「処方されても薬がない!」 ADHD治療薬「コンサータ」欠品という異常事態の「背景とリスク」
成人のADHDが急速に増加
ADHD(注意欠如・多動症)の治療薬として広く使われる「コンサータ」(一般名:メチルフェニデート塩酸塩徐放錠)の出荷調整が行われ、医療機関・薬局で、欠品が相次いでいる。診断を受け、医師が処方し、患者が薬局へ行っても、肝心の薬が手に入らない。治療が継続できないーーそんな異常事態が全国で起きている。
販売元のヤンセンファーマに問い合わせたところ、「ADHD患者の増加による需要が増加し、供給が追いつかない状態になっているため、特約店への出荷量を制限している」と回答があった。
それほどまでにADHDの患者が増えているのか。精神科医の郄木希奈氏によれば「成人ADHD診療がここ10年ほどで急速に広がった」という。
「2010年代前半までは、ADHDは小児の疾患というイメージが強く、まだ成人ADHDの概念が浸透していませんでした。しかし、2010年から2019年にかけて診断数は増加したと報告されています」(郄木希奈氏、以下同)
郄木医師の言葉どおり、年齢別では0〜6歳で約2.7倍、7〜19歳で約2.5倍、成人では約21倍に増えたという調査報告もある。成人領域での増加が突出している背景には、制度の変化もある。
「2013年にコンサータが成人に適用拡大されたことも重なり、成人の治療が広がったために、必要とする患者さんが増えてきた面はあると思います」
患者が増えれば、当然処方量も増えることとなり、その処方量に供給が追いつかなくなっている。郄木医師は「供給不足を患者増だけで片付けてはいけない」と釘を刺す。
「成人の治療が広がったことで、必要とする患者さんが増えてきた面はあると思います。しかし、中にはADHDという診断を安易に下す、専門性を欠く医師もいます。供給バランスを鑑みても、適正な処方がなされているのか、見直す必要があると思います」
診断の質、処方の質、そこまで含めて見直さなければ、「本当に必要な人に薬が届かない」状況は、これからも続く可能性がある。
代替薬では「安定が崩れる」リスク
このまま欠品が続くようなら、医師は代替薬への切り替えを検討せざるを得なくなる。しかし郄木医師は、「代替薬にかえればいい、という話ではない」と明確に否定する。
「ADHD治療薬の中でも、コンサータは成人に使用可能な唯一の中枢神経刺激薬であり、患者さんの中には、他の薬剤を試し、それでも十分な改善が得られず、ようやくコンサータにたどり着くケースが少なくありません。つまり、コンサータはその人にとって『他にはない安定の薬』になっていることも多いのです。
代替薬へ変更せざるを得なくなると、治療の安定が崩れることがあります。薬剤の効果や副作用の出方は個人差が大きく、同じADHD治療薬であっても、必ずしも同等の効果が得られるとは限りません。
ADHDの患者さんは、適切な治療によって安定した日常生活を送ることができています。薬をかえることで、集中力の欠如や落ち着きのなさ、衝動性が再び強くなり、生活が一気に崩れてしまう可能性があります」
現場ではすでに、コンサータを確保できず、治療が途切れてしまう患者が出ている。郄木医師は、社会的影響まで見据えて警鐘を鳴らす。
「治療薬が患者さんの手に渡らないという事態は、本人の生きづらさを強め、症状の悪化を招く可能性があります。さらにそれは、学校での不適応、職場でのミスや離職、家庭内トラブルなどにつながり、結果として社会全体にも影響が及ぶリスクがあります」
現状、供給が追いつくのを待つしかない状況だが、疑念もある。処方された薬が本来の治療目的ではなく、転売や不正流通に回っている可能性を疑わざるを得ないのだ。つい最近、男性が処方薬を少女たちに違法に譲渡した事件が報じられたが、その薬がコンサータだったのだ。
本来、コンサータは「ADHD適正流通管理システム」という厳格な管理のもとで処方される薬だ。コンサータを処方できるのは、所定の研修を受けたうえで登録された医師に限られ、医療機関も登録制となっている。さらに調剤も、登録された薬局のみが行える。
患者側も同様に、本人確認書類(身分証)を提示して登録し、患者IDが付与される。薬局ではこのIDを確認し、登録された本人に対してのみ薬が交付される。
医師・薬局・患者のすべてを登録制にし、流通を追跡可能にすることで、薬の不正流出を防ぐのが狙いなのだが、その仕組みが十分に機能していないことを先の事件は示しているのだ。
処方された薬はどこへ消えたのか。医療費の増大が問題視されているいま、供給体制の立て直しはもちろん、診断の質、処方の妥当性、そして制度の実効性まで含めて見直し、必要な医療を必要な人に届ける仕組みを立て直すことも喫緊の課題なのである。
