何事も省人化というなかで、戦車はその逆の傾向を見せています。最新式の戦車は、2名定員ならば3名、3名定員ならば4名も可能としたり、なかには「4名」と明言するケースも。増える人員の役割こそが、今後を左右することになりそうです。

最新の戦車は4名想定?

 かつて戦車の乗員は5名が主流だった時期がありますが、その後の技術進歩や乗員の役割変化により、いまは3名ないし4名が一般的となっています。そして最新の戦車も、3名か4名か定員が分かれ、むしろ増える傾向にあるようです。


KMWネクスター・システムズがユーロサトリに出展した「EMBT」(竹内 修撮影)。

 6月13日から17日までパリで開催された世界最大級の防衛装備展示会「ユーロサトリ2022」に、ドイツの防衛企業ラインメタルが新型戦車KF51「パンター」、ドイツとフランスの合弁企業KMW+ネクスター・システムズ(以下KMWネクスター)が独仏両国で共同開発を進めている新型戦闘車両「MGCS」(Main Ground Combat System/陸上主力戦闘システム)の技術実証車「EMBT」(Enhanced Main Battle Tank)をそれぞれ出展しました。

 KF51は現在西側の戦車に広く採用されている120mm滑腔砲ではなく、新たに開発された130mm滑腔砲を装備しています。130mm滑腔砲の砲弾は120mm滑腔砲弾よりも大きく、人力での装填が困難なことから、KF51は砲弾の自動装填装置を備えています。

 EMBTは120mm滑腔砲を装備していますが、砲塔はフランスのルクレール戦車のものを基に開発されているため、やはり砲弾の自動装填装置を備えています。新型戦車となるMGCSは130mmまたは140mm滑腔砲の装備が検討されており、砲弾の自動装填装置の装備は必須と言えるでしょう。

 現在、旧西側諸国の戦車で砲弾の自動装填装置を備えているルクレール、陸上自衛隊の90式戦車と10式戦車、韓国のK2戦車は、砲弾の装填手を必要としないことから、3名の乗員で運用されています。

 対して、今回展示されたKF51は3名での運用も可能ではあるものの、もう1名の乗員の搭乗が可能とされているほか、EMBTの乗員は4名と発表されています。

4名→3名 いったんは減った 今4名にする理由

 陸上自衛隊で初めて砲弾の自動装填装置を装備した90式戦車が配備された当時、乗員が74式戦車(4名)から1名減ったことにより、点検や整備の際の乗員1人あたりの負担が増加したことなどから、部隊の評判は必ずしも芳しいものではなかったと言われています。

 しかし今回発表されたKF51が4名の搭乗を可能とし、EMBTが乗員を4名とした理由は、乗員1人あたりの整備や点検の負担を減らすためではありません。

 KF51はオプションで砲塔後部に格納式のUAS(無人航空機システム)射出装置の装備が可能で、ユーロサトリで展示された車体は射出装置を備えていました。EMBTはUASの射出装置は備えていませんが、偵察や目標の捜索にUASを使用することを前提に開発されています。

 ラインメタルはユーロサトリで、UGV(無人車両)「ミッションマスターXT」に徘徊型弾薬(自爆突入型ドローン)「Hero」の6連装ランチャーを出展していますが、ラインメタルは“これから開発される戦車には、火力を強化するUGVとの協働が必須”になると考えており、戦車の車内からUGVを操作できるソフトウェアキット「PATH」を開発しています。

 UASの飛行やUGVの走行は自律化されていますが、これらが収集した情報を基にどのような判断を下すのかは、人間である戦車の乗員の手に委ねられています。欧米ではUASやUGVによる攻撃を行う際、攻撃の判断は機械任せにせず、必ずオペレーターが介在することが求められています。


KF51「パンター」の砲塔後部に設けられた格納式UAS射出装置(竹内 修撮影)。

 KF51の4人目の乗員の役割は限定されておらず、戦車の指揮を執る車長より高位の指揮官などの搭乗も想定されていますが、ラインメタルの担当者はUASやUGVのオペレーターが必要に応じて搭乗する可能性が高いと述べています。一方のEMBTについて、KMWネクスターは4人目の搭乗員をUASやUGVのオペレーターであると明言しています。

やっぱり「乗員増」の傾向か

 前述したK2戦車のメーカーであるヒュンダイ・ロテムは、2019年10月に韓国の城南市で開催された防衛装備展示会「ADEX2019」で、K2の後継を想定した次世代戦車のコンセプトモデルを発表しています。このときの説明では、次世代戦車の乗員は2名と明記されていました。

 しかし、ユーロサトリ2022に展示されたヒュンダイ・ロテムのコンセプトモデルの説明は、「乗員2〜3名」に変更されていました。

 筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)がヒュンダイ・ロテムの担当者に、次世代戦車の想定乗員数が変わった理由を質問してみたところ、「UASやUGVとの協働を視野に入れた場合、現在の技術では2名での運用が難しく、3名での運用も検討している」と答えてくれました。

「戦車が戦場で生き残るためには4名の乗員が必要だ」。イスラエル国防軍機甲部隊の発展に尽力し、イスラエル国防軍の主力戦車「メルカバ」の開発も主導したイスラエル・タル少将は、実戦の経験に鑑みてこのような言葉を残しています。

 2010年にこの世を去ったタル少将の言葉は、もちろん戦車がUASやUGVと協働する時代を見通したものではありませんが、戦車が戦場で生き残るためにUASやUGVと協働するという考え方が芽生えつつある中で、戦車の乗員数は減らず、増えていく可能性も十分にあると筆者は思います。