安土城・名古屋城…城から迫る乱世の終焉、泰平のはじまり【新・戦国史】

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信長の城郭革命と認知戦、秀吉の朝鮮出兵とその後の築城ラッシュ、家康の公儀普請と統治戦略──「城」の進化は、乱世をいかに終わらせたのでしょうか。

科学×歴史で日本史上のターニングポイントを鮮やかに描き、大きな反響を呼んだNHKスペシャル「戦国サムライの城」の書籍化作品『新・戦国史 城から迫る乱世の終焉、泰平のはじまり』より、そのイントロダクションを特別公開。

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「近世城郭誕生の秘密」に新たな光を当てる

 今から四〇〇年以上前、日本列島が史上かつてない戦乱の渦中にあった戦国時代。人々が明日をも知れぬ日々を生き抜く中で、忽然と姿を現した巨大建造物がある。

 堅牢にそそり立つ「石垣」、重厚さを醸し出す「瓦ぶき」、天高くそびえる「天守」という大きく三つの特徴を備えた、いわゆる「近世城郭」。代表格として知られているのが、松本城や姫路城、熊本城などの「現存十二天守」と呼ばれる城で、江戸時代およびそれ以前に建てられた天守の姿を今に伝えている。

 その文化的価値から国宝や世界遺産に登録されているものも多く、これらの城には今や国内外から年間二〇〇〇万人を超える人々が足を運ぶ。四〇〇年という時を経てもなお、近世城郭の荘厳な佇まいは、現代を生きる私たちを魅了し続けてやまない。

 しかし、なぜ戦国の世にこうした巨大建造物が突如誕生したのか。世界でも類を見ない、力強くも美しい日本独自の城の形はどのようにして生み出され、なぜわずか数十年という短期間で全国へと広まっていったのか。

 現在、県庁所在地の多くが、江戸時代初期までに誕生した城下町を基盤にしているとされる。つまり、近世城郭とその城下町こそが、まさしく日本の都市の骨格を形成し、今日まで続く地域社会の原風景を形づくってきたと言っても過言ではない。だが、その成立をめぐる謎は長らく解き明かされてこなかった。

 ところが近年、各地方自治体によるたゆまぬ発掘調査の蓄積と様々な分野の研究者たちによる科学的アプローチの進展によって、状況は大きく変わりつつある。これまでは文献史料上には記録が残るものの真偽が不明だった事柄や、断片的だった考古学的成果が一つまた一つと結びつき、巨大な線を描き出そうとしているのだ。

 それは城という単一の建造物だけではなく、城を中心に広がる城下町、ひいては日本という国の成り立ちまでを貫く、壮大なスケールの物語である。

 以上のことを念頭に、本書では、考古学・文献史学・建築史学など、分野の垣根を越えた最新研究をもとに導き出されつつある「近世城郭誕生の秘密」に新たな光を当てることを試みたい。

 様々な城跡で現在進められている調査のドキュメントに加え、取材班が専門家の協力を得て独自に行った再現考古学的アプローチによる実験や科学調査、さらには海外の研究者による成果もふんだんに盛り込み、できる限り多角的な視点から実像を浮き彫りにしようと努めた。

 一方で、「近世城郭」をどのように定義するかは、専門家によって意見が分かれているところでもある。本書は専門家への取材をもとに、石垣、瓦ぶき、天守という大きく三つの要素を備える城を「近世城郭」と定義しているが、江戸時代以降、様々な理由で天守が築かれなかった城は多く、それらも近世城郭に含むべきといった指摘も存在する。

 本書の定義は、あくまで近世城郭が確立された一つの到達点を示すものであり、その後、天守を持たなくなった城を近世城郭ではないと除外する意図はないことをあらかじめご理解いただきたい。


 なぜ私たちが暮らす日本という国は、今のような平和な社会を築けたのか。日本独自の都市景観はいかに生まれ、発展してきたのか。遠い戦乱の時代を駆け抜けた人々の足跡と、先人たちが切り開こうとした新たな時代の姿──それらに迫ろうと奮闘する研究者たちの挑戦を通じて、近世城郭の誕生という日本史上のターニングポイントに、少しでも思いを馳せるきっかけとなれば幸いである。

『新・戦国史』では、以下の構成で、信長から家康へと続く城郭革命の実像を描き、「近世城郭誕生の秘密」に迫ります。

第1章 信長の城郭革命
第2章 令和の大調査で迫る安土城
第3章 消えた安土山図屛風と大航海時代
第4章 秀吉が残した慶長の築城ラッシュ
第5章 家康の国づくりと名古屋城
第6章 巨大城郭がもたらした技術・社会変化
第7章 「泰平の世」はいかに到来したか

NHKスペシャル取材班
最新の発掘調査と科学的分析から近世城郭の誕生に迫った、NHKスペシャル「戦国サムライの城」の制作チーム。同番組は、信長から家康へと続く城郭革命の実像を描き、大きな反響を呼んだ。
※刊行時の情報です