【今、あらためて試乗】初代ランドローバー・レンジローバー・バンデンプラ 究極の「クラシック」がここに
王様は「エアバッグなし(?)」text:Takuo Yoshida(吉田拓生)
photo:Satoshi Kamimura(神村 聖)
白いクラシック・レンジローバー。
イギリス的に言うと白はオールドイングリッシュホワイトという呼び名が一般的である。
垂直、水平のラインが端正に組み合わさるクラシック・レンジローバーのスタイリング。バンデンプラのバッジはリアにあるし、ホイールベースの長さは横から見ないとわからないので、正面から見ただけではグレードの判別は難しい。今回のバンデンプラは1994年式だが、新車と言ってもいいくらいのコンディションを誇っている。
このクルマのオーナーである宮澤久哉さんは、ランドローバーのトップセールスマンとして知られていた方。
現在宮澤さんはジャガー・ランドローバーを含む数多くの正規輸入車ディーラーを運営しているALCモーターグループの常務執行役員なのだが、やはりレンジローバーへの愛情は並々ならぬものがあるようだ。
今回の撮影の際、宮澤さんが強調していたのは「エアバッグなし」ということだった。
非常にマニアックな見方をするならば、クラシック・レンジローバーの究極とされるバンデンプラの中にも前期と後期がある。
前期は伝統的なデザインのダッシュパネルを装備しているが、後期はディスカバリーと共用のダッシュパネルやエアバッグ付きステアリングが付く。
クラシック・レンジ道を極めた宮澤さんが言いたかったツボはそこだろう。
今回の個体は内装のコノリーレザーやウッド状態も上々。しかもバンデンプラに標準装備されるリアのピクニックテーブルのみならず、オプションのワインクーラーまで付いている!
まさに王様の中の王様なのだ。ではさっそく走り出してみることにしよう。
少し古いが、本物の質感がある
4段ATのシフトノブでDレンジを選ぶと、4輪にガツンと駆動が伝わる。
ブレーキをリリースすると、かなり重厚な雰囲気を伴いながらレンジローバーが走り出す。
豪華なウッドがバンデンプラらしい高級感を醸し出すが、ダッシュパネル全体のデザインは1970年代から続く原初のもの。ダッシュ中央上部のオーディオユニットはカバーごと後付けされたもの。2スポークのステアリングにもRANGE ROVERの文字が入る。クラシック・レンジはボルボ240やメルセデスGクラスなどと同様に、お洒落に敏感なクルマ好きに人気だが、そのドライブフィールに過大な期待をかけるべきではない。
というのも、このクルマは1960年代の設計であり、3代目以降のレンジローバーのような4輪独立のサスペンションを備えているわけではないからである。
クラシック・レンジローバーの走りに関して評価されるべきは、現代車的な器用さではなく長旅をするとわかるような「独特の趣き」の部分だろう。
ステアリングの切りはじめや変速の瞬間などは少し荒々しかったりダルな一面もある。けれど一方では現代のクロスオーバーSUVにない重厚な質感と、一旦スピードに乗ると顔を覗かせる軽快なドライバビリティがこのクルマには同居しているのだ。
そして「コマンドポジション」と呼ばれる高みから見下ろすドライビングポジションは視界もこの上なく良好である。
だから高速道路を走っていても快適で疲れにくいし、一方狭い道で現代車のようにコーナーセンサーやバックカメラにお世話にならなくても、目視によって容易に取り回すことができるのだ。
ライフスタイルを変える佇まい
重厚にして軽快という一見相反するようなクラシック・レンジローバーの乗り心地。
バンデンプラはそこに、4.2Lというシリーズ最大排気量のローバーV8エンジンと、標準モデルより202mm長いホイールベース(リアシートの足元スペースが広くなっている)と、そしてエアサス特有の浮遊感が加わる。
ボンネットの水平なラインがボディ全周を巡っている。テールゲートは上下2分割になっており、下側は人が座れるくらい強度がある。2分割のテールゲートはレンジローバーに受け継がれるアイコンになっている。ロールス・ロイスの乗り心地は「魔法のじゅうたん」などと言われるが、今回のバンデンプラはまさに「砂漠のロールス・ロイス」そのものなのである。
ドライバビリティや乗り心地もそうだが、クラシック・レンジローバーにあって、現代のクロスオーバーSUVにないものの中には、クルマ自体が纏っている佇まいの良さのようなものがある。
このクルマがあれば、家族や仲間を招きたくなるし、目的地もディズニーランドやショッピングモールよりは、少し気の利いたオートキャンプ場に行きたくなるはず。
リアの荷室に積み込むアイテムにだって、今までとは違うこだわりが生まれるはずだ。
ライフスタイル全般を変えてしまうような力が、今なおクラシック・レンジローバーにはあって、それが人気を支えているのだと思う。
2017年にランドローバー社はリボーンと題して、初期のレンジローバー10台を新車のように仕上げて販売している。
これをきっかけにエバーグリーンカーとしての色がさらに強まっているのである。
