「歯黒べったり」としても知られる妖怪「のっぺらぼう」。古くは『源氏物語』にも登場し、『ばけばけ』小泉八雲の『怪談』では東京の紀伊国坂で…
妖怪にまつわる伝承は全国に数多く存在しますが、妖怪愛好家のライター・宮本幸枝さんは、「いつでも私たち人間の隣にいた『妖怪』を探ることは、過去から現代まで地続きになっている人々の営みを振り返ることでもある」と話します。今回は、そんな宮本さんの著書『ムー特別編集 図説 日本の妖怪百科』より、「歯黒べったり」をご紹介します。
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振り返るとお歯黒の口だけ 歯黒べったり
ある人が古い社の前を通ったところ、美しい着物を着た女が顔を伏せていたので、たわむれに声をかけて通りすぎようとした。
振り向いたその顔にはなんと目も鼻もなく、ただお歯黒の大きな口だけが笑っていた――。
「歯黒べったり」は、目鼻のない、いわゆるのっぺらぼうの顔に、その名のとおりお歯黒をべったりとつけた口だけがあるという女の妖怪だ。
通りかかる人を驚かせるだけで、追いかけたり、危害を加えたりといった悪さはしないようである。
紫式部の『源氏物語』にも
この歯黒べったりが描かれた『絵本百物語』では、歯黒べったりは「のっぺらぼう」であり、狐狸が化けそこねたものだと説明されている。
紫式部の『源氏物語』で「宇治十帖」手習の巻に、「目も鼻もなかりける女鬼」という記述がある。
のっぺらぼうはすでに平安時代には知られた妖怪だったようだ。
のっぺらぼうが登場する話といえば、小泉八雲の『怪談』に所収されている「狢(むじな)」がよく知られている。
へえ! それはこんな顔でしたか
ある夜遅くに、ひとりの商人が紀伊国坂を上っていると、泣きながらしゃがんでいる女を見つけた。
心配して声をかけたところ、振り向いた女の顔は目も鼻も口もない。
商人は驚いて逃げ出すと、夜鳴き蕎麦屋の灯りを見つけて飛び込んだ。

(写真提供:Photo AC)
必死で今あった怪異を伝えようとすると、蕎麦屋の主人が振り返り、「へえ! それはこんな顔でしたか」と卵のようなつるりと何もない顔を見せる。
八雲は、これを東京の紀伊国坂によく現れたという狢の怪異として紹介している。
※本稿は、『ムー特別編集 図説 日本の妖怪百科』(ワン・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
