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老後の生活を支える柱となる年金制度。その仕組みは複雑で、いざという時の受給額を正確に把握できている人は決して多くありません。配偶者に先立たれた際、残された家族の大きな支えとなるはずの「遺族年金」においても、認識の齟齬が深刻な生活不安を招くケースも珍しくないのです。

消えた「夫の厚生年金」の正体

都内近郊に住む佐藤美智子さん(仮名・70歳)。夫・隆さん(仮名・74歳)の四十九日を終えた後、自宅で通帳を確認しました。74歳で亡くなった隆さんは、中堅企業の管理職を務めた人。生前「老後は安泰だ。お前に苦労はさせない」と、美智子さんに話していたそうです。

夫婦の年金受給額は月額約26万円。住宅ローンも完済しており、貯蓄を切り崩さず生活ができていました。しかし、夫の他界後に振り込まれた遺族年金は、月10万円に届かず。美智子さんは「夫に万一のことがあったら、遺族年金として、夫の年金をそのまま妻が引き継げると聞いたことがあって……。二度、三度、貯金通帳を見ても、やっぱり思っていた金額とは違いました」と話します。

この困惑の原因は、遺族厚生年金の計算式にあります。遺族年金においては、「夫の年金をそのまま妻が引き継げる」とか、「夫の年金の4分の3が受け取れる」という情報も流布しています。しかし、実際は異なります。遺族年金は大きく分けて、基礎年金に由来する「遺族基礎年金」と、厚生年金に由来する「遺族厚生年金」の2つがあります。子の要件を満たしていない場合、受け取れる可能性があるのは遺族厚生年金のみ。そして遺族厚生年金は、原則として配偶者の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。

佐藤さん夫婦の年金額、月約26万円の内訳は以下の通りでした。

●夫の老齢基礎年金: 約7万円

●夫の老齢厚生年金: 約12万円

●妻の老齢基礎年金: 約7万円

つまり、遺族年金として受け取れるのは、夫の老齢厚生年金12万円の4分の3である、9万円程度となります。

「月26万円だと思っていたのに……。遺族年金が月9万円ほどだとわかったとき、膝が震えましたよ。これからは自身の基礎年金と合わせても月16万円。貯蓄を取り崩して生きていくしかありません」

遺族年金の仕組みと誤解が生じやすいポイント

遺族年金は、亡くなった人の年金額がそのまま配偶者に移る制度ではありません。公的年金は老齢基礎年金と老齢厚生年金で構成されていますが、遺族に支給される際は仕組みが異なります。子のいない配偶者の場合、遺族基礎年金は原則として支給対象外となり、受け取れるのは遺族厚生年金に限られます。この点について「夫の年金がそのままもらえると思っていた」という声は少なくありません。

遺族厚生年金は、亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3が基本です。そのため、夫婦で受け取っていた合計額と比較すると、受給額が大きく減少するケースが一般的です。厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』で、国民年金受給者の平均年金額を見ていくと、遺族年金においては月8万8,917円。事例のような水準は決して特別ではないのです。

また、妻自身が老齢厚生年金を受給している場合、自身の厚生年金が優先して支給され、遺族厚生年金には調整が入ります。制度上は一定の保障があるものの、生活費全体を賄うには不足する可能性がある点に注意が必要です。

「こんなに減るとは思わなかった」と感じる背景には、制度の複雑さと情報の断片的な理解があります。老後の生活設計では、配偶者の死亡後の収入水準も具体的に試算し、「どの程度の生活費が不足するのか」を事前に把握しておくことが重要です。