ドイツで発表された新型Cクラスを詳細解説! その衝撃的な内容は、まさに「プチSクラス」!

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え? プラットフォームがSクラスと共通?
2021年2月23日、メルセデス・ベンツ Cクラスの新型がオンラインでワールドプレミアとなった。ヨーロッパ市場では3月30日に受注がスタートし、夏にデリバリー開始となる。2014年に登場した先代のW205から7年でフルモデルチェンジしたニューCクラスは、どれほどの進化を遂げたのか、現時点で判っている範囲で解説していこう。

メルセデス・ベンツのポートフォリオにおけるCクラスは、同ブランドで最大の販売ボリュームを誇る基幹モデル。1982年に登場した190シリーズから累計で1050万台以上を販売し、従来型のW205はセダンとステーションワゴンだけで世界で250万台も販売している。これほど売れたのは、ヨーロッパや北米に加えて、アジア、特に中国市場の拡大が大きな理由で、まさにグローバルなプレミアムカーの基準となっている。



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W206と呼ばれるニューCクラスは、セダンとエステート(ステーションワゴン)が同時に発表された。これは約40年にわたるCクラス史上で初のこと。ステーションワゴンは北米で販売されていないが、ドイツではCクラス全体の3分の2がステーションワゴン(T-モデル)となっているほど、販売の大きなボリュームを占めているため、セダンと同時に発表されるに至った。

新型はプラットフォームからすべてが刷新。新型Sクラスにも採用された「MRA-2(モジュラー・リヤホイールドライブ・アーキテクチャ-2)」を用い、軽量化やさまざまな最新エレクトロニクス、新世代パワートレーンなどへ対応させている。




まさしく、プチSクラス!
デザインも新型Sクラスに通じる、最新のメルセデスの雰囲気を纏う。「センシュアル・ピュリティ(官能的純粋)」というメルセデスのデザイン・フィロソフィは、現行のCLSクラスやAクラス、新型Sクラスでさらに研ぎ澄まされ、不要なラインを可能な限り省略した、クリーンな造形に進化している。Sクラスではそれがラグジュアリーサルーンとして表現されたが、よりコンパクトな今回のニューCクラスでは、ショートオーバーハングとキャブバックワードな、よりスポーティネスを強調したダイナミックな造形にうまくまとめられた印象だ。



ステーションワゴンも、リヤに向かってルーフが滑らかに下がった、スポーティなシルエットが与えられている。リヤコンビランプもセダンと近いデザインとされ、セダンと大きく違わないイメージに仕上がっている。ちなみに新型は、中央に大きなスリーポインテッドスターをあしらったスポーティなデザインのフロントグリルが全車に備わり、標準モデルとアバンギャルドラインが用意される。先代まで用意されていた、ボンネット先端にマスコットを備えたエレガンス仕様が、新型では選べなくなったのは少々残念である。



インテリアも新型Sクラスに始まる最新のデザインエレメントがふんだんに盛り込まれている。航空機のエンジンをモチーフにしたエアベントなどはSクラスとは異なるが、物理スイッチがほとんどない、大幅にデジタル化したインパネは、まさに「プチSクラス」。ドライバー正面には10.25インチまたは12.3インチのメーターディスプレイが備わり、センターには9.5インチまたは11.9インチのタッチディスプレイが、まるでフローティングしているように配置される。そこから後方に伸びるセンターコンソールは直線的なデザインで、クールな印象を醸し出す。ステアリングホイールは、昨年フェイスリフトを受けたEクラスから採用されている最新世代のものだ。

Sクラスと大きく異なるのは、センターディスプレイがドライバー側に6度傾けて配置されている点。つまりドライバーが中心のスポーティなモデルであることを印象づけている。この6度という傾きは、助手席からの視認性や操作性も考慮して決定されたそうだ。



新型はボディサイズも大きくなっている。セダンは全長4751mm、全幅1820mm、全高1438mmで、従来モデルに対して65mm長く、10mm幅広く、9mm低くなっている。ステーションワゴンは、先代はセダンより全長が17mm長かったが、新型は全長と全幅はセダンと共通で、全高は従来モデルより7mm低い1455mmだ。ホイールベースは、セダン、ステーションワゴンとも2865mmで、従来から25mm延長されている。なおCd値はセダンが0.24、ステーションワゴンは0.27で従来と同じだ。

