巧みな人心掌握術でチームをまとめ上げたクロップ。彼の就任以降、チームはどのように変貌してきたのか。 (C) Getty Images

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 ユルゲン・クロップ体制における成功の要因はさまざまあるが、ここでは心理面にフォーカスしたい。彼の就任前と就任後におけるチームの最大の違いはメンタルにある。ドイツ人監督の就任で、リバプールは強靭な精神力を身につけた、と言い換えてもいい。

 今から約4年半前。15年10月の就任会見で、クロップ監督は「我々は『疑う者』から『信じる者』へ変わる必要がある」と訴えた。この信じる力こそが、クロップ体制の原動力だ。

 例えば、優勝決定前の6月24日に4−0で大勝したクリスタル・パレス戦(プレミアリーグ第31節)。4点の大量リードを奪い、残り時間10分となっても、リバプールの選手たちは必死にプレスをかけ、ボールを奪うと積極果敢に攻撃を仕掛け続けていた。

 あふれる野心と徹底して勝利にこだわる姿勢──。リバプールの強さが、実によく表われていたシーンだ。こうした飽くなき探究心やメンタリティが彼らを頂点へと押し上げたのである。

 振り返ってみても、クロップ体制のリバプールは、何度も苦難を糧にしてきた。
 
 就任初年度(2015-16シーズン)にヨーロッパリーグ(EL)の決勝まで勝ち進んだが、 セビージャに1−3で敗戦。その2年後にはチャンピオンズ・リーグ(CL)のファイナルまで進み、栄冠にあと一歩のところで涙を飲んだ(レアル・マドリーに1−3で敗戦)。

 しかし、翌年の2018ー19シーズンには、再びCL決勝に進出し、トッテナムを2−0で退けて、悲願の欧州制覇を遂げたのである。何度失敗しても不屈の精神で起き上がるリバプールは強く、そして逞しくなった。

 プレミアリーグも同様だ。昨シーズンはマンチェスター・シティとわずか1ポイント差の2位で終了。負けたのはわずか1回。この年に獲得した97ポイントはプレミアリーグ史上3番目に多い数字だったが、頂点に立つことができなかった。

 だが、リバプールは再び起き上がった。今シーズンも破竹の勢いで白星を重ね、一時は2位マンチェスター・Cと最大25ポイントの大差をつけ、最終的に史上最速となる7試合を残してのリーグ優勝を決めた。

 昨シーズン終了後、クロップ監督は選手たちに「リーグを2位で終えたのは、失敗の証ではない。成功に近づいている証だ。タイトルは、もうすぐそこだ」と発破をかけたという。その指揮官の言葉を選手たちは信じ続けた。そして奮起した結果が、30年ぶりのトップリーグ制覇だったのだ。
 プレミアリーグ優勝の歓喜に沸く選手たちの姿を見ながら、思い出した試合があった。クロップ就任前の15年10月1日に行なわれたELのグループステージ最終節のシオン戦。リバプールは本拠地アンフィールドでの一戦で攻めきれず、1−1のドローで試合を終えた。

 当時、渦巻いていたブレンダン・ロジャーズ前監督の解任論が、この引き分けでいっそう高まったのは言うまでもない(※3日後に解任)。強く記憶に残っているのは、選手たちがすっかり自信を失い、プレーに楽しみをまったくと言っていいほど見出せていないことだった。

 それから約4年半の時間が経過した今、リバプールの選手たちは大きく様変わりした。表情は自信に満ち溢れ、相手に走り負けることもない。球際では激しく、力強いプレーで敵を圧倒するようになった。

「疑う者から、信じる者へ」――。クロップの到来で、リバプールは30年も遠ざかっていたトップリーグタイトルを両手でがっちり掴んだのである。

文●ジョナサン・ノースクロフト(Jonathan NORTHCROFT)
翻訳●田嶋コウスケ

【著者プロフィール】
ジョナサン・ノースクロフト/高級紙『タイムズ』の日曜版『サンデー・タイムズ』のエース記者で、イングランド中部を中心に取材活動を展開中。分析記事やインタビューに定評があり、『BBC』をはじめサッカー番組にも多数出演。リバプールの舞台裏にも精通する。