SNSで話題「マッズ!」が口癖の毒舌寿司職人の誕生秘話を作者・せきやてつじ氏が語る
ドラマ化もされたイタリア料理漫画の金字塔『バンビ〜ノ!』など多くの著書を持つ漫画家せきやてつじ氏。現在、青年寿司職人の青春を描いた料理漫画『寿エンパイア』を連載しているが、そのスピンオフとなる『寿司職人『児島 渡』〜寿エンパイア番外編〜』の単行本が2026年4月に発売された。 「マッズ!」が口癖の毒舌だけど心優しい主人公、児島 渡の誕生秘話とともにその魅力や社会への想いについて前編・後編の2回に分けてお届けする。
スピンオフの主人公は毒舌かつ嫌味なキャラクター
――本編の『寿エンパイア』の主人公、湧吾は素直で熱い寿司職人の青年ですが、今回のスピンオフで主人公となるベテランの寿司職人、児島 渡はかなりクセのある人物ですね。
はい、児島 渡は本編の主人公、湧吾が修行する老舗寿司店『崋山』の金沢支店の料理長です。東京郊外にある山の中の店にやってきた児島は、ひと口湧吾の寿司を食べて「マッズ。お前らは山の中に捨てられた産業廃棄物だ」と捨て台詞を吐いて帰るという毒舌かつ嫌味なキャラクターです(笑)。

「マッズ!」が口癖の寿司職人、児島 渡 ©せきやてつじ/小学館
――お前らは産業廃棄物……! パワハラで訴えられそうな、すごいセリフですが、最初から重要な脇役にしようと思って登場させたのですか?
いいえ。最初はたくさんいる脇役のひとりという位置づけでした。しかし、児島は毒舌を吐きながらも、寿司をその場で作って湧吾に見せてやります。すると「毒舌でも親切な奴だ!」とSNSで読者が盛り上がったので驚きました。
児島渡のモデルは作者の親戚!?
――「マッズ!」というキメセリフとともに、読者に強烈な印象を残した毒舌・児島 渡ですが、彼のモデルはいるんですか?
はい、私は北九州市小倉の出身なのですが、母方の家系はみな毒舌なんです(笑)。ですので児島は私の血筋が生みだしたキャラクターとも言えます。
――身近な方がモデルなんですね。お母さまは例えばどんな毒舌を?
私が帰省するたびに出迎えの言葉がまず「あんた、肥えたねー!」です(笑)。

取材で訪れた富山県氷見市の寿司屋さんで(せきや氏写真提供)
――なるほど(笑)。そして人気を得た児島は再び、登場します。
はい、寿司のコンクール「大江戸寿司番付」に出場した児島は、自分を倒そうと燃えている湧吾に皮肉を込めながらも、どこか愛情をかけている。そんな児島の優しさとひねくれっぷりに、またまた反響が大きくて。「もっと児島を出せ!」という声がSNSで上がりました。
面白いなあ、と。自分でも知らない児島の魅力を読者に教えてもらいながら、一緒に児島というキャラクターを育てていったのだと思います。

東京すしアカデミーで寿司を握る練習をするせきや氏(せきや氏写真提供)
――児島のそんなギャップや、不器用さが支持されたのでしょうか?
どうでしょう? 今の時代はあまりいない人物ですよね。ただ、登場させるたびに「待ってました!」と読者のみなさんが盛り上がるので、「それなら彼を主人公にした番外編を」とたびたび描くことになり、ついにはスピンオフとして単行本を出させていただくことになりました。書き下ろしとして、児島の舎弟、池間くんと児島が出会った頃の話を追加してます。
能登半島地震のボランティアに参加
――今回の番外編には、児島が働く金沢の近くで起きた、北陸の被災地のお話も出てきますね。東京からやってきた青年と児島が一緒にボランティアをして、炊き出しもするという。
元日に起きた北陸の地震で、SNSで「ボランティアは迷惑だから行くな」というコメントがありました。もちろん、行ってはいけない時期もあるし、迷惑行為はダメですが、ボランティア自体は悪いとは思っていなかったので、ショックを受けたんです。だけど、よく考えたら俺自身、被災地のボランティア、行ったことがないな、と。

能登にボランティアに行った経験がエピソードに ©せきやてつじ/小学館
――過去に一度も?
はい。恥ずかしながら、最初はいったいどうやって参加するのかも知りませんでした。それで人に聞いたりしているうちに、被災地ボランティアを受け付ける専門サイトがすでに開設されていることを知ったんです。
で、まずここに登録して……服装はこんなかんじで……と。中年になって初めて被災地でのボランティアに行ってみることにしました。

被災した能登の町(せきや氏写真提供)
――現地ではどうでしたか?
行く前はめちゃくちゃ緊張していたし、徹夜して描いた原稿を編集部に送った後、手に付いたインクを洗う時間もなく、金沢行きの最終便の新幹線に飛び乗ったくらいドタバタだったのですが、本当に実際に行ってみてよかったです。
どんな様子だったかはぜひ漫画を読んでほしいのですが、被災地の方は「助かった」「また来てほしい」と喜んでくださるし、ボランティア仲間は皆、気のいい人たちで今も仲良くしています。児島のようにとてもいい人なんですが、ちょっとクセのあるおじさんもいて、彼との雑談は少しですがストーリーに反映させました。
――実話が元になっているんですね。

能登高校書道部が書いたボランティアへのメッセージ(せきや氏写真提供)
そうです。何よりも感動したのは、ボランティアの宿泊所となる体育館に、地元の能登高校書道部のみなさんが書いた「恩送り」という巨大な書道の作品が掲げられていたことです。すごくエネルギーがあるというか……あんなの見たら、おじさん、涙でちゃうよ(笑)。おかげで後日、またボランティアに行くことになりました。
――ひとりの“ボランティアおじさん” を再び、能登に向かわせる力強い作品だったのですね。後編では番外編に込めた想いなどをお聞きします。

「寿司職人『児島 渡』〜寿エンパイア番外編〜」小学館・刊
「寿司職人『児島 渡』〜寿エンパイア番外編〜」小学館
https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784098545445
取材/白石あづさ
