米海軍横須賀基地を訪問し、原子力空母ジョージ・ワシントン艦内の演説会場に到着したトランプ米大統領(2025年10月28日、写真:共同通信社)


 4月21日、政府は「防衛装備移転三原則」と運用指針を改正し、これまで大きく制限してきた殺傷・破壊能力を持つ防衛装備(いわゆる殺傷武器)の海外移転について、制度上は原則可能とする方針に転換した。

 高市氏は会見で、「安全保障環境が厳しくなる中で、もうどの国も1カ国のみでは、自国の平和と安全を守ることはできなくなってきています。防衛装備面でもお互いを支え合うパートナーは重要です」と述べ、その必要性を強調した。

 さらに、「日本は爆撃機や空母を持っているわけではありません。他国の領域を侵犯するのではなく、あくまでも防衛のための装備品です」と念押しした。

2026年4月21日、「防衛装備移転三原則」とその運用指針の改定を閣議決定した高市首相(右から2人目、写真:共同通信社)


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防衛装備移転三原則が迎えた“戦後最大の転換点”

 武器輸出の原則解禁は、平和憲法を金科玉条としてきた国是の大幅な変更だとの指摘があり、主要メディアの一部も「日本の安全保障政策の一大転換」と報じている。

「殺傷武器」とは、文字どおり敵を殺傷する小銃、戦車、大砲、戦闘機、戦闘艦、爆弾などを指す。これに対し、相手に直接危害を加えない軍需品は「非殺傷装備」と呼ばれ、軍用仕様の通信機器やレーダー、ヘルメット、防弾チョッキ、輸送機、練習機、掃海艦などが含まれる。

 今回の決定は、2014年に制定された「防衛装備移転三原則」の大改訂である。これまでは、「殺傷武器」と「非殺傷装備」の間のグレーゾーンに位置する「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海(機雷除去)」の「第5類型」装備までは原則輸出を認める一方、殺傷武器については特例を除き輸出を認めないという“縛り”があった。今回、その制限が撤廃された。

 ただし、完全なフリーハンドではない。

・「防衛装備品の移転に関する協定」締結国以外の国
・国連安保理による武器禁輸国
・紛争当事国

 への移転は、引き続き禁止される。

「防衛装備品の移転に関する協定」の締結国(発効ベース)は現在17カ国で、米英仏などG7のメンバー(カナダは今年1月に協定に署名)のほか、豪州、インド、インドネシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、UAE(アラブ首長国連邦)などが含まれる。いずれも、日本にとって将来的な移転先候補と見ていいだろう。

 日本にとって最強かつ唯一の同盟国であるアメリカは、紛争当事国となる事例が多いが、「日本の安全保障上の必要性を考慮して特段の事情がある場合」には、例外的に規制の対象から除外される。

表:共同通信社


月産1台の「伝統工芸品」からの脱却、武器ビジネスを支える“量産の論理”

「そもそも日本の防衛産業には、世界市場で戦えるだけの生産力や技術力があるのか」と、いぶかる向きもあるだろう。

 だが、日本は世界屈指の工業国であり、自動車、鉄鋼、工作機械、造船などで国際競争力を有している。「工業大国=武器輸出国」というのが世界の常識だが、その唯一の例外が日本だった。しかも日本は、陸海空の主要武器をほぼ国産できる数少ない国の1つでもある。

 世界市場において「メイド・イン・ジャパン」は、高品質・高性能の証しとされてきた。製造技術や品質・工程管理、勤勉な国民性が「ジャパン・クオリティ」を支えている。そのため、以前から外国からの引き合いは少なくなく、「例外中の例外」として、輸出や技術移転に個別対応してきた経緯もある。

 1983年には、旧ソ連の核ミサイル攻撃を阻止する「SDI(戦略防衛構想、いわゆるスターウォーズ計画)」を推進していたアメリカが、日本に技術供与を打診した。当時は、防衛装備移転三原則の前身である「武器輸出三原則」の時代だったが、日本政府は特例としてこれに応じた。

