大阪の人気チェーン居酒屋『立ち呑み庶民』その安さと旨さの秘密を直撃!
大阪にとてつもなく人気の立ち飲みチェーン店がある。『立ち呑み庶民』だ。2025年12月現在、大阪を中心に11店舗展開している。筆者も最初知った時はこのインパクトのある名前と、あまりの安さに目を見張った。「安かろう、悪かろうなんだろうな」とあまり期待をせずに店に入ったが、そんなことは全くなかった。むしろおいしいまであった。特にお造りは新鮮そのもの。揚げ物はアツアツで、衣がサクッとしていて、注文してから店内で揚げられていることがわかる。今回は「なぜこんなに旨いものを、低価格で提供できているのか」を代表の辻戸康宏さんに伺った。
きっかけは「価格以上の満足感を得られるとうれしいんだ」
『立ち呑み庶民』は、約12年前に京都の大宮にオープン。代表の辻戸康宏さんは、大阪市内を中心に展開する寿司屋さんで11年修業を重ねた。
ある日勉強を兼ねて近隣の飲食店へ視察に行ったときのこと。ひときわ賑わっている飲食店に出合った。それが立ち飲み屋だった。
店内では酒とつまみが信じられないほどの低価格で提供されていた。さんまの煮つけ150円、お造り300円、生ビール300円……。辻戸さんが働くお店はアッパー〜ミドル層を中心とした客層で単価が5000円ほど。「お得に呑むってこんな楽しいんだ……!」と今まで知らなかった飲み屋の楽しみ方を知った。
そして、利用客が伝票を見て笑顔になっていることに衝撃を受けた。「価格よりも満足度が上回る時、こんなにもいい顔でお礼を言われるのか……」と憧れを抱くようになる。
「自分もこういう店をやりたい」と日に日に欲求が高まった。ただ、そのためには「あそこまでの低価格で提供できる秘密」を解明しないといけない。そこで、自ら100店舗立ち飲み屋を回ることを決意。大阪だけでなく東京や名古屋などさまざまな立ち飲み屋を視察した。
その中で自分が目指す店舗像に近いと感じた大阪・天満の立ち飲み店『銀座屋』へ出向き、無給での手伝いを申し出た。寿司屋で働きつつ、休みの日には立ち飲み屋でお手伝い。「大変だったが、刺激的で楽しかった。毎回心付けを渡してくれて、その気遣いもうれしかった」と辻戸さんは当時を振り返る。

代表の辻戸康宏さん
天満に似た場所を探し求めて、京都の大宮に1号店をオープン
修業を重ね、いよいよ出店を考える時期に差し掛かった。立ち飲み屋の客層はサラリーマン〜高齢者が中心。そういった人たちが集まりやすい立地を調査していた。
まず浮かんだのが天満だったが、お世話になった『銀座屋』があることから、他の立地での開店を考えていた。そこで白羽の矢が当たったのが京都の大宮だ。
当時の大宮は阪急電車の終着駅で、西院や烏丸のビジネス街も近く、高齢者層が多く住んでいる場所。まさに狙っていた客層を集客しやすいエリアだった。また、当時京都には薄利多売の立ち飲み屋という形態は珍しく、刺さると踏んでオープンを決めた。
辻戸さんは当時独身だったこともあり、「月15万円あれば生活できる」と、入ってくるお金のほとんどを材料費に投入した。そして、寿司屋時代に培った人脈もフル活用する。
例えば卸。舞鶴から毎日朝獲れの新鮮な魚を直送してもらった。目玉商品の「まぐろの中落ち」は300円の原価ギリギリで提供した。利益は薄いものの、数を売ることで利益を得て、そのほとんどを食材の仕入れにまわす。その成果もあって、お店は評判が評判を呼び、連日大盛況となった。
マグロに関しては、現場を離れた今でも辻戸さんが強いこだわりを持つ。静岡のマグロ業者と年間契約をし、質の高いものを大量に仕入れることで、低価格での提供を実現している。
実際にお店で食べてみたところ、マグロ特有の旨みが口いっぱいに広がり、身はほどけていく。焼酎や日本酒などのお酒と相性抜群の一品だ。

