温暖化も食糧危機も解消できるか?メタンを食べる細菌からタンパク質が作れた
なんとまあ、ありがたい生き物がいるものよ。
「最近は飼料代が高騰して困るよ…」と以前、ある取材で熊本県の畜産農家さんが苦境を聞かせてくれました。ロシア・ウクライナの問題があって、輸入飼料が手に入りにくい状況に陥っていたんです。
スーパーで売っている鶏肉や豚肉の値段が上がるたびに、その裏側にはさまざまな問題が潜んでいます。家畜を育てるには飼料が欠かせません。その飼料の主役は穀物類、大豆粕、魚粉といったものですが、飼料一つとっても、大変なものなのです。
大豆を作るためにアマゾンの森が切られたり、魚粉を作るために魚が乱獲されたり…肉を食べるということは、その連鎖の末端にいるわけですが、その連鎖をすっ飛ばすような驚きの研究成果が出てきました。
北京化工大学の研究チームが注目したのは、MOB(メタン酸化細菌)と呼ばれる微生物を使ったタンパク質生成です。
研究論文は、2026年3月にSpringer Nature発行の学術誌『Carbon Research』に掲載されました。
主食がメタンの微生物
MOBは「メタンガスを食べてタンパク質豊富な体を作る細菌」だと思ってください。
メタンといえば、牛のゲップに含まれ、地球温暖化の原因の一つとされる…ということで聞き覚えのある方もいるでしょう。
MOBがタンパク質を作る仕組みは、だいたいこんなイメージです。
まず、メタンガスをタンク(バイオリアクター)の中に注入します。そこにMOBを入れると、細菌たちはメタンを「食事」として取り込み、自分の体を作る材料(タンパク質)に変換していきます。細菌が増殖するほどタンパク質が増える、という構造ですね。
培養が終わったら遠心分離や乾燥などの工程を経て、粉末状のタンパク質原料が完成します。
感覚としてはビールや味噌の発酵に近いでしょうか。酵母菌が糖分をアルコールに変えるように、MOBはメタンをタンパク質に変えるのです。
日本にはユーグレナという企業があって、彼らはミドリムシを製品化していますが、あれは光合成によって育つ藻類なので違うものですね。
コスト面もいい感じ
研究チームは、大豆粕、魚粉、MOBから生まれた細菌由来のタンパク質を比較するために「ライフサイクルアセスメント(LCA)」という手法を使いました。製品が生まれてから廃棄されるまでの全工程で何がかかるかを計算する方法で、ざっくり言うと「トータルで地球にどれだけ負荷をかけるか」を数値化する作業です。
結果は、MOB由来タンパク質の圧勝でした。大豆粕と比べて生態系へのダメージを88%削減。魚粉と比べて人体への健康影響を41%低減。しかも、農地も漁場もほぼ要らずに、温室効果ガスを「原料」に変えてしまうという環境メリットもある。
この手のもので気になるのはコスト面ですが、こちらも悪くない。研究チームの試算では、MOBタンパク質の生産システムは正味現在価値340万ドル(約5.4億円)、投資収益率51%を達成し、3つの中でもっとも高い経済性を示したとのこと。
環境に優しくて、しかも儲かる……となると理想的すぎてあやしい気もしますが、もちろん現段階では「実験室レベルのデータを工業スケールに引き伸ばした試算」です。
ただ、限られた農地や枯渇する漁場という現実の前に、こういったアプローチは着々と必要性と説得力を増していくはず。農林水産省によれば日本の飼料自給率は約26%(令和4年度概算)で大部分を輸入に依存しています。全部切り替えるわけではないにしても、未来の世界ではその一部でもMOB由来タンパク質にできれば調達の安定化につながるかもしれませんよね。
あと気になるところは…やっぱり味、でしょうか。ひとまず舐めてみたい気もします。
Source: Carbon Research - Springer, EurekAlert! ,ユーグレナ, 農林水産省

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