アニサキス8匹が見つかったという「品川庄司」の庄司智春さん(2013年4月J-CASTニュース編集部撮影)

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寄生虫「アニサキス」の幼虫が原因の食中毒が話題だ。お笑いコンビ「品川庄司」の庄司智春さんは、何とアニサキス8匹が胃の中で暴れ回ったという。NHK「ニュースウォッチ9」の桑子真帆アナと結婚を発表したフジテレビの谷岡慎一アナも、1年前にイクラの寿司を食べた後で激痛に襲われたと告白した。

厚生労働省は、予防法として徹底した加熱や冷凍、目視による除去を挙げているが、テレビのニュース番組では別の方法として「よく噛む」を紹介した。噛むだけで防げるのか、取材した。

厚労省の対策にはない

2017年5月9日放送の「スーパーJチャンネル」(テレビ朝日系)で取り上げたアニサキスによる食中毒のニュースの中で、「アニサキスは物理攻撃に弱く、体に傷がつくとすぐに死んでしまうため、よく噛むことで口の中で死滅させることも可能だという」と紹介された。庄司さんがアニサキス体験を語った5月10日放送の「ノンストップ!」(フジテレビ系)でも、予防法のひとつに「よく噛む」が挙げられた。ただしここでは、谷岡アナが、日常生活の食事での咀嚼(そしゃく)程度では死なないと補足した。

J-CASTニュースは、アニサキスに詳しい国立感染症研究所寄生動物部・杉山広氏に話を聞いた。

「確かにアニサキスは大きく損傷したり千切れたりすれば動かなくなります。しかし、どれほどの強さで何回噛めばアニサキスが損傷して胃粘膜に侵入しなくなるかという科学的データは、現時点ではありません」

要するに、噛まないよりもよく噛んだほうが「まし」という程度で、噛むことがアニサキス症の予防になるとは言い切れないのだ。杉山氏によると、アニサキスを用いた実験では、胃を想定した柔らかい寒天とアニサキスを試験管の中に入れ、胃液に見立てた酢を注ぐ。するとアニサキスは寒天の中に潜り込む。これが、胃粘膜にアニサキスが刺さって侵入する状態だ。一方、アニサキスをスパっと切って同じ状態に置くと、今度は寒天には潜らない。

包丁でアニサキスを切り刻めば、実験で示されたように動かなくなると想像できる。もしかしたら歯で噛みつぶせば似たような状態にできるかもしれない。だが、実際に人がアニサキスをしっかり噛んで飲みこんだ後、胃の痛みが起きたかどうかを検証したデータは、杉山氏が知る限りでは「ない」と話した。

実は、厚生労働省はアニサキス対策として「よく噛む」を挙げていない。

加熱と冷凍、内臓処理の徹底こそが重要

電話取材に応じた厚労省監視安全課の担当者は、「一般論として、アニサキスは傷がつけば死滅し、そうなれば当然(口の中に入っても胃に)刺さらないと言う医師の方はいます」と話すが、同省としてはあくまでも「アニサキスが魚介類に付かないための注意喚起」を徹底しているという。

一般消費者だけでなく業者も対象としているため、目視による除去、加熱や冷凍、魚の内臓を食べないといった方法を紹介している。これらは、アニサキスが付いたまま誤って口に入れた場合の対処法という観点ではない。

国立感染症研究所の杉山氏も、予防策としては加熱と冷凍の徹底、また個人でも釣った魚は必ず内臓処理をする、生食をしない、といった注意点を挙げた。

なお、庄司さんのように複数のアニサキスが口の中に入ったというケースはしばしば起きていると杉山氏は明かした。半面、胃の中にアニサキスがいるのに全く痛みを感じず、人間ドックで初めて見つかって除去した例もある。中にはアニサキスによるアレルギー反応としてじんましんが出る人もいるという。