結果、室内空間は広がり、後席はレッグルームが21mm、肘周りは22mm、肩周りは13mm、それぞれ従来モデルから拡大。前席も肘周りが22mm、肩周りは26mm、それぞれ広がった。特に後席の足元に従来以上の余裕が生まれた点は歓迎すべきポイントである。

ボディサイズの拡大は、ラゲッジ容量にも寄与している。新型は、セダンは455Lで従来通りだが、ステーションワゴンは標準時で490L、最大で1510Lと、従来モデルからそれぞれ30L大きくなっている。




最初から多彩なパワートレーン
新型Cクラスで注目すべきポイントは多岐にわたるが、最大のハイライトはパワートレーンかもしれない。ガソリン、ディーゼルとも4気筒ターボのみの設定で、すべてが48Vの第2世代ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を組み合わせたマイルドハイブリッドなのだ。

ラインアップは以下の通り。

●ガソリン車(モデル名:排気量、最高出力、最大トルク)
・C300(※):1999cc、258ps/5800rpm、400Nm/2000~3200rpm
・C200(※):1496cc、204ps/5800~6100rpm、300Nm/1800~4000rpm
・C180:1496cc、170ps/5500~6100rpm、250Nm/1800~4000rpm
(※=同スペックの4マチック仕様あり)

●ディーゼル(モデル名:排気量、最高出力、最大トルク)
・C300d:1992cc、265ps/4200rpm、550Nm/1800~2200rpm
・C220d:1992cc、200ps/4200rpm、440Nm/1800~2800rpm

ISGのシステムは、ガソリン車、ディーゼル車とも共通で、20馬力/200Nmを発揮する。200Nmの最大トルクを発揮するのはブースト時(2~3秒間作動)のみとのことだが、C180でもガソリンエンジンとISGのトルクを単純に合算すれば450Nmにもなり、相当に力強い加速を披露すると予想できる。



ちなみにガソリンエンジンはM254型で、排気後処理システムや「メルセデスAMG ペトロナス F1チーム」のノウハウを盛り込んだツインスクロールターボチャージャーなどを備えた最先端ユニット。ディーゼルエンジンは、従来通りOM654型だが、こちらはクランクシャフトの変更でストロークが92.3mmから94.3mmとなり、排気量は1950ccから1992ccへ拡大。さらに燃料噴射圧も2500barから2700barへ高められるなどの改良が施されている。

組み合わされるトランスミッションは、全車が第2世代ISGとの最適なマッチングが施された9速ATの9Gトロニックとなる。これまではMT車も用意されていたが、新型は9Gトロニックのみに絞って設計する事で、一層の高効率化が図られた。

また噂ではあるが、新型CクラスはハイパフォーマンスバージョンのAMGモデルも、搭載エンジンは4気筒になると言われている。すでにAMG A45 S 4マチックは、2L直4ターボで421馬力という超高出力を実現しているので、十二分に可能性はある。



PHEVもラインアップに追加
4WDシステムの4マチックも進化。フロントアクスルドライブが新しくなり、より理想的な前後駆動力配分と前輪への高トルク配分が可能になったほか、軽量化や摩擦損失低減も実現している。またサスペンションは、フロントが新しい4リンクで、リヤはマルチリンクを採用。高い快適性と俊敏なハンドリングを一層高いレベルで両立させたという。オプションでは電子制御連続可変ダンパーとスポーツサスペンションが用意される。

新型Sクラスに続いてリヤアクスルステアを搭載したのもトピックスのひとつだ。後輪は車速が60km/h以下で前輪と逆位相に、60km/h以上では同位相に最大2.5度ステアし、取りまわしの良さと操縦安定性を両立させた。最小回転半径は5.3m程度と、かなり小回りが利くので、大きくなったボディを意識せずに走れそうである。



PHEV(プラグインハイブリッド)モデルの進化ぶりも凄まじい。発売が後日となっているので、まだ詳細は明らかになっていないが、どうやらEクラスと同様にガソリンPHEVとディーゼルPHEVの2種類が用意される模様である。

