B〜Cセグメント級ミドシップ4WDスポーツという夢 『GRヤリスMコンセプト』を渡辺敏史が取材(後編)
唖然とさせられっぱなし
*『GRヤリスMコンセプト』を渡辺敏史が取材(前編)の続きです。
【画像】リアミッドシップ採用!『GRヤリスMコンセプト』と、ベースになった『GRMNヤリス』 全53枚
本気の方々が本気でここを走ると、こんなスピードやライン取りになるのかと、こちとら唖然とさせられっぱなしだったのは正直なところだ。サーキットとは異なりエスケープの小さなテストコースの全幅を使って速度を乗せれば、(トヨタテクニカルセンター)下山では体験したことのない速度域でみるみるガードレールが迫ってくる。

GRヤリスをベースに、リアミッドシップのレイアウトを採る『Mコンセプト』。 トヨタ自動車
ジャンピングスポットではクルマが本当に気の毒になってくる、そこまで攻め込んだ走りを、まずは『GRヤリスGRMN』に乗る大嶋和也選手の横で体験させていただいた。
ある意味『GRヤリスMコンセプト』のベース車ということになるが、その動きはまさに水を得た魚。クルマの全てを引き出して走るプロフェッショナルの速度域になれば、フットワークや回頭性には軽やかさを超えたしなやかさすら感じられる。
GRヤリスってこんな上質なクルマだったのかとその動きに驚かされるが、文字どおり意のままとも思える運動性能も注意深く観察していると、一定舵角の旋回時にも曲がりを待つような様子が感じ取れた。
もちろんプロはそこから更に曲げていく引き出しをいくつも備えているのだろうが、この些かのアンダーステアをもっと抜本的に改善できないかということがMコンセプトの開発の端緒になったことは想像できる。
「神に祈る時間」
トヨタ自動車の豊田章男会長曰く「神に祈る時間」というそれは、いかに軽減できたのか。
佐々木雅弘選手のドライブするMコンセプトの横で、その動きを味わわせてもらう。車両は試作としては5代目にあたるが、現在S耐を走っているのが6代目ということなので、開発年次的にはかなり進んだ個体といえるだろう。

トヨタテクニカルセンター下山を走行するMコンセプト。 トヨタ自動車
コースイン直後に迎える最初の登り坂でまず感じたのは、開発途上のG20系ユニットが想像以上に快音を伴う軽やかな回転フィールをもっていたことだ。
みるからに大径のタービンを回しながらもトルクの変動やパワーの伸びにピーキーなところは感じられない。現状は400ps程度ということで余力的には充分と、その範疇でいえば大排気量のNAユニットのような気持ちよさがある。
さりとて明らかにGRヤリスを上回る力感で登り路面を蹴り出していると、その荷重変化も相まってアンダーステア傾向が強まりそうなものだが、Mコンセプトは30:70の駆動配分設定がバチッとハマっているのか、或いはそもそものトラクション能力の高さも奏功しているのか、外にアタマが膨らんでいくような動きは綺麗に抑えられていた。
パワーをぐいぐい掛けていっても、溜めなくインについていく感触からは確実にベース車と異なる素性が感じられる。でも、傍らから佐々木選手のドライビングをみていると、やはり修正舵は多く、曲げるために細かなテクニックを駆使していることが伝わってくる。後方から容赦なく吹き込むエンジンノイズや熱波の只ならぬ臨場感も含めて、開発途上の苦労が透けて見えるかのようだ。
乗りやすさは想像を大きく上回るもの
第三週回路の同乗走行を終えると、施設内にあるダートコースでステアリングを握るという嬉しいサプライズが待っていた。用意されたのは前期型のGRヤリスと2023年に初めて製作されたという試作1号車だ。
搭載エンジンはG20系ではなく現行のG16系で、エンジン幅が小さいこともあってリアサスもマルチリンクを継承しているが、熱との戦いは当初からシビアだったとみえて、随所にチャンネルが設けられている。車体が横を向いている時間が長いダート走行であれば尚のこと冷却は厳しいだろう。

施設内にあるダートコースで試作1号車のステアリングを握ることができた。 トヨタ自動車
ダートで乗るMコンセプトの1号車、その乗りやすさは想像を大きく上回るものだった。最初はそろりと挙動を確認するように円旋回を試みたものの、ステアリングもアクセルも唐突な応答は極力丸め取られているようで肌馴染みがいい。
そこで調子に乗ってちょっと膨らみそうな挙動を示せば、アクセルを抜くだけで間髪入れずスッと車体をインに寄せてくれる優しさもある。
ミドシップ4WDのラリー車両といえば脊椎反射で狂気のグループB車両を思い出すのはオッさんの悪癖かもしれないが、なるほどGRの作るそれはさすがに針穴に糸を通すような緊張感にはさいなまれない。
但し、アクセルのちょっとした踏み加減によっては一気にオーバーステア化するような挙動は幾度か味わった。佐々木選手はターマックの第三週回路で路肩いっぱいを使ってこの癖をなだめながら、左へ右へスパスパとMコンセプトを曲げていたのだろう。
GRヤリスとは一線を画するスジの良さ
こと旋回能力について、MコンセプトがGRヤリスとは一線を画するスジの良さを備えていることは充分認識できた。
このパッケージがWRCで反映できるか否かは不明ながら、優れたラリーカーは最上のスポーツカーなり得るという定説は歴史が証明してもいる。その名がセのつくクルマになるか否かはさておき、少なくとも開発で得られた知見は間違いなく次なる市販車への糧となるだろう。

B〜Cセグメント級ミドシップ4WDスポーツという夢は実現するか? トヨタ自動車
齋藤さん曰く、そんな目処はまったく立たないし、熱だけでなく課題は山ほどありますから……と、そんな気配はお首にも出さない。が、現状の欧米のメーカーでは到底望めないB〜Cセグメント級ミドシップ4WDスポーツという夢を、Mコンセプトに重ねることは我々クルマ好きの自由だ。そんな視点でS耐を追ってみるのもまた楽しいと思う。