 2014年に防衛装備移転三原則へ衣替えして以降は、特例が急増している。パトリオット地対空ミサイルの制御部品(米国向け)、日英共同開発の次世代空対空ミサイル「JNAAM」、イージス艦の戦闘指揮所(CIC)用システム関連(米国向け)などがその代表例である。

 2024年3月には、日英伊3カ国が共同開発する次世代戦闘機「GCAP」(2035年導入予定)について、日本が第三国への輸出を特例として認可した。これが、第5類型の制限撤廃を促す事例にもなった。

 2025年8月には、豪州が次期汎用フリゲートとして、海上自衛隊が配備する「もがみ」型(多機能)護衛艦(FFM)の能力向上型(新型FFM)の導入を決定した。総計11隻、うち3隻は日本で建造し、残りは現地で組み立て・建造する方式で、投資額は約2兆2000億円に上る大型商談である。これも日本の防衛ビジネスに弾みをつける案件となった。

海上自衛隊の最新鋭護衛艦「FFM」(もがみ型)/2025年4月、神奈川県横須賀市、写真:共同通信社


 武器も工業製品である。市場が拡大して量産が進めば、単価が下がり、品質が向上し、競争力も増すという好循環が生まれる。単価が下がり、品質が向上すれば、自衛隊にも大きなメリットがある。同じ予算でより多くの高品質な装備をそろえられるからだ。

 だが、日本の防衛産業はこれまで海外展開をほとんど禁じられ、極めて少ないロットでの生産を余儀なくされてきた。その結果、必然的に単価も高くなりがちだった。アイテムによっては、職人による手作り同然で、「伝統工芸品」と揶揄されることさえあった。

 一概に比較はできないが、陸上自衛隊の主力戦車である10式戦車の場合、令和8(2026)年度の防衛省概算要求によれば、年間生産台数はわずか8台にすぎない。10式戦車は2010年の正式配備以来、年間製造台数は5〜10台前後で推移し、月に1〜2台という超スローペースが続いている。

 ちなみに、ポーランドがロシアの脅威に対抗する国防力強化の一環のため、韓国から最大1000両のK2ブラックパンサー戦車を導入する計画を進めている。メーカーの韓国・現代ロテムは製造ラインを拡張し、月産10台、年間150〜200台の量産も可能だという。

ポーランド東部の演習場を走行する韓国製戦車K2(写真:ロイター=共同通信社)


 気になるのは「国産武器は果たして実戦で使えるのか」という点である。「自衛隊が実戦で使用した経験は全くなく、信頼性や実力は未知数」との指摘があるが、これはある意味事実であり、やむを得ない面もある。

 この点、米国製の武器は最優秀クラスがそろっている。世界で最も実戦経験豊富な米軍で酷使され、問題点や故障箇所はすぐにフィードバックして改良される。そして再び戦場でテストされる。このサイクルを繰り返してきた、まさに「こなれた武器」である。

 仮に日本製の武器が自衛隊で実戦を経験しなくとも、外国軍で鍛えられ、問題点を洗い出し、アップデートされていけば、日本の安全保障に寄与するという考えも成り立つ。

国内防衛産業の“鎖国状態”を突破するための「救済措置」か

 これまで日本の防衛産業は、世界市場と隔絶された“鎖国状態”に置かれ、顧客は「自衛隊一択」だった。製造個数は何年も前から確定しており、多大な設備投資を行っても、受注数が伸びて収益増に直結する可能性はほぼなかった。

 そればかりか、限られた防衛予算の中で、近年は円安によって輸入武器の価格が高騰している。そのしわ寄せは国内の防衛産業界にもじわじわと及び、収益が悪化していると聞く。このままでは先細りは避けられない。

