中国への先端技術流出を国家で阻止せよ!サプライチェーン強靭化のために日韓が合意した「対中極秘会談」の中身

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戦争は銃だけで行われるわけではない。中国の「本当の狙い」に気づいた日韓が取った策とは? 経済安保の裏側を描く短期集中連載スタート。

【前編を読む】優秀なエンジニアを次々引き抜いてノウハウを盗む…「中国VS.日韓」知られざる先端技術の攻防戦

「二つの技術をバーターにしましょう」

中国への技術流出状況を見た齋藤健経済産業相は'24年4月、韓国の安紱根産業通商資源相と東京で会談し、サプライチェーン強靭化に関して「両国間の対話立ち上げ」で合意した。この頃、両国は中国を意識した、あるディール(取引)を検討し始めた。日韓両国が手を握り、中国に先端技術を流出させない「密約」である。

日韓の対中極秘会談が行われたのは'24年6月頃のこと。齋藤経産相が韓国の安大臣に対し、互いの先進技術が中国に流出しないよう持ち掛けた。その協力の柱は二つあった。一つは、韓国側がサムスンなどから中国へMLCCの技術が流れるのを防ぐこと。もう一つは、日本側が、有機ELテレビに欠かせない発光材料「TADF材料」の技術を中国に渡さないことだった。TADF材料については後述するが、有機ELテレビ製造には韓国が強みを持ち、そこで不可欠な材料の生産を日本が担っていたのだ。

「二つの技術をバーター(交換条件)にしましょう」と齋藤。それに対して安は「アイ・アグリー」と答えた。事前にすり合わせていたとはいえ、ここに阿吽の呼吸で日韓合意が成立した。

経産省は'24年12月、重要技術を容易に海外流出させない技術管理スキームの「事前報告制度」を導入し、その対象にMLCCなど10品目を選んだ。海外進出を希望する企業には「事前報告」を課し、同省の担当課が審査をする。表向きは報告制度だが、中国などに重要技術が流出しないように誘導する仕組みである。

韓国も同じ頃、第5次産業技術流出防止総合計画の中で、「国家核心技術」にMLCCを追加した。国家核心技術の対象となると、企業が海外に技術移転したい場合、韓国の産業通商資源部の承認を得なければならない。こうして日韓双方がMLCCを海外に、つまり中国に出さないことで共同歩調を取った。

一方、韓国の関心事はサムスンやLGがつくる有機ELテレビで中国メーカーの急追を受けてきたことだった。

朝鮮日報は「出世競争に敗れた技術者らが大勢中国に渡り、(中略)100人以上の韓国人が働いている」と報じている。サムスン電子は米国際貿易委員会(ITC)に特許侵害を訴え、ITCは一時、サムスン電子の主張を認め、中国メーカーに米国での有機ELパネルの販売を差し止める命令を下している。

「中国に工場を作りませんか?」

中国が韓国を急追できた理由の一つが日本からの技術流出だった。かつて日本には、JOLEDという日本勢が有機ELで巻き返しを狙って設立した企業があった。最大の特徴は、インクジェットプリンターのように発光材料を塗り分ける「印刷方式」にある。より低コストで大型パネルを量産できる可能性があると期待されていた。そのJOLEDが経営破綻すると、中国は同社が開発した製造装置を買い取り、中国に持ち帰った。

JOLEDの装置をもとに、中国は、日本が実現できなかった印刷方式による有機ELの量産に先鞭をつけようとした。このような日本からの技術流出に驚愕したのは、中国に急追される韓国だった。

次に中国が狙ったのが、TADF材料だ。装置に加え、材料も手に入れば、自国内でサプライチェーンが完結する。中国の技術獲得に詳しい日本総研の福田直之主任研究員は、

「中国は経済安全保障上、自国がサプライチェーンをコントロールできるような状態にしておくことを重視しています。この4月にはサプライチェーンに関する国務院令が布告され、『外国が我が国のサプライチェーンを害する場合は相応の措置を講じる』と対抗措置に言及しています」と指摘する。

TADF材料で鍵を握るのが、九州大学発ベンチャーのキューラックスだ。TADF材料は同社が開発し、同社に頼らないと調達できない。中国はそこにも目をつけ、「こっちに工場進出してくれないか」と提案している。先進的なものは全部、国産化しようという考えなのだ。その