ムカデと蛇が大喧嘩して温泉が湧いた?伝説と河岸段丘が残る群馬県沼田市へ
戦国武将が狙った沼田城、歴史好きの人なら知っている。パウダースノーのゲレンデも、スキー好きの人なら知っている。でも沼田の魅力はそれだけ?からっ風が吹くこの地を旅してみれば、蛇とムカデが喧嘩して、パンにハマった殿様がいて、コンビニに座布団があり、何より天狗密度が半端ない。天狗に守られた街の不思議な魅力を探しに、いざ。
【白石あづさのワンダートリップ】日本全国の不思議な町を訪れる不定期連載。第2回目は、群馬県沼田市へ。巨大天狗の待つ迦葉山や蛇伝説の老神温泉、とんかつ街道に河岸段丘の市街地を訪れました。
とんかつと神様たちの大喧嘩【老神・とんかつ街道】
天狗の棲む雪山からポンと吐き出されると、再び目の前に青空が広がった。ミステリアスな山であったが、そこから車で南東に50分ほどの老神(おいがみ)温泉も天狗に負けないビッグな伝説が残る。
『河岸段丘』台地と崖がマリアージュ!?日本一美しい、河岸段丘がここに

『河岸段丘』とんかつ街道から見渡せる河岸段丘。10万年かけて作られたとか。遠くに赤城山が見える
昔、日光男体山のムカデ神と赤城山の蛇神が大喧嘩をした。ムカデが放った矢が蛇に突き刺さる。だが蛇は「ピンチはチャンス!」と思ったのか思わなかったのか、その矢を抜いて大地に刺したところ、温泉が沸いて傷が治ったとか。そんな伝説にちなみ、5月に「大蛇祭り」が行われるそうだ。
『大蛇みこし展示館』

老神温泉の大蛇まつりは毎年5月に行われる。12年に一度、登場する108mのギネス記録の大蛇は「大蛇みこし展示館」で見学可。老神近くの幅30mの巨大な『吹割の滝』は水量のある春におすすめ
老神を後にして平坦な台地と急な崖が交互に繰り返される河岸段丘の美しい車窓に見とれていると、道路脇に「とんかつ街道」の旗が。確かにやたらめったらとんかつだ。なぜ?
そのうちの一軒、『金重』に入り、店主の金子靖さんに尋ねると「スキー客は肉を食べたいから?この辺、養豚が盛んだから?」と首を傾げる。
一方、「街道」のきっかけはNHK大河ドラマの『真田丸』。放送に合わせグルメで地元を盛り上げたいとある日、市役所の人がやってきた。
「とんかつ街道?ライバル店と手を組むなんて嫌だと(笑)。ところが地元をもっと知ってほしいと利根実業の高校生が沼田特産の枝豆を使って『えだまメンチ』を開発したと聞いて……俺たち大人は何をしているんだ!と」。
心を入れ替えた金子さんは周囲の店に呼びかけた。今ではスキー客だけではなく「ただのとんかつ好き」も県外から訪れる。
『とんかつ金重』炙り味噌ロースかつ定食2200円

『とんかつ金重』炙り味噌ロースかつ定食 2200円 5週間以上熟成させた超熟尾瀬ドリームポーク「炙り味噌ロースかつ定食」は2200円。地元の木耳を使った「きくらげロール」も人気

『とんかつ金重』店主 金子靖さん
店主:金子靖さん「ジューシーで柔らかい地元の豚。旨みも凝縮です」
『とんかつ金重』
[店名]『とんかつ金重』
[住所]群馬県沼田市白沢町高平26-8
[電話]0278-20-9116
[営業時間]11時〜15時
[休日]金
[交通]JR上越線ほか沼田駅から車で30分程度、関越自動車道沼田ICから10分程度
【沼田市中心部】段丘の上に市民の暮らしあり
分厚いとんかつに満足した私は、沼田駅に辿り着くと地図を手に入れ散策開始。スタートからすでに天狗が大渋滞だ。
駅前の石像は天狗、駅のホームや待合室にも天狗面、その横のコンビニ『ヤマザキYショップ想いで』までもガラス越しにお面が見える。が、面よりレジ横で店のお母さんが群馬名物、味噌まんじゅうを焼いているのが気になって仕方ない。
天狗は今日も、目を光らせています『JR沼田駅』

『JR沼田駅』駅のホームにも天狗のお面!乗客の安全を担っている?
『Yショップ想いで』

『Yショップ想いで』駅前のコンビニ「ヤマザキYショップ想いで」には年季の入ったストーブが。その場で焼く味噌まんじゅうがおいしい。沼田名物、味噌パンもここで買えるのでお土産に
味噌まんに釣られて入店すれば、隅にストーブと座布団があり、「熱い麦茶どうぞ」との張り紙が。コンビニが優しすぎて、それだけで沼田が好きになる。歩く前から充電して地図を片手に意気揚々と店を出た。
ところがである。商店街まで地図上は近いのに実際は遠い。なぜなら島根の「ベタ踏み坂」にも劣らぬ鬼の急坂が待ち構えていたからだ。
忘れていたがここは河岸段丘の町。市民の多くは台地の上で暮らしている。雪でも登れるよう、坂の途中で屋根付きの階段まで登場。息が切れて2度、休む。
そんな攻めにくそうな地形は、強固なお城にもってこい。真田氏ゆかりの『沼田城址』を歩く。小屋があったので覗くと天狗の目とあった。こんな天狗小屋がポツポツ街角に建っているが、喜んで覗くのは私くらい。珍しくもないのか足を止める地元民はいない。
真田氏ゆかりの天空の城下町『沼田城跡からの眺望』

