「今まで見たことがない」 イングランド代表名手が明かすブライトン三笘のリアル評
日本代表選手4人と縁がある稀有なイングランド人フットボーラー
当時の日本代表FWだった西澤明訓がボルトン・ワンダラーズに移籍した2001-02シーズン以来、今季でプレミアリーグを取材し始めて22シーズン目となった。
基本的に日本人選手を追ってきたが、それだけ長く取材していると中には顔見知りになったイギリス人選手もいる。
イングランド代表MFアダム・ララーナはその1人。なぜなら、彼は所属する先々で日本代表選手と“遭遇”してしまうからだ。
まずは12歳でユースに加入したサウサンプトン。2012年1月にFW李忠成(アルビレックス新潟シンガポール)が移籍し、同年8月にはDF吉田麻也(シャルケ)が続いて、日本人選手2人とチームメイトになった。
続いて2014年に移籍したリバプールでは、19年1月に加入したMF南野拓実(ASモナコ)とプレー。さらに20年夏に移籍したブライトンで今度はMF三笘薫と共闘することになった。所属したプレミアリーグ3クラブすべてで、計4人もの日本人選手との出会いを引き当てたララーナはまさに稀有な存在だ。
しかもララーナは、イングランド代表キャップも34を数える名選手である。サウサンプトンに加入したての頃の吉田は、新たにチームメイトとなった選手の中でも特にララーナのことを「本当に上手い。素晴らしい」と語っていた。トレーニング場で目の当たりにしたイングランド代表MFの“テクニシャンぶり”に惚れ惚れとしていたのだ。
またララーナは技術が卓越しているだけでなく、20代の頃はフィットネスの高さも抜群だった。ユルゲン・クロップ監督がリバプールの指揮官に就任した直後の初練習で「このなかで一番フィットしている(体力があるのは)誰だ?」と聞いたら、選手たちは口を揃えて「アダム(・ララーナ)」と答えたという。それを聞いた新任のクロップ監督は、「それではまず全員が彼(ララーナ)のレベルまでフィットネスを上げてくれ」と告げたのは有名な話だ。
しかし32歳にもなると、故障の影響も加わって90分間ピッチを縦横無尽に駆け抜けた自慢のフィットネスはかげりを見せ、結果的にリバプールを去ることになった。けれどもブライトンに移籍すると、ララーナはその類い稀な技術を生かして職人的なトップ下の選手に生まれ変わり、見事に“再生”している。
そんな息の長いキャリアを送り、日本人選手4人を知るララーナにぜひ話を聞いてみたかったのだ。三笘薫という選手について――。
「あの1対1で見せる能力はセンセーショナルだ」
そんなチャンスは2023年の年明け早々に巡ってきた。現地時間1月3日に行われたプレミアリーグ第19節のエバートン対ブライトン。ブライトンがアウェーで4-1と快勝した試合後、三笘がミックスゾーンで記者団に囲まれるなか、その側にいたララーナは行き場をなくした様子でクラブ関係者と雑談を交わしていたのだ。三笘の取材を終え雑談が一区切りしたところで、「ちょっとだけ話を聞かせてもらってもいいかな?」とララーナに話しかけてみた。
「もちろん、でも僕でいいのかい?」と茶目っ気たっぷりに取材を快諾するララーナ。筆者は「いいどころか、君でなければならないんだ。だって、プレミアで4人の日本人選手とチームメイトになったのは君だけなんだから」と話しかけた。すると、「リー、マヤ、タキ、そしてカオル……」と指を折って数え、飛び切りの笑顔を浮かべて「本当だ!」と小さく叫ぶと、“ご名答!”とでも言うように筆者を指差した。
そんなララーナの屈託のない笑顔に勇気づけられたこともあり、「三笘をどう思うのか?」と単刀直入に尋ねてみた。まずララーナは、これまで一緒にプレーした日本人選手全員が「素晴らしいプロフェッショナルだ。みんな真摯にフットボールと向き合う」と一言。三笘についても「カオルだってその例に漏れず、常に謙虚な姿勢で練習に取り組んでいる」と言及し、さらにこう舌を巻いた。
「あの1対1で見せる能力はセンセーショナル(衝撃的)だ。カオルは驚くほど簡単に相手を抜き去ってしまう。まるで『スロープを華麗に滑るスキーヤー』のように、右に左に軽やかに動いて、相手を置き去りにしてしまう。あんなプレーをする選手は今までに見たことがない」
