トヨタとの共同開発で「スバルらしさ」は出せたのか?新型BEV「トレイルシーカー」でスバルが証明した独自の流儀

スバル・トレイルシーカーのフロントビュー。全長4.8m超のステーションワゴンは日本では貴重な存在(筆者撮影)
スバルは4月9日、中型乗用BEV(バッテリー式電気自動車)「トレイルシーカー」を発表し、受注を開始した。2022年にリリースした「ソルテラ」に続くリテール向けBEV第2弾である。
今日、BEVは大変な逆風に見舞われているが、世界の環境規制やエネルギー情勢が将来どのように変わるかは依然不透明で、自動車メーカーが今の時点でBEVを選択肢から落とすのは持続可能性を捨てるようなものだ。が、年間生産台数が87万8000台(2025年)と自動車メーカーとしては小規模なスバルにとって、BEVの開発や生産への投資は大きな負担になる。
そこでスバルが取った戦略は、同社の筆頭株主で高度な電動化技術を持つトヨタ自動車との協業である。
トヨタと共同チームを組み、クルマの基礎となる電動アーキテクチャを開発し、BEV作りに不可欠な資材、部品の調達もトヨタに相乗りする。それによってラインアップにBEVを入れることを実現させるというものだ。
それぞれが単独で開発を行うのに比べてはるかに効率的なやり方だが、果たしてスバルはそれで独自性を出せるのだろうか。
年間87万台の規模でどう戦うか?スバルが選んだ「トヨタとの協業」という最適解
両社が共同開発した電動アーキテクチャ「e-TNGA」は前輪駆動、後輪駆動、4輪駆動と自在に作り分けられ、かつ車体サイズの拡縮もやりやすいスケーラブル設計となっている。
この基本部分を使って両社がまったく異なるクルマを作ることも可能だっただろう。例えばルノーと日産自動車はCMF(コモンモジュールファミリー)という共通のアーキテクチャを使いながら、サイズ、性能、デザインとも全く異なるクルマを作り分けた。ブランドアイデンティティを重視するならばこの方法を取るべきだろう。
しかし、トヨタとスバルはアーキテクチャだけでなくモデルそのものについても完全に共同開発することを選択した。電動システム、車体の外板、内装の造形、ソフトウェアなどクルマの大半を共通化し、差別化は細部のデザインや色、装備などで行う。協業なのでOEM(相手先ブランドによる供給)ではないが、形としてはそれに近い。
この方法はBEVがどのくらいのスピードで世の中に浸透するか分からない中で過剰投資を避けるのには好都合だが、ブランドごとの差別化は当然難しい。
ソルテラ、トレイルシーカーはトヨタブランドからはそれぞれ「bZ4X」「bZ4Xツーリング」として販売されるが、デザイン上の違いは往年のトヨタ「マークII」「クレスタ」「チェイサー」の3兄弟よりも小さい。ちなみに、生産はトレイルシーカー、bZ4Xツーリングともにスバルの矢島工場が担うが、製造事業者はあくまでトヨタ自動車である。

ダッシュボード形状はトヨタ版bZ4Xツーリングと同じだが、色合いが違う。異形ステアリングとのコンボでスバルっぽさが出ている(筆者撮影)
筆者は共同開発第1号のソルテラを3回、計2400kmほどロードテストしているが、前述の弱点がモロに出ているという印象を抱いた。
クルマ自体は2022年のデビュー当初は耐寒性が極端に低いという弱点が見られたものの、その後ファームウェア改良、昨年の大規模マイナーチェンジを経てどんどん良くなった。
問題はスバル車としての商品性である。クルマの作りや乗ったフィールは長所も短所も全部トヨタ車というイメージで、このへんがスバルらしいと感じる瞬間はほとんどなかったのだ。
サスペンションの設定はスバルのオリジナルということだったが、テイストは終始トヨタ車という印象。またリアワイパーが省かれていること、スイッチ類の多くが透過光式でなく、夜には何のボタンかが視覚的に分からないことなど、スバルが単独で考えたのならこうは作らないだろうという部分が多かった。
スバルのBEV第2弾のトレイルシーカーも差別化の手法はソルテラと同じく、サスペンションチューニング、フェイスデザインやカラー、一部の装備の差異などにとどまる。果たしてそれでスバルブランドを主張できるクルマになっているかどうか、実際にトレイルシーカーをロードテストしてみた。

前席は運転席、助手席とも広々。テスト車のET-HSのシートにはベンチレーターが仕込まれていて快適だった(筆者撮影)
スタイリングより実用性、徹底した「荷室の形状」にみるスバルの伝統
テスト車両は電動AWD(4輪駆動)とプレミアムサウンドシステムをはじめ充実した装備を持つトップグレードの「ET-HS」。オプションとしてグラストップおよび235/50R20タイヤ+20インチホイールが装備されていた。

テスト車のET-HSはハーマンカードンのプレミアムサウンドシステムが装備されており、音響は大変良かった(筆者撮影)

