愛知県西部にある津島市。ここで約80年にわたって地元の人々に愛されている寿司店がある。都心の寿司店と比べて敷居が低くて入りやすいのが街場の寿司店の魅力。それが津島神社からほど近い『末廣寿司』だ。出前の注文も多い、町場にある昔ながらの寿司店である……。

愛知・津島のおもてなし文化から生まれた郷土料理「もろこ寿司」を復活させた寿司店


愛知県西部にある津島市。

ここで約80年にわたって地元の人々に愛されている寿司店がある。

出前の注文も多い、町場にある昔ながらの寿司店である。


それが津島神社からほど近い『末廣寿司』だ。

店構えからも大衆店であることがわかるだろう。

三代目の店主、野口佳男さんは高校を卒業後、名古屋市内の寿司店に住み込みで働いて、寿司職人としての腕を磨いた。

22歳のときに店へ戻り、それから30年以上経った今も厨房に立ち、腕をふるっている。


「とくに祖父が厳しい人でしてね。
お酒すら置いていませんでした。
当時は出前が中心だったとうこともありますが、メニューも並や中、特上といった“おきまり”のみ。
おまかせの注文は受けてなかったですね。
今は注文があれば握りますよ」と、野口さん。

都心の寿司店と比べて敷居が低くて入りやすいのが街場の寿司店の魅力である。

ここも例外ではなく、夜は寿司を肴にして居酒屋的に利用する客も多い。

ランチもまたお値打ちなメニューを用意している。


これがランチで提供している「割子弁当」(1100円)だ。

内容は日替わりで、この日はちらし寿司とタイとシマアジの刺身、子ふぐの焼き物、きんぴらごぼう、菜花の胡麻和えなどおかず4品。

これに、あら汁とコーヒーが付く。


一方、こちらは野口さん自慢の「特上寿司」(3190円)。

内容は、旬の魚介をふんだんに使った握り6巻と巻物1本。

この日は、カニ身とシマアジ、トロ、穴子、車海老、ウニ、トロ鉄火。

名古屋市内の寿司店と同様に、シャリの味付けはやや甘めでネタも大きめ。

シャリには粒が大きくて粘り気の少ない岐阜県産米のハツシモを使用している。

尾張地域・津島市ならではの郷土のおもてなし料理をご紹介!


ここまでは巷にある町場の寿司店とほぼ変わらない。

にもかかわらず、私が『まとメシ』で紹介するのは深〜いワケがあるのだ。

津島では人をもてなす際、店へ連れていくよりも自宅へ招くことが多い。

寿司店の出前注文が多いのもそのためだ。

ちなみに市内には多くの和菓子店が建ち並んでいるが、これも自宅でお茶をたしなみ、もてなす機会が多いためである。


「おもてなし料理として、この地方で昔から食べられていた郷土料理の寿司があるんです。
祖父の代くらいまではどの家庭でも作っていたのですが、核家族化など時代の流れとともに作られなくなっていったんです。
今からそれをご用意しますね」と、野口さん。


これが津島市の郷土料理、「もろこ寿司」(900円)。

小魚(コイ科の淡水魚)のもろこを甘辛く煮て、押し寿司にしたものだ。

津島の人々は、これをお祭りや結婚式、法事など人が集まる際に出していたという。

「押し箱という型に3時間ほど入れて作るのですが、人が集まる前日に作っておけばあとは切るだけでできるわけです。
押し箱も昔はどの家にもあったそうですよ。
家庭料理なので、ウチの店では出していませんでしたが、20年ほど前に町おこしの一環としてメニューに加えました」


さて、肝心な味だが、愛知県民の喜びそうな甘辛味。

腹わたの苦みとのバランスが秀逸で、押し箱に入れることでタレが染みたシャリも美味しい。

お酒にもお茶にも合う一品だ。

「もろこは近くの川魚店から仕入れる天然ものです。
年々獲れなくなって、値段も1キロ3000円くらいするんです。
マグロとほぼ変わらない高級魚なんです。
この津島が誇る郷土料理を次世代に繋げていきたいですね」

「もろこ寿司」は仕込みに3時間かかるため、どうしても要予約となるが、食べる価値はアリと断言する。

お土産に持っていっても喜ばれそうだ。

末廣寿司
[住所]愛知県津島市本町1-66
[TEL]0567-26-2790
[営業時間]11時半〜14時、17時〜20時
[定休日]火曜

永谷正樹(ながや・まさき)
1969年生まれのアラフィフライター兼カメラマン。名古屋めしをこよなく愛し、『おとなの週末』をはじめとする全国誌に発信。名古屋めしの専門家としてテレビ出演や講演会もこなす。