たしかに三笘のドリブルは左右の切り返しが速く、相手はその動きを分かっていても抜かれてしまうところがある。ここで特筆すべきなのは、現在のサッカー界で最高のドリブラーの1人とも称されるリバプールのエジプト代表FWモハメド・サラーとプレーしたことのあるララーナが、三笘のドリブルを「今までに見たことがない」と断言したことだ。リバプールだけでなくイングランド代表としても世界トップクラスの選手たちと対戦、また共闘したララーナだからこそ、その口から語られた言葉は“最大級の賛辞”と言える。
チームメイトと監督からの信頼を掴んだ今、2桁ゴールも夢ではない
ララーナの言葉を聞くと、“プレミア1年生”にもかかわらずエバートン戦で三笘にしっかりとボールが集まっていた状況に納得ができた。超一流の経歴を持ち、34歳となった今も卓越した技術を持ってブライトンで輝くララーナがここまで認めるのだ。
チーム内で能力が認知され、「あいつにボールを渡せばなんとかしてくれる」という信頼を築き上げた三笘の姿を容易に想像できる。思い返せばこの試合、ロベルト・デ・ゼルビ監督もテクニカルエリアから左サイドに開いてフリーだった三笘を指差し、「ここにボールを出せ!」と何度も指示していた。
今季プレミア17試合目にして先発の座をがっちりと掴み取ったように思える三笘。本人も「世界最高レベル」との呼び声も高い同リーグで通用するという手応えをしっかり感じているようだ。
「自分にしかない特徴があると思うので、そこを出していけば(さらに伸びる)可能性はある。自分の良さは分かっているので。そこを毎日突き詰めて行くしかないと思う」
またエバートン戦で今季先発は5試合目。そのなかで3ゴールを決めたことについて尋ねたところ、「悪くはないと思う」と一言。一方で、「でももっと決められるチャンスはありましたし、もっと集中するべきだと思います」と続けて、さらなるゴール量産を誓った。
プレミアリーグにおいて日本人選手が1シーズンに挙げたゴールの最高記録は、2012-13シーズンに当時マンチェスター・ユナイテッド所属の香川真司による「6」。これは今も破られていない。
しかし、ララーナにその実力を認められ監督も決定力に惚れ込んでいる今なら、三笘が残り21試合で日本屈指の“10番”を越えるのではと期待できる。もちろん大きな怪我をしないことは条件だが、2桁ゴールにだって手が届くかもしれない。
こうして観る側の夢が膨らむ状況であっても、三笘は現状を良しとしない。先制点を奪いチームのアウェー戦勝利にたしかな貢献をした試合直後でさえ、反省を口にする。この時は、プレミア特有である年末年始の過密日程により万全とは言えなかったフィットネスを課題に挙げた。
「うーん、思ったより前半は動けなかった。もうちょっと、違うアプローチができたらと思いました。しかし、まず(試合に)出ることに意味がある。出た時に勝つことで、チャンスがもらえる。だからこれを続けていきたいと思います」
三笘はここまで、リーグ戦だとボーンマスとクリスタル・パレスを除く17チームと対戦している。プレミアのサッカーについて「強度がやはり高い」と指摘したうえで、「その強度を受けた時に、守備も含めてやっぱりもっともっと、自分の強さを高めていかないといけない。まだまだやることは多いという感じです」と続けて、まずはフィジカル向上の必要性を強調する。ただ、追及しているのはフィットネスやフィジカルだけではないようだ。
「コンディションがぶれなくなってきていますけど、自分の中ではまだまだ隙があるというところがある。日程は過密ですが、その中でもどんどん(コンディションを)上げているというのが必要だと感じる。それにプレミアに来た当初と同じくらいの“熱量”も維持していかないといけない思っている」
向上心を保つのはもちろんのこと、ブライトンに加入した当初の“初心”も忘れてはならない――。三笘はそうやって成長の青写真を描いていた。(森 昌利 / Masatoshi Mori)
