『銀河の一票』©︎カンテレ

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 テレビドラマ好きにとって期待しかないドラマ『銀河の一票』(カンテレ・フジテレビ系)が始まった。

参考:『銀河の一票』が超えたドラマで政治を描くハードル 黒木華×野呂佳代コンビが都政を変える

 なぜなら、プロデュースは『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)、『17才の帝国』(NHK総合)、『エルピス―希望、あるいは災い―』(カンテレ・フジテレビ系)を手掛けた佐野亜裕美。さらには『舟を編む~私、辞書つくります~』(NHK総合)、『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』(フジテレビ系)の蛭田直美によるオリジナル脚本なのだから。

 演出には『ひらやすみ』(NHK総合)の松本佳奈はじめ、藤澤浩和、瀧悠輔、稲留武が名を連ね、音楽を手掛けるのは『大豆田とわ子と三人の元夫』や映画『ルックバック』の坂東祐大。この布陣が作る「選挙エンターテインメント」なのだから、面白くないわけがない。

●今を生きる私たちの代弁者と、本作が大切にする「温度」

 『銀河の一票』は、黒木華演じる「選挙参謀」星野茉莉と、野呂佳代演じる「スナックのママ」月岡あかりという異色バディが織りなす選挙エンターテインメントだ。

 4月20日に放送された第1話は、まさに完璧な1話だった。『エルピス』(渡辺あや脚本)の主人公・浅川恵那(長澤まさみ)が抱えていた“働く女性を取り巻くしんどさ”は、本作の主人公・星野茉莉を取り巻く現状にも繋がっている。それでいて、あかりの店「スナックとし子」に居合わせた常連客たちの心に訴えかける茉莉の真っ直ぐな“演説”は、同じく蛭田直美脚本の選挙ドラマ『日本一の最低男』の主人公・大森一平(香取慎吾)の演説と重ねずにはいられなかった。つまり、佐野亜裕美×蛭田直美のタッグが生みだした主人公・星野茉莉は、今を生きる私たちの代弁者なのだ。

 父であり与党・民政党の幹事長である星野鷹臣(坂東彌十郎)によって政界を追い出されることになった茉莉が、偶然出会ったスナックのママ・あかりをスカウトして都知事選に誘うまでを描いた第1話。観終えて感じたのは、「政治」を描いた本作が、何より大事にしているのは「温度」であるということだ。

 例えばそれは、血の通った何かだ。誰かと誰かの心が確かに通い合ったと感じる時の安堵の色だ。掌に収まるほどに小さくて、温かい希望の光。それは、茉莉が鷹臣の後妻である桃花(小雪)から貰った、美味しそうなリンゴジャムの黄色ではないか。

●行き場を失ったリンゴジャムと、「光」を探す物語

 第1話において、「これ、誰かお友達に」と言われて茉莉が渡されたそのジャムは、誰かの手に渡りそうで渡らないという行程を何度も繰り返す。

 ある時は幹事長政策秘書・雫石(山口馬木也)の鋭い指摘を誤魔化すために使われ、ある時は同僚・住田(佐藤真弓)にお願いごとを聞いてもらうためのお礼の品として使われる。このように、あくまで仕事を円滑に進めるための潤滑油としてジャムを使おうとしていた彼女は、幼馴染で民政党の若手議員である日山流星(松下洸平)にだけは友情からプレゼントしようとするが、運悪く受け取られずに終わる。

 そしてその先で偶然出会ったあかりの手の中に、ジャムは収まるのである。茉莉が大切にしているおもちゃの電球を探してくれたお礼として。そしてそのジャムは、形を変えて茉莉の元に戻ってくるのだ。

 鷹臣に退職金を突きつけられ家を出た、まさに絶望のその先で、彼女はあかりのスナックを訪れ、ジャムのお礼にジャム入りのサンドイッチと卵サンドをもらう。この場面からは、大きく2つのことが言えると思う。1つは、日山とあかりの対比だ。

●主人公・茉莉による「光を探す」物語

 子どもの頃から「目指す何かを見つけるとそれに向かって一直線」で「よく迷子になる」茉莉をいつも明るい方へ導き、時に迷子の彼女を探し出してくれたのは亡き母・瑠璃(本上まなみ)であり、父・鷹臣の政治家としての指針でもあった宮沢賢治の「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」という言葉だった。

 でも、第1話冒頭の茉莉が手に持つおもちゃの電球は壊れてしまっていてもう光を灯すことはなく、見上げたその先の階段は、カメラが茉莉と共に見上げているせいか、なんだか歪で底知れない物体のように見える。つまり第1話は、そんな主人公・茉莉による「光を探す」物語なのだ。

 最初、彼女は日山の「強さ」を「明るさ」だと信じた。なぜなら「強さって明るさ」だと言っていた母の言葉があったからだ。だからこそ、誰にも見せていない手紙の内容を明かした。でもそれは、彼女にとって不本意な結果に終わる。だからこそ、日山にあげるはずだったジャムが、本当に茉莉が求める「明るさ」を持った人・あかりの手に渡ることが、何より幸福な結末なのである。

 もう一つは、月岡あかりという人物が、常に“投げられたボールを返してくれる人”だということだ。

 ジャムのお礼のサンドイッチ。さらに、あかりの店で茉莉が言った「政治の話じゃないです、私たちの話です。私とあなたの」という言葉に対し、終盤あかりが「あなただって世界の一部でしょ。私が幸せでいるために、あなたにも幸せでいてもらわないと」と返したのもそうだ。あかりは常に、茉莉の言葉にちゃんと応える。「政治の話はよくわからない」と一度は逃げつつ、そのことを謝罪し、時間をかけて彼女自身の言葉に置き換えた後、ちゃんと返してくれるのだ。

 そして、茉莉が接待先で起きた様々な出来事に対し、「私に似合うと思って買った」はずのピンクのスーツを「よこしまな気持ちで着た服」と否定するしかなくなった時、あかりが「かわいい」「似合ってる」と言ってくれたから、本来の自分の思いを肯定できたように。あかりは決して茉莉を「1人にしない」のである。初めて会ったにもかかわらず、だ。

 月岡あかりは、暗闇の中にいた茉莉を照らす光になった。「個人の幸福」が「世界ぜんたいの幸福」に繋がるのなら、彼女たちが挑む選挙は、そしてそれを描いたこのドラマは、それを見ている私たちドラマ視聴者の心も照らしてくれるに違いない。(文=藤原奈緒)