オプションの235/50R20タイヤ&20インチホイールが装備されていた。電費(≒航続距離)面ではマイナスだが、グリップ力は屈強だった(筆者撮影)
走行ルートは東京を起点とした北関東〜南東北周遊。最遠到達地点は福島県の浪江町で、総走行距離は845.8km。走行した道路の大まかな比率は市街路3、山岳路を含む郊外路5、高速2。気温は9〜25℃。1〜2名乗車、エアコンはごく一部を除き常時AUTO。
ではレビューに入っていこう。先に述べたように、ソルテラをドライブさせた経験からトヨタとの共通モデル開発という形で果たしてスバルらしさは出せるのかという疑念を抱きながらのロードテストだったが、実際に乗ってみたところ、モデルの成り立ち、走行フィールなど、いろいろな面でスバルらしさを感じさせるクルマになっていた。
クルマの作り自体はソルテラと大きく変わらない。トレイルシーカーのスタイリングは一見ステーションワゴン風だが、全長が長いだけで基本骨格はソルテラと同じ。デザインも前後のドアパネルはじめ共通部品が多い。最低地上高は210mmと同一で、全高はルーフレールが装備されるぶんソルテラより高いくらいだ。

スバル・トレイルシーカーのサイドビュー。ホイールベース、最低地上高、ルーフレールを除いた車高はソルテラと同じだが、イメージはかなり異なる(筆者撮影)
では、どこがスバルらしかったのか。まず挙げたいのはクルマのキャラクターそのものだ。
最近はバックドアを寝せたクーペ風SUVが流行っており、ソルテラもそのひとつだ。それに対して車体後方を延長し、バックドアの傾斜を立てたトレイルシーカーのフォルムは明らかにテールエンドにマスを感じさせるもので、いささかぼってりとした印象だ。

スバル・トレイルシーカーのリアビュー。車体後端までルーフが延びたステーションワゴンというだけでスバルらしく感じられるから不思議だ(筆者撮影)
それと引き換えに得たのは、バックドアを開けて見た瞬間その収容力に圧倒されるほどの広さの荷室だ。VDA方式による計測値は最大633リットル、試乗したET-HSでも619リットルと十分に優れた数値だが、特筆すべきはその荷室の形状。最近のステーションワゴンは大容積でも荷室形状が平べったいものが多いが、トレイルシーカーの荷室は床面からシートバック上端までの高さが非常に大きく、スクエアな空間なのだ。

トレイルシーカーのラゲッジスペース。最大633リットルという容量自体も立派だが、高さ方向の余裕が大きく、実用面ではその数値以上のものがありそうだった(筆者撮影)
こういう荷室形状はスペック以上に使いやすい。その荷室を見ていると、「どのくらいキャンプ用品を積めるかな?」「16cm、f8反射望遠鏡と大型赤道儀は余裕」「大型クーラーボックスを縦積みできそう」など、遊びのことが自然と頭に浮かび、ゴルフバッグいくつなどというお定まりの表現などどうでもよくなる。
スタイリングなどお構いなしに実用パッケージングに凝るのは昔からのスバルの伝統で、トヨタはこういうクルマ作りはあまりやらない。この商品企画自体がスバル的と言える。

後席はレッグスペースは広大だが、床が高いために足を前に投げ出して座るような姿勢になるため快適性は低い。ソルテラでも同様の欠点があったが、車体構造が同じであるため修正は難しかったようだ(筆者撮影)
重さを感じさせない「粘り腰」、ワインディングで見せたスバルチューンの真価
走り出してもその印象は続く。
ソルテラとベースは同じなのだが、ライドフィールは実にスバルらしいもの。高速道路の巡航時に大きなうねりに出会うと意外にストロークが渋かったりとプラットフォーム由来と思われるクセは残っているものの、四輪が柔らかく路面に粘り付いているような安定性の高さはスバルチューンの面目躍如だ。
その特性が最も顕著に感じられたのは山岳路だ。今回のロードテストでは茨城北部の常陸太田〜北茨城までの約40km、福島の浪江町から郡山市郊外までの約70kmと、2区間がワインディングロードの連続する山道だった。
テスト車両はオプション込みで車検証重量が2050kgに達するが、その重みをサスペンションの固さでごまかすのでもなく、さりとて千鳥足になるでもなく、実にあんばいのいいハンドリングだった。
コーナリングの入り口で減速しながらステアリングを切るとまずフロントサスペンションがしっかりと沈み、巻き込むような姿勢になるところでリアサスペンションがロールして粘る。
一瞬の出来事だが、それがスバル車独特の粘り腰と、クルマの動きの予想のしやすさを生む。フィールとしては日本で売られなくなった4ドアセダン「レガシィ」の最終型を彷彿とさせるもの。スバル車のオーナーはクルマのテイストに関して一家言持つ人が多いが、これならスバルだと納得するのではないかと思った。

