近年、日本で数多くのスパイが活動していることをうかがわせる事件が相次いでいる。2018年、ソフトバンク社員(当時)に近づき機密情報を盗み出すよう「唆した」疑いがもたれているアントン・カリニン・ロシア通商代表部元代表代理もその一人だ。国際ジャーナリストの山田敏弘氏は「彼は間違いなく、ロシア軍の諜報機関の人間だ」と話す。

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 山田氏によると、独自の軍事用データ通信システム開発に乗り出したロシアがターゲットにしたのがソフトバンクだったのだという。カリニン氏は都内の飲食店で偶然を装い、元社員に接近。親交を深めた後、多い時で約20万円という報酬を提示、機密情報を受け取っていたという。

 今年1月、元社員は不正競争防止法違反の疑いで逮捕され、当局はカリニン氏に出頭要請をするも、本人は外交特権を盾に拒否。翌月、多くの報道陣を尻目に堂々と帰国。東京地検は今月2日、「出国済みで再入国の見込みがない」として同氏を不起訴処分にした。「彼が情報を持ってカメラの前の通りながら帰っていった。誰も止めない、止められない。日本にはスパイ防止法みたいなものがない。もう完全にスパイ天国というのは確かだと思う」(山田氏)。

 同様の事案は他にもあるという。山田氏が取材した、ここ最近スパイ被害にあった企業をまとめると「1月25日・ソフトバンク:ロシア人スパイによる5G技術情報漏洩。軍事オペレーションに使われる高速通信インフラの構築」「2月10日・三菱電機:サイバー攻撃を受け、防衛関連情報が盗まれた可能性を発表。狙われた技術は自衛隊が使用するレーダー技術」「2月6日・防衛省が発表:神戸製鋼所が保有する防衛情報が狙われた可能性がある。狙われた技術は潜水艦や魚雷の製造技術」といったものがある。

 「2月には三菱電機がサイバー攻撃を受け、自衛隊が使用するレーダー技術の情報を盗まれた。10年前から日本企業を狙っていた中国の政府系ハッカーによるものと考えられるので、実際は以前から攻撃を受け、情報を盗まれていたのではないか。人事情報だけが盗まれたとしているが、中国は技術力のある人も欲しがっているので、“機密情報は盗まれていないから大丈夫だった”という話ではない。情報を盗まれ続けて倒産したあるカナダ企業の場合、最終的には20〜30人の有能な社員がHUAWEIに迎え入れられている。僕が聞いたケースでは、新卒採用で入ってきた日本人が実はスパイで、辞める時に情報を持っていかれたというパターンもある。そのようにして、相手国の経済を支えるような企業の技術力を盗んで力を削ぎ、自らが優位に立つ、ということが行われている。アメリカが怒っているのも、そのような実態があるからだ」。

 元警視庁公安部の江藤史朗氏は「最近ではスーパーコンピューター富岳の解析データ、あるいは国境問題などの外交・防衛の情報、そして人工衛星やロケットなど、大手企業や国がお金を出してやっているような技術を狙っているだろう」と話す。また、北朝鮮の元工作員、キム・ドンシク氏は「昔から北朝鮮の工作員は工作船で日本に潜入し、在日朝鮮人をスパイに仕立て上げている。そのネットワークは今も健在で、今も彼らは確実に日本で仕事をしている。今後も日本から多くの情報を吸い上げ、軍事強化に活用していくだろう」と証言した。

 また、海外のスパイにとって日本は、「スパイ天国」とも言われている。その理由こそ、「スパイ防止法」がないということだ。他の先進国では、最高刑が死刑や無期懲役という、厳しい罰則を設けた法制度が整備されている。

 イギリスの諜報機関・MI6に7年前まで所属、日本でも活動した経験を持つという男性は「もしイギリス国内でソフトバンク事件のようなことが起きたとしたら、スパイを国外に逃がすことなど絶対にありえないし、殺害する権限もある。そして、そうなったとしてもニュースになることはない」と話す。また、中国のスパイを監視する任務にあたっていた経験から、「いま最も警戒すべきは中国だ。私が東京、大阪で活動していた時、日本企業の技術情報を盗む中国のスパイを数多く確認した」と話した。

 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「1985年にスパイ防止法案が廃案になってしまったのは、国家の管理が強過ぎるのは良くないとメディアや日弁連などが反対したという背景がある。やはり戦前の特高警察などへの反省があるのだろう。だから特定秘密保護法にも反対意見が根強かった。ただ、スパイが跳梁跋扈しても大丈夫だったのは、アメリカの核の傘の下、自ら安全保障をやらなくても良かったからだ。軍事はアメリカにお任せして、経済だけやっておけばいいという、ある種の呑気さみたいなものが背景にあったと思う」と指摘する。

 江藤氏は「中国や北朝鮮のスパイによって日本の政治家が操作されていたという背景もあった。また、ロシアの通商代表部の建物は、すでに存在しないソビエト連邦の持ち物のままだ。そういうおかしな状況が今でも続いているし、日本の公安部は何度もロシアの対外情報庁の人を摘発したが、いずれも帰さざるを得なかった」と明かした。

 さらに前出の元MI6職員の男性は「日本で中国のスパイを見たことはあるが、中国で日本のスパイを見たことはない。監視も徹底しているので、スパイなら誰もが無力感を覚える。中国は今後も、日本の技術を盗みどんどん大きくなる」と警告している。実際、中国での日本人拘束は急増しており、スパイ容疑で逮捕された日本人が刑期満了で釈放され、今月2日に帰国していたことも明らかになっている。中国側は容疑の事実などを正式に公表してはいないが、“日本の公安調査庁の協力者だ”として懲役5年の実刑判決を下した。日本政府は公安の協力者であることを否定したが、判決が覆ることはなかった。

 江藤氏は「即時解放された人は中国側にとって何の役にも立たなかった人だ。逆に言えば捕まえられた人というのは役に立つ人だし、むしろ工作員として仕込まれて帰ってくるケースもある。例えば香港で捕まった弁護士が、2年後にはほとんど洗脳状態だったということもあった。そういう人については、日本の公安も視察対象としてずっと見ていくだろう」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
 

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