 2025年度の防衛予算は約8兆4700億円で、そのうち装備品、すなわち武器などの購入費は約1兆8700億円と、全体の約22%を占める。その相当部分は米国製武器などの輸入品調達に費やされ、国内防衛産業分は約半分の1兆円程度と思われる。

 日本の防衛業界には約1万社がひしめく。三菱重工業を筆頭に、川崎重工業、IHI、三菱電機、日本電気、富士通、日本製鋼所など、錚々たる大企業が上位に名を連ねる。

川崎重工業神戸工場で行われた海上自衛隊の潜水艦の引き渡し式(2025年3月、写真:共同通信社)


 だが、その9割以上は中小・零細企業であり、町工場も珍しくない。「下請け・孫請け」の裾野の広さこそ、日本の防衛産業の特殊性でもある。「戦車は1000社で造る」と言われるほどだ。

 限られた予算の中でのパイの奪い合い、武器単価の高騰による生産数の圧縮、さらに武器輸出禁止による収益悪化……。こうした状況を嫌い、「儲からない事業」から撤退を決心する防衛関連企業は、過去20年で100社以上との推計もある。

 近年では、2019年のコマツ(旧小松製作所、装甲車)、2021年の三井E&Sホールディングス(旧三井造船、護衛艦用エンジン)、住友重機械工業(機関銃)、2022年の島津製作所(航空機器)、ダイキン工業(弾薬)、横浜ゴム(特殊部材)、横河電機(航空機部品)、カヤバ(KYB、輸送機用油圧機器)などが代表例だ。下請け・孫請けの廃業や連鎖倒産も深刻である。

 第5類型の制限撤廃には、実は縮小する国内防衛市場の中で青息吐息となっている業界に対し、海外市場に活路を求めさせる救済措置という意味合いも大きい。政府は2025年11月に「日本成長戦略本部」を設け、17の成長戦略分野を選定し、その中に「防衛産業」を加えたことからも、高市氏の本気度がうかがえる。

「たまに撃つ弾がない」現場の悲哀、ウクライナ戦争が突きつけた“継戦能力”

 自衛隊界隈で古くから伝わる川柳に「たまに撃つ 弾がないのが 玉に瑕」というものがある。演習・訓練で撃つ大砲や小銃弾、ミサイルの数が少なく、やりくりに苦労する現場の悲哀を詠んだものだ。

「ミスター国防」を自認し、兵站(ロジスティクス)の重要性を熟知する石破茂前首相も、見栄えのいい戦車、戦闘機、戦闘艦の数ではなく、有事の際に自衛隊が継戦能力、つまり戦い続ける能力を維持できるよう、弾薬・燃料の備蓄を急ぐべきだと繰り返し述べてきた。

 2022年2月に勃発したウクライナ戦争でも、想定以上に大砲の砲弾が消耗された。膨大な備蓄量を誇るロシアに対し、弾薬不足気味のウクライナが苦戦している状況だ。

 同様に、急速に進化した低価格で使い捨ての自爆ドローンについても、量産に拍車がかかり始めている。

 これらを踏まえると、今回の第5類型の制限撤廃を機に、日本が増産すべきアイテムとして最優先すべきは、砲弾・弾薬、低コストの自爆ドローン、ウクライナ戦争やイラン戦争でも不足が伝えられる対空ミサイルである。さらには、ウクライナがロシアへの反撃で重宝している長距離、いわゆるスタンド・オフ武器の備蓄にも重点を置くべきだろう。

 弾薬不足が自国軍の士気を大幅に低下させ、戦場で一気に劣勢に陥る事例は、ウクライナの戦場でもたびたび発生している。

 12式地対艦誘導弾能力向上型、潜水艦発射型誘導弾、島嶼防衛用高速滑空弾、極超音速誘導弾など、現在日本が開発・導入を進めているスタンド・オフ武器の大量備蓄も、戦略上極めて重要である。

 有事の際、敵に反撃するため、アメリカに長距離巡航ミサイルの追加供与を求めたとしても、政治・外交上の理由から、たとえ同盟国の日本であっても供与を渋る恐れは十分に考えられる。