常磐線双葉駅のロータリーにて筆者撮影

夜間の室内。前席のみだが控えめなアンビエントライトが仕込まれていた(筆者撮影)
充電速度と航続距離から見る「使えるBEV」としての立ち位置
一方、EV性能については昨年10月にbZ4X/ソルテラの性能を大幅に向上させた流れを受け継いでおり、基本的に良好だった。
100%で東京・恵比寿を出発後、無充電での航続レンジを見てみたところ、279.2km走行地点の北茨城で残量50%、そこから常磐自動車道と国道6号の混合ルートで福島の浪江町に到達した380.1km時点で残量30%、浪江町から阿武隈山地を越えて充電を見込んでいた郡山に達した454.8km地点で残量0%。20インチタイヤ装着車のWLTCモード走行時の国交省審査値627kmに対する達成率は72.5%だった。
航続距離自体は高性能BEVが増えた今日においては特筆すべき長さではなかったが、トレイルシーカーはバッテリー総容量が74.7kWhと、同等性能のBEVの中では少し小さめ。それを考慮すると十分なパフォーマンスと言える。容量の8割を使う場合でも高速と一般道混合で360kmくらいは走る計算になる。
旅先でバッテリーの電力量が少なくなったら急速充電を行う必要があるが、こちらはbZ4X/ソルテラの改良版と同様、日本の充電規格CHAdeMO(チャデモ)規格に準拠するモデルとしてはトップクラスの速さを見せた。
トレイルシーカーの充電受け入れ性能を100%発揮できるFLASHという急速充電器を使用して充電を行ってみたところ、最大受電電力は147kWに達し、20分で推定投入電力量43kWhを得られた。省エネを意識して走れば300km近い航続が期待できるスコアで、これなら中継充電を要するような長旅も余裕だろう。

最近全国に設置個所が増えているFLASHという高性能充電器で充電中。充電価格がリーズナブルなだけでなくバーコード決済が使えるので便利。メーカーや充電会社のサービスがなくとも不自由しない時代が来つつある(筆者撮影)

福島のFLASH充電器で20分充電。充電電力量は充電器側で交直流変換する前のもので、ロス分が9%ほどあるが、それを割り引いても20分で43kWh(250〜300km分)は素晴らしい速さ(筆者撮影)
航続距離、充電とも十分な性能を示したトレイルシーカーだが、難点がひとつ。バッテリー残量計の減りが一定でなく、残りの航続距離を読みにくいのだ。
序盤、100%から90%まで減るのに70km以上を要し、100%換算値では700km以上走れるという計算に。さすがにそれはインフレだろうと考えたが、浪江町に着いた時点でも10%あたり54km以上を維持していた。ところがここから郡山までの80km足らずでその30%を使い果たしてしまったのだ。
当初は浪江町に着いた時点で相馬、福島と大回りして郡山に達すればちょうどいいと考えていたが、今年1月にソルテラのロードテストをやったとき、相馬から福島までの50kmで充電率20%以上を消費してしまったことを思い出し、安全策を取ったのだが、それでも足りないくらいだった。
電気はガソリンや軽油などの液体燃料と異なり、バッテリーにどのくらい電力が残っているかを物理的に測る方法がなく、どのBEVもバッテリーの電圧や消費電力量などの情報から残量を推計している。その推測技術が少し甘いのではないかと思われた。電動部分の開発を担っているトヨタ次第だが、より精度を高めていただきたいと思うところである。
「スバルらしさ」はBEVでも成立する、トレイルシーカーがもたらす未来
このロードテストでのトレイルシーカーの印象を整理すると、ポイントは2点。まずは電気的な性能は動力性能を含め、価格に対して十分なパフォーマンスであること。そしてもうひとつは広大な荷室を持つパッケージから運動性能まで、スバル車らしさを感じさせるクルマに仕上がっていたということ。
特に後者はこれまでbZ4Xの陰に隠れてソルテラをほとんど売り込めなかったスバルにとっては、捲土重来を期し得るという点で重要な意味合いを持つ。
スバルの顧客にとって、スバルらしさがあるかどうかは購買意欲を左右する決定的ポイント。内燃機関の水平対向エンジンと異なり、BEVの電気駆動システムはメーカーや電気モーターの形式などによるフィール差はほとんど出ない。そのBEVでトヨタとほとんど同じ兄弟車を売れば、ブランドの浸透度や信頼感、販売力などで圧倒されるのは当たり前だ。
だが、トレイルシーカーのようにトヨタ単独ならこんなクルマは作らないだろうというキャラクターを持つとなると話は変わってくる。「どうせトヨタ車と同じ」ではなく、「スバルらしさのあるクルマをトヨタでも売っている」という認識をスバルファンに持ってもらえる可能性は十分にある。
販売の実数はトヨタ・bZ4Xツーリングのほうが多かったとしても、セールスマンが顧客に「BEVでもスバルらしさ満点です」とアピールできるのはスバルにとっては大いなるプラス材料だ。
折しもスバルは昨年、Dセグメントミッドサイズクラスの内燃機関搭載ステーションワゴン「アウトバック」の販売を終了している。トレイルシーカーはその実質的後継モデルを張れるだけの実力を持っていただけに、これからの展開が楽しみなところだ。

総走行距離845.8km。トヨタとスバルのBEV共同開発が次のステージに進んだことを確認できたという点で有意義なロードテストだった(筆者撮影)
筆者:井元 康一郎
