“ネタ”のつもりで送ったメッセージが原因で「懲役20年」の有罪判決… 3児の父親は刑務所の中から無実を訴える
2022年10月、藤本宏輝(こうき)さんは、強盗殺人未遂事件の被疑者として逮捕された。訴訟では一貫して無罪を主張したが、2023年11月、神戸地裁で懲役(※)20年の有罪判決を受けた。
※2025年6月施行の刑法改正により現在は「拘禁刑」
2024年6月、大阪高裁は藤本さんの控訴を棄却。同年9月には最高裁も上告を棄却し藤本さんの刑は確定した。
しかし藤本さんはいまも刑務所の中から、「自分は無実である」と必死に訴えている。
2022年3月28日、藤本さんの友人であるA氏(証人尋問の直前に脳梗塞を患い、現在は証言不能の状態)が、被害者のV氏を刃物で襲撃する強盗殺人未遂事件が発生。
3日後の31日、A氏が逮捕された。そして同年10月18日、藤本さんも逮捕される。
藤本さんは、犯行現場にいたわけでも直接手を下したわけでもない。
しかし裁判所は「藤本さんがV氏への示談金の支払い義務を免れるため、A氏に一家の殺害と金品の強奪を指示した」と認定し、強盗殺人未遂罪の共謀共同正犯(※)が成立するとの判決を行った。
※犯罪行為を直接共同していなくても、共謀を行ったことを通じ主体的に犯罪を実行したと評価できる者を、共同正犯として処罰すること
藤本さんが有罪とされた最大の根拠は、①藤本さんがA氏に送信したとされるSNSのメッセージと、②A氏が作成した犯行メモだ。
まず、①SNSのメッセージについては、事件の3か月前(2021年12月)、藤本さんはA氏に(V氏を)「殺したい」と送ったもの。裁判で藤本さん側は「殺したい」というメッセージについて「冗談である」と主張していたが、裁判所は「到底理解できない弁解である」と退けた。
弁護人の戸舘圭之(とだて よしゆき)弁護士は、兵庫県などの関西圏では「殺したい」という表現が日常的な嫌悪の意思表示や「ネタ(冗談)」としてカジュアルに使われることがある、と指摘する。
たとえば「あいつ、ほんま殺したいわ」といった物騒な言葉であっても、実際には「いい加減にしてほしい」といった程度の意味合いにとどまる場合がある。
「藤本さんはV氏への示談金について、当初の300万円を支払い、その後も月々5万円の返済を続けていました。
本当に殺害を計画している人間が、3か月も前から証拠の残るSNSで、これほど感情的で稚拙なメッセージを送るでしょうか。
藤本さんが殺害を計画していたとは考えにくく、『言葉のあや』を文字通りに受け取った『決めつけ』による認定と言わざるを得ません」(戸舘弁護士)
次に、②A氏の犯行メモは、翌2022年3月27日、A氏が藤本さん宅において、自身のスマホに、V氏を襲撃するにあたって具体的な襲撃手順を記録したもの。
このメモについて、A氏は取り調べの当初、自身の単独犯であると供述していたが、後に「藤本さんの指示でメモを作成した」などと供述を変えた。
また、戸舘弁護士は、メモが作成された当時の客観的状況の吟味が不十分だったと指摘する。
A氏は2022年1月から3月(メモが作成されたのは3月27日)の間、「自宅にWi-Fiがない」という理由で藤本さんの家に入り浸っており、藤本さんが仕事で不在にしていることが多かった。また、家庭の事情により、藤本さんは3人の子どもの世話や家事も一人でこなしていたとのこと。
このことから、藤本さんがメモの作成に関わったこと自体に、合理的な疑いをさしはさむ余地がある。
しかし、A氏は前述の通り証人尋問の直前に脳梗塞で倒れてしまい、弁護側が反対尋問を行う権利を一度も行使できないまま、判決が確定した。
A氏は後遺症で事件の記憶ばかりか藤本さんについての記憶までもを失っており、証言を得ることが困難であるという。
再審請求を支援するクラウドファンディングを実施現在、藤本さんと戸舘弁護士は再審(※)の請求に向けて準備を進めている。
※すでに確定した裁判について、新たな証拠などをもとに、もう一度やり直しを求める手続き
再審請求には多くの費用がかかる。
現状、藤本さんの担当は戸舘弁護士のみであり、再審にあたって弁護団を拡充する必要がある。また、調査や新証拠作成について専門家に協力を依頼するための費用も必要である。
そこで戸舘弁護士は今年4月から、訴訟に特化したクラウドファンディングサービス「リーガルファンディング」で支援を求めている。
ファンディングの目的について、戸舘弁護士は「行政の支援を受けながら必死に子どもを守ろうとしていた父親が、不当な手続きと『言葉のあや』によって殺人犯にされてしまった事実を明らかにするため」と語る。
「本件のように、供述の変遷や言葉の断片を偏重し、反対尋問という防御権が尽くされないまま有罪が確定してしまうことは、日本の司法手続きにおける致命的な欠陥です。
客観的な状況証拠や動機を冷静に検討せず、一度決めた筋書きに沿って判断を下す司法の姿勢には、強い懸念を抱いています。
藤本さんが子どもたちと再び暮らせる日を取り戻すべく、真実を究明するための資金を募っております」(戸舘弁護士)
