次世代不妊治療研究、バイオ系スタートアップが生殖機能を持つ精子細胞の育成に成功
アメリカ合衆国保健福祉省のデータによると、アメリカ人男性の8人に1人以上が何らかの不妊を経験しています。これはアメリカに限らず、世界的なトレンドであり、公的機関、民間機関どちらからもこの問題を解決するために多額の研究資金が注がれてきましたが、どうやら成果が見え始めてきました。
アメリカ・ユタ州のパターナ・バイオサイエンシズ社が、精原幹細胞から形成した「泳げる」精子の育成に成功したと発表しました。さらにラボで形成した精子から(少なくとも暫定的には)、問題なさそうに見えるヒトの胚の生成にもすでに成功しているとのこと。同社によれば、この技術によって、近い将来、不妊に悩む男性でも自分の遺伝子を継ぐ子を持てる可能性があるとのことです。
これは非常に大きな成果です。これらの細胞を成熟した精子へと変化させるために、どのような成長因子を与える必要があるのか、人々は理解していなかった、あるいは解明できていませんでした。そして今回、彼らはその物質を特定したようです。
と、ベイラー医科大学の泌尿器科医で男性生殖医療の専門家であるLarry Lipshult氏はコメントしています。
分子のシグナル
パターナ・バイオサイエンシズ社の共同創設者であり、ユタ大学医学部の准教授、そして自身も泌尿器科医であるアレクサンダー・パストゥシャク氏は、この取り組みについて、30年以上前に顕微授精技術が登場して以来の不妊治療分野におけるイノベーションである、と述べています。
私たちは、試験管の中で精子を分化・誘導できる可能性について研究を始め、精子形成に必要な分子プログラミングを解明しました。そして、その知見から、精子を育成できる「試験管内プラットフォーム」を開発しました。
同社は当初、幹細胞から精子細胞が自然に成熟するヒトの精巣細管の細胞構成を、ラボ内で培養してこのプロセスを補完できないか検討していました。しかし最終的には、計算生物学のメソッドのほうが、より実現可能性が高いことが判明。
リガンド(受容体に結合する分子)や、独自に開発した細胞培養用培地やその他のプロセスを通じて、重要な分子シグナルを再現する方法を突き止めました。これにより精子の元となる幹細胞を「成熟した正常な精子」にすることに成功したのです。
パストゥシャク氏のチームは次に、このラボで育成した精子を使って、実験用の「胚」を作成しました。これは、新しい手法の安全性を予備的に検証することのみを目的としたものです(妊娠を目的としたものではありません、念のため)。
評価は賛否ありか
同社の次のステップは、不妊症の男性から採取した幹細胞に、この手法がどこまで適合できるか、大規模かつより詳細に研究することです。さらに、より多くの実験用の胚を用いて、発育上または遺伝上の異常がないかどうかの追加調査を進めていく予定です。
しかし、喜ぶのはちょっと待った。今回の画期的な研究成果は、まだ査読つきの学術誌への掲載や、外部機関による審査・検証はされていません。過去にも、フランスを拠点とするKallistemというバイオテクノロジー企業が、すでにラボでの精子育成の成功を宣言しましたが、2015年、外部の専門家によってその結果に疑問が呈されたという前例があります。また他にも、同じような画期的な成果に関する過去の別事例もあって、こちらは盗用や不正の疑いで2009年に学術誌から撤回されています。
でも、パターナ・バイオサイエンシズ社は信用に足る実績があります。同社は昨年、Mayoクリニックとアリゾナ州立大学が共同運営する「メドテック・アクセラレーター」プログラムに採択されたライフサイエンス企業10社のうちの1社に選ばれましたし、この研究に対して同プログラムから「破壊的イノベーション賞」を受賞しています。
そしてこの研究が本物だったとしても、子を望む男性にとってコストが大きなハードルになる可能性があります。
同社によれば、この処置を行なった場合の費用は5,000ドル〜1万2000ドル(約75万円〜180万円)程度になると予想されています。高額ではありますが、一般的な体外受精(IVF)の1サイクルにかかるアメリカでの典型的な費用1万5000ドル〜3万ドル(約225万円から450万円)と比べるとそこまで高くないかもしれません。

