トランパーたちを熱狂させる話術は父親譲り(AFP=時事)

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 厳戒態勢のなかで行われるジョー・バイデン氏の大統領就任式を尻目に、ドナルド・トランプ氏とその一族郎党がワシントンを去っていく。トランプ政権の4年間、「親の七光り」ではあるものの、その美貌と知性で「ファーストドーター」として世界中を飛び回り、大統領補佐官として父親の目となり、耳となってきたトランプ氏の長女イバンカさん(39)。その夫君のジャレット・クシュナー上級顧問(40)も例外ではない。

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 夫妻はワシントン市内の超高級住宅地カロラマの豪邸から、まさに「石をもて追わるるごとく」追い出される羽目になっている。カロラマは由緒あるサンクチュアリだ。ウッドロー・ウィルソン第28代大統領はじめ歴代5人の大統領が退任後、カロラマを終の棲家に選んでいる。現在はバラク・オバマ前大統領も住んでいるほか、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏はじめ全米でも指折りの富豪が多く暮らす。副大統領公邸やフランス大使公邸もある。

 そのカロラマにクシュナー夫妻が居を構えたのは、トランプ氏が大統領選挙を制した直後の2016年12月。638平方メートル、寝室6つ、バス・トイレ6つの豪邸に子供3人と住んでいる。ホワイトハウスへは車で9分。当然24時間、シークレットサービスが身辺警護に当たってきた。

 ところが、去り際になってクシュナー夫妻の「人権侵害」がワシントン・ポストにすっぱ抜かれた。シークレットサービスに豪邸内のトイレ使用を禁じてきたというのである。当初は、近くのオバマ邸や車で数分の副大統領公邸のトイレを借りたりしていたが、それでは任務にも支障が出ることから、仕方なく家の前にポータブルトイレを設置。それに対し、周辺住民から「美観を損なう」と反対の声が出て、2017年9月には、向かいの家のガレージにトイレとシャワールームを設置した。「家賃」の月3000ドルは国土安全保障省が支払ってきた。その額、2020年9月末までに14万4000ドル。血税からそれだけの金額が「トイレ代」に支払われたという。

 これまでは、周辺住民たちも「ロイヤルファミリー」に気を使って、近所迷惑を考えないパーティ三昧や厳しい交通規制に対する不平不満を抑えてきた。政権末期に発覚した「トイレ・スキャンダル」に呆れながらも、クシュナー夫妻の転居にほっとしている様子だ。住民の一人(共和党支持者)は、「これで街にやっと静寂が戻ってくる。さっさとフロリダでもどこでも行ってほしいわ」と語っている。

 クシュナー夫妻は、今度はトランプ氏が大統領選挙で敗れた直後の2020年12月にフロリダ州のインディアン・クリーク・アイランドの高級住宅地に建つ豪邸を3200万ドルで購入した。ここは29世帯だけが暮らすプライベート・アイランドで警備態勢も厳重だ。島の住民全員が加盟しているのが、近くにある「ビリオネアズ・バンカー」というカントリークラブ。会員300人で、18ホールのゴルフ場とレストランがあり、大富豪たちの憩いの場所だ。1930年に設置された伝統あるクラブで、メンバーは原則白人だけ。入会希望者がいても、会員のうち一人でも反対者が出たら認められないため、黒人はむろんのこと、ユダヤ系やアジア系も例外的にしか認めてこなかった。

 クシュナー夫妻も当然このクラブに入会するつもりだったようだが、会員たちのなかにトランプ・ファミリーを敬遠する動きが出ているという。古参メンバーは吐き捨てるようにこう言っている。

「民主主義の原点である米国議会を冒涜し、破壊する暴徒たちを『英雄』などという女(イバンカさんのこと)と一緒にコースを回りたくはないね」

 イバンカさんは「英雄」発言について、否定したとか撤回したなどとも報じられているが、いずれにしても「堕ちたトランプ・ブランド」が、「持てる者たち」から疎まれていることは間違いないようだ。
 
 かつてトランプ氏から、「娘は史上初の女性大統領になる」と太鼓判を押されたイバンカさんだが、孤城落日の観すらある。

■取材・文/高濱賛(米在住ジャーナリスト)