 実際、現在もアメリカはウクライナに対し、供与した米国製長距離ミサイルによるロシア領内攻撃に制限をかけている。そのため、ウクライナは急きょ、長距離巡航ミサイル「フラミンゴ」(射程3000km)を開発し、戦果を挙げている。

 世界市場で競争力のある日本の国産武器として最有力なのは、前述した新型FFMである。すでにニュージーランドやイギリス、インド、インドネシアなどが関心を示していると報じられている。

「そうりゅう」型潜水艦や各種スタンド・オフ武器、共同開発中のGCAP(次世代戦闘機)なども有力だろう。さらに、適切に整備され、状態の良い中古の艦艇や戦闘車両、航空機などにも注目が集まる可能性がある。

 殺傷能力を持つ装備の移転拡大には、移転先での使用実態をどこまで管理できるのか、第三国移転をどう防ぐのか、事後検証をどう担保するのかという課題も残る。政府は厳格な審査と移転後管理、国会議員全員への事後報告などを掲げるが、制度の運用次第では、日本が国際紛争を助長しているとの批判を招く可能性もある。

トランプ大統領の「国家防衛戦略」と武器輸出解禁の密接な関係

 第5類型の制限解除には、アメリカの強い要望も大きく働いていると見ていいだろう。

 トランプ米大統領は、2025年12月に政権の世界戦略の指針となる「国家安全保障戦略2025(NSS2025)」を公表し、今年1月には、それを基に軍事に焦点を絞った「国家防衛戦略(NDS)」を発表した。

 注目すべきは、NSS2025の重要課題の1つに「防衛産業基盤の再生」を掲げ、「同盟国との集団防衛強化のため、全同盟国・パートナー国の産業基盤の活性化を促進する」と強調した点である。

 さらに「アジア(インド太平洋)」の項では、台頭著しい中国を抑止するため、自国の防衛産業を再構築するとともに、同盟国には国防費の増額に加え、中国の侵略を阻止する能力への投資促進に集中すべきだとしている。

 NDS2026でも、アメリカの防衛産業基盤の強化を訴え、同盟国・パートナー国の生産力を活用すると強調している。これは、同盟国に対し、「脆弱となった米国の防衛産業基盤の復活を助けるため、同盟国の防衛産業も強化せよ」と求めていると解すべきだろう。

 実際、中国海軍の急激な増強に対応すべく、米海軍も艦艇の増強に挑んでいるが、国内の造船能力が脆弱なため、同盟国である韓国に次期フリゲートの建造支援を要請している。日本に対しても、艦艇分野での協力を求めているという。

2025年10月28日、米海軍の原子力空母「ジョージ・ワシントン」で演説するトランプ米大統領(右)と高市首相(写真:共同通信社)


 5月14、15日には、米中首脳会談が中国・北京で開催される。

 NSS2025では中国を「力」で抑止し、西太平洋への中国海軍の進出や台湾侵攻を阻止すると強調したトランプ氏。イランとの軍事衝突もまったく出口が見えない中、果たして中国の習近平国家主席とどのようなディール(取引)を行うのだろうか。それが、日本の武器輸出禁止解除の行方を大きく左右するかもしれない。

2025年10月30日、米中首脳会談後に話すトランプ大統領(左)と習近平国家主席(写真:ロイター=共同通信社)


 今回の殺傷武器の解禁は、単なるルールの変更ではない。それは戦後日本が歩んできた「平和国家」としてのアイデンティティの終焉なのか。あるいは、厳しさを増す東アジア情勢において、自らの力で平和を維持する「抑止力の始まり」なのか。

 単なる輸出の成否や、防衛業界を盛り立てて外貨を獲得するなど、ビジネス的発想ばかりでなく、日本が国際紛争をいかに管理し、トランプ政権という巨大な変数の中でいかに自律した安全保障を築けるかにかかっている。

筆者:深川 孝行