が社長に就任してからというもの、子女がこのイベントに毎年のように演出・振り付け・ダンサーとして出演している。このイベントはもともと技術展示会という趣旨の強いものだったが、井出氏が社長に就任してからアート色を強めていった。
AVIはイベントにダンサーを起用するようになった合理的な説明は見当たらないとしている。
業績堅調でも物言う株主に狙われる時代に
ワコムは5月18日にAVIの指摘に対する反論を公開した。
件のダンススペースは、施設利用許諾契約に基づきコネクテッド・インク・ビレッジも一部使用することが可能になっているという。特定の個人や団体の専用スペースではなく、新商品発表や社内業務のためにワコムが利用しているというのだ。また、コネクテッド・インク・ビレッジがスペースを利用する際は、外部専門家の助言に基づく適正な対価を受領していると、私物化しているかのような指摘をはねのけた。
ただし、一連の出来事を受け、ワコムはコネクテッド・インク・ビレッジとの施設利用契約に基づくスペース利用などの運用を停止。改めてレビューを実施すると宣言した。株主などの関係者から懸念を招くことのないよう、公正性・透明性の高い運用を目指すという。
井出信孝氏は大学卒業後にシャープに入社し、2013年にワコムに転籍した。そこから順調に出世を重ね、2017年に取締役、2018年に社長に就任している。しかし、株価は低迷しており、AVIによればワコムの過去5年の総利回りは25%、TOPIX(東証株価指数)は135%だった。インデックスに対して大幅に劣後している。
一方、ワコムの業績そのものは極めて堅調だ。2026年3月期の営業利益率は12.2%で、前期と比較して3.4ポイントも上がっている。成長性に欠けていることから株価は低迷しているのかもしれないが、PBR(株価純資産倍率)は足元で3倍近くあり、東証が改善を求める1倍を軽く上回っている。ワコムの弱点は安定株主に欠けていることで、物言う株主に入る隙を与えてしまった印象もある。
AVIがワコムに対して株主提案をするのは2025年に続いて2回目。1回目の社外取締役の選任提案は否決された。今年の株主総会にも注目が集まりそうだ。
文/不破聡 内外タイムス