沼田城址公園から見た河岸段丘。遠くの雪山が美しい。桜の名所でもあり春は市民で賑わう
続いて明治・大正時代の建物5軒を移築した『大正ロマンエリア』へ。そのうちの一軒が旧沼田藩主の息子で、刺身とパンを一緒に食べていたほどパン好きな土岐(とき)章子爵の家であった。仲間と始めたパン屋は殿様商売だったのか失敗に終わったものの、「パンの殿様」と呼ばれ「落花生みそパン」のレシピも残した。
『大正ロマンエリア』

『大正ロマンエリア』明治41年建築の旧沼田貯蓄銀行。ほかの4軒も隣接
[施設名]『大正ロマンエリア』
[住所]群馬県沼田市上之町
[営業時間]10時〜17時
[休日]水(祝の場合は木休)
[料金]110円
[交通]JR上越線ほか沼田駅から徒歩20分
子爵の生涯を知れば、お腹がグウと鳴る。大通りをそれると「米穀店」なのにランチの立て看板を出している妙な店があった。
『カフェ・ナカムラ』の店主、中村一喜さんは市役所を退職し実家の米屋を大改造して夢だったカフェを始めたそう。聞けばかつて観光課におり、「とんかつ街道」を立ち上げるため先ほどの『金重』さんを訪れた人だと知って驚いた。
奥さんの作るフレンチトーストは絶品だった。「えだまメンチ」を考案した高校出身の子が卒業して小さなパン屋を始めたので、応援できたらと取り寄せたパンで焼いたのだという。
『カフェ・ナカムラ』フレンチトースト600円

『カフェ・ナカムラ』フレンチトースト 600円 「ぽんまるぱん」のパンを使ったフレンチトーストは600円。フワッとカリッとした不思議な味

『カフェ・ナカムラ』店主 中村一喜さん、初美さん
店主:中村一喜さん、初美さん「日替わりランチやミートソースもおすすめです!」
『カフェ・ナカムラ』
[店名]『カフェ・ナカムラ』
[住所]群馬県沼田市坊新田町1117
[電話]0278-22-2214
[営業時間]10時〜18時
[休日]月・日
[交通]JR上越線ほか沼田駅から徒歩20分
『福祉カフェippo』

『福祉カフェippo』りんごのブロンディ 450円 ハンディを抱えた人が元気に働く。生地にホワイトチョコを混ぜて焼いた「りんごのブロンディ」(450円)はしっとり
[店名]『福祉カフェippo』
[住所]群馬県沼田市下之町888沼田テラス1階
[電話]0278-23-7330
[営業時間]10時〜16時半
[休日]土・日・祝
[交通]JR上越線ほか沼田駅から徒歩20分
天狗や山伏や蛇にムカデの伝説は格別だけど、沼田の今もおもしろい。コンビニに座布団があって、お母さんが天狗を担いで、高校生がチャレンジしている。それはきっといい町だ。市内の天狗たちも団扇を振って応援しているに違いない。
『農産物直売所 街なか天狗プラザ』大天狗面

『農産物直売所 街なか天狗プラザ』内にある4.3mの「大天狗面」。沼田まつりで女性が担ぐ
『スズキ時計店』

『スズキ時計店』店の外壁に鳩時計!?

『スズキ時計店』店主 鈴木治善さん 祖父は城下町で簪(かんざし)を売り、父は時計屋に。国産の鳩時計の修理が多くなり、治善さんの代で本場ドイツから鳩時計を輸入。温かみのある時計ばかり
店主:鈴木治善さん「ドイツの手作り鳩時計は作り手の個性がでます」
『スズキ時計店』
[店名]『スズキ時計店』
[住所]群馬県沼田市上之町1155
[電話]0278-22-3459
[営業時間]9時〜18時半
[休日]無休
[交通]JR上越線ほか沼田駅から徒歩20分
写真・文/白石あづさ…大学卒業後、地域紙の記者を経て約100か国3年間の世界一周後、フリーに。著書に『逃げ続けていたら世界一周していました』(岩波書店)、『中央アジア紀行 ぐるり5か国60日』(辰巳出版)、『世界が驚くニッポンのお坊さん 佐々井秀嶺、インドに笑う』(文藝春秋)、『世界のへんな肉』(新潮社)ほか
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。
※画像ギャラリーでは、沼田市の画像をご覧いただけます
※月刊情報誌『おとなの週末』2026年4月号発売時点の情報です。
