人は「怒り」を感じると信頼性の低い情報源からのニュースを拡散しやすくなる

中国・深圳大学心理学院のXiaozhe Peng氏らの研究チームが、「道徳的な怒りを感じた人は、信頼性の低い情報源からのニュースでも拡散しやすくなる」という研究結果を発表しました。研究では、怒りが人の判断を速め、ニュースの出どころの信頼性に注意を払わせにくくする可能性があるとされています。
Moral anger accelerates misinformation sharing: evidence from experimental manipulations and hierarchical drift-diffusion modelling: Cognition and Emotion: Vol 0, No 0 - Get Access
Feeling angry makes people more likely to share news from low-credibility sources
https://www.psypost.org/feeling-angry-makes-people-more-likely-to-share-news-from-low-credibility-sources/
SNSには、強い感情を引き起こすよう設計された誤情報やミスリーディングなニュースが多く流れています。これまでの研究でも、道徳的な憤りが虚偽の主張の拡散に関わることは示されてきましたが、憤りを構成する「怒り」や「嫌悪」といった個別の感情がどのように作用するかは十分に分かっていませんでした。
Peng氏らの研究チームは、SNS上で人がニュースを共有する際、内容の正確さや情報源の信頼性よりも感情的な反応が優先されることがあるのかを調べました。Peng氏は、感情を強く刺激する投稿が誤情報の拡散を速め、時にはオンライン上の攻撃性を高める様子を繰り返し目にしたことが、この研究の動機の一つだったと説明しています。

第1の実験では、中国のオンラインプラットフォームを通じて集められた223人の参加者が、虚偽情報として作成された24本のニュース見出しを読みました。見出しは、道徳的な問題の深刻さが中立的なものから重大な違反まで変化するよう調整され、情報源の信頼性も0%から100%までランダムに割り当てられました。
参加者は見出しを共有する意思を示す前に、ニュースの正確性、出来事の道徳性、または特に何も意識しない条件のいずれかに誘導されました。その結果、全体としては信頼性の高い情報源からのニュースほど共有されやすい一方で、重大な道徳違反を含む見出しも共有意欲を高めることが分かりました。
特に、参加者がニュースの道徳的側面に注意を向けるよう促された場合、重大な違反を含む見出しを共有したいという傾向が強まりました。一方で、正確性や道徳性など内容そのものに注意を向けると、参加者は情報源の信頼性ラベルに頼る度合いが下がりました。

第2の実験では、116人の大学生を対象に、道徳的な怒りと道徳的な嫌悪の違いが調べられました。参加者は、軽微または重大な道徳違反を描いた18本の虚偽ニュース見出しを読み、それぞれが信頼性の高い情報源または低い情報源から出たものとして提示されました。
この実験では、参加者に現在の怒り、嫌悪、または中立的な注意状態を評価させた後、ニュースを共有したいかどうかを尋ねました。その結果、怒りを意識するよう促された参加者は、嫌悪や中立の条件に比べて、信頼性の低い情報源からの見出しを共有したいと答える傾向が有意に高くなりました。
一方で、嫌悪を意識するよう促された参加者では、中立条件と比べて共有意欲の増加は見られませんでした。研究チームは、怒りが問題に立ち向かう行動を促すのに対し、嫌悪は対象から距離を取る反応につながりやすいという心理学的な説明と整合するとしています。

第3の実験では、怒りが共有判断のどのような認知過程に影響するのかが調べられました。63人の大学生が、低い、曖昧、高いという3段階の情報源信頼性ラベルが付いた36本の真偽混在の見出しを評価しました。参加者はニュースを評価する前に、自分が強い怒りを感じた個人的な記憶について書く課題を行いました。その後、各見出しをどれだけ共有したいかを回答し、研究チームは階層ドリフト拡散モデルという数理モデルを使って、判断の速さや、共有を決めるまでに必要な心理的証拠量を分析しました。
分析の結果、怒りを誘発された参加者では、共有を決めるための判断しきい値が低下していました。つまり、怒りを感じている人は、見出しを共有するかどうかを決める際に、より少ない証拠と短い時間で判断する傾向があったというわけです。
重要なのは、怒りが真偽を見分ける能力そのものを低下させたわけではないとされた点です。研究チームによれば、怒りは情報が本当かどうかを識別する力を変えるのではなく、共有ボタンを押すまでの心理的なハードルを下げることで、より速く、慎重さの低い判断につながったと考えられます。
ただし、この研究には限界もあります。実験は統制された環境で行われたものであり、測定されたのは実際のSNS上での共有行動ではなく、共有したいという意思でした。また、サンプルは中国という特定の文化的文脈に限られています。感情の表出や感情の区別の仕方は文化によって異なる可能性があるため、研究チームは今後、国やプラットフォームをまたいで同じ仕組みが成り立つかを検証する必要があるとしています。
研究チームは、誤情報の拡散を抑えるには、単に内容の正確性を高めるだけでなく、感情や判断プロセスに働きかける介入も重要だと考えています。例えば、強い怒りや憤りを引き起こす投稿に対して、ユーザーに一呼吸置くよう促す軽量な警告表示などが候補として挙げられています。

Peng氏は、誤情報の問題は単に「人が誤ったことを信じる問題」ではなく、感情的に帯電したコミュニケーションの問題でもあると指摘しています。特に道徳的な怒りは、表明、非難、急速な拡散へと人を押し出す行動志向の強い感情であるため、ミスリーディングな情報がなぜ短時間で広がるのかを理解する上で重要だと述べました。