「本マグロのお造り」(550円)
また、当時SNSが流行りだしたこともうれしい誤算だった。元々ターゲットとしていた客層ではない層もSNSでの口コミを頼りに来店があったそう。近場の人に愛されるよう努めていたが、そうした飲み屋でのコミュニティや、立ち飲み屋に憧れるような若い客も増え、庶民目当てにわざわざ電車で訪れるようになったという。
コロナ禍の逆境を跳ね返す快進撃
1号店オープンから6年が経ち、大阪での出店を考え始めた。出店先は、立ち飲みの聖地である「京橋」である。
京橋といえば、大阪屈指の飲み屋街だ。朝8時からお酒が飲める店があり、昼前にはグロッキーな吞兵衛を見かけることが多々ある。そんな街での挑戦を試みた。しかし、オープンの翌年2020年にコロナウイルスが大流行。大多数の飲食店がダメージを受ける中、辻戸さんはその逆境を上手く利用することができた。
まず行ったのが、居抜き物件への入居だ。梅田に大阪駅前ビルがある。第1〜4すべての棟に入居を決めるなど、進出したかった場所へ次々に出店を果たした。
また、当時飲食業界は人手が余っていたこともあり、採用も進み、良い人材の確保ができたそう。辻戸さんは「当時銀行からの融資も受けやすかったし、チャンスでしかないと思った」と語る。

『立ち呑み庶民 西中島店』
安さを実現する3つの企業努力
コロナによる追い風もあり、店舗を拡大してきた立ち呑み庶民。現在どの店舗も昼の開店時から賑わう人気店となっている。それを支えるのはやはり「安さ」と「旨さ」。この物価高騰の中でもそれらを維持する秘密は3つある。
(1)業者との交渉は遠慮なく大胆に
辻戸さんにとって譲れないのはお客さんからの喜びの声。それ以上に優るものはない。だからこそ業者との交渉は遠慮なく、大胆にいくという。常に各業者の価格動向をチェックし、1円でも安く販売してくれるところから購入する。全11店舗のいずれも賑わい、大量仕入れが必要だからこそなせることだろう。
(2)プライベートブランド商品の開発
辻戸さんは、お店で提供する商品の開発も手掛けている。試作品を食べた時、頭に浮かぶのが提供価格だと言う。それを元に原材料を調整し、提供へ結びつけている。
冷凍食品など既存の商品を利用するとコストがかさみ、その分提供価格を上げる必要がある。それを避けるべく、業者と協力してプライベートブランドの開発に力を入れている。辻戸さんが開発の際、絶対的な指標にしているのが「旨さ」と「価格」。それを実現するために細かな調整を繰り返している。
「直近で非常に上手くいったのがシュウマイです。大きさ、肉の比率を贅沢に感じられるようにしました。それを2個250円で提供している。おいしくて満足感がある、今イチオシです」と辻戸さんは胸を張る。

「お肉屋さんと協力して作ったシュウマイ」(2個250円)
食べてみると、薄いのにモチモチとした皮に、ぎっしりとタネが詰まっていて、ボリューム満点。2個でビールの中ジョッキ1杯が飲めてしまうくらい食べ応えのある一品だ。
(3)徹底的なコストカット
立ち呑み庶民は、11店舗展開していながら、会社には裏方が2人しかいない。社長の辻戸さんと、人事の堀さん。他はすべて店舗運営スタッフ。経理などのバックオフィスは辻戸さんが担当するか、アウトソーシングしている。そのため、拠点となる事務所は来客用スペースがあるだけで、その他のスペースは店舗従業員が休憩できるようになっていた。
またそれだけに留まらず、店舗や備品の不具合は業者を呼ぶのではなく、辻戸さんが概ね対応できるようにしているという。
こうした企業努力のもと得た利益を材料費に注ぎ込めるようにしている。
つまり、実食の上思い浮かんだ理想の提供価格を厳守できるように、削れるところから徹底的に削る。
それが立ち吞み庶民が低価格で旨いお酒と料理を提供できる理由だった。
辻戸さんは「寿司店でのお手伝いの経験だけでは、具体的に安く提供するやり方はわからなかった。だから、とりあえず出したい売価で提供してみて、それを維持し続けるにはどうしたら良いのかを後から考える……。それをオープンから今まで繰り返している」と語る。
辻戸さんのこのような運営の仕方に、人事であり右腕の堀さんは「将来的に自分も店を持ちたいから非常に勉強になる。今まで普通だと思っていたことがまったく普通ではなく、毎日刺激的でとても楽しい」と笑顔だ。

人事兼右腕の堀さん
立ち吞み庶民は「めっちゃええやん」「安っ!!!」と お客さんに喜んでもらえることを最優先に12年間ブレずに営業を続けている。
辻戸さんは現場を離れて久しくなるが、今でも新店のオープンには必ず立ち合う。その際、店内が満員であることが何よりうれしく、それが原動力になっているのだそう。今もなおお店へのモチベーションは高いままだ。
「お得は楽しい」そこから始まった立ち呑み庶民。これからも食道楽の街、大阪を中心に私たち吞兵衛を楽しませてほしい。
取材・撮影/後藤華子