現時点でスペックがある程度判明しているガソリンPHEVは、200馬力/320Nmを発揮するM254型2L直4ターボに、129馬力/440Nmを絞り出す強力な永久励起同期モーターを組み合わせ、システム合計で313馬力/550Nmという高性能を実現した第4世代PHEV。メルセデス・ベンツAGが自社開発した高電圧バッテリーは25.4kWhもの大容量で、ひと昔前のBEV並みの大きさだ。EV走行時の最高速度は140km/h、航続距離は新型Sクラスと同様に約100kmで、日常的には、ほぼEVとして使えそうである。

バッテリーの充電は、家庭用AC電源を使用した出力11kWのウォールボックスを使用した三相充電のほか、55kWのDC充電器による急速充電にも対応。55kWで充電すれば、約30分でフル充電可能となっている。なおこのPHEVには、バッテリーレベルを維持する「バッテリーホールド」モードはあるが、エンジンでバッテリーを充電するチャージモードは付いていない模様だ。

このPHEVは、セダンとステーションワゴンの両方に用意される。従来モデルはラゲッジにバッテリーが飛び出していたため、使い勝手に難があったが、新型ではラゲッジの段差は解消され、ステーションワゴンではラゲッジフロア長が従来より63mm長い1043mmに拡大。荷室高も高くなり、使い勝手が大幅に向上しているという。なおPHEVのリヤのみにエアサスペンションが標準となる。



しかし100kmものEV航続距離が、PHEVにはたして必要なのかという疑問が湧くのも正直なところ。確かに航続距離が長いに越したことはないが、つねに重たいバッテリーを積んで走る事になる。燃料代は節約できるかもしれないが、電気代は無視できない。その点をチーフエンジニアのクリスチャン・フリュー氏に訊いてみたところ、「バッテリー性能の向上が100kmの航続距離を実現しました。CO2削減要求や購入補助金制度の点では、現時点で必ずしも100kmは必要ではないが、ロングレンジは顧客に喜んでもらえる大きな要素なので、顧客のために100kmとしました。今後数年間はPHEVのベンチマークになるとも考えています」との回答を得た。

確かに日本でも、「EV航続距離100km」はインパクトがある。状況に応じてエンジンと電気を使い分け、また組み合わせて走る事ができるニューCクラスのPHEVは、なかなかクレバーな選択かもしれない。走行中の充電はできないものの、国産モデルにも影響を与えそうだ。ぜひセダン、ステーションワゴンとも導入してもらいたいところである。



Dセグの基準を一気に引き上げる存在
ハイテク装備の数々は、基本的にSクラスに準じている。
・スマートホーム機能や音楽ストリーミングサービスへのアクセス機能
・OTAによるソフトウェアアップデート機能を備えた第2世代のMBUX
・カラー表示のヘッドアップディスプレイ
・ARナビゲーション
・高精細な配光と路面に様々な画像を投影できるプロジェクション機能を備えた、左右各130万画素のデジタルライト(日本では一部機能がカットされる可能性が高い)
・PRE-SAFEインパルスサイド
これら最先端の安全装備、高度な制御を実現した先進的な運転支援システムの数々などは、プラットフォームにMRA-2を採用したからこそ盛り込めたもの。Sクラスとのプラットフォーム共通化は、むしろこれが最大の理由と言ってもいいだろう。



エアコンやシートマッサージ機能、サウンド、アンビエントライトなどを組み合わせて制御し、乗員の疲労回復やストレスレベル軽減などを図る、エナジャイジング・コンフォートやエナジャイジング・コーチといったウェルネスプログラムを搭載している点もメルセデスらしいところ。好みや気分に合わせて車内に独自の香りを提供するほか、空気をフィルタリングやイオン化により質を高めて心地良い空間を実現するエア・バランス・パッケージも用意される。

もはや全方位でこれまでのクラスの基準を超えた感のある新型Cクラスは、世界のプレミアムDセグメントモデルに大きなインパクトを与えそうだ。日本市場への導入は21年末頃になる模様で、もう少し待たなければならないが、上陸がとても待ち遠しい1台である。


<文=竹花寿実 text by Toshimi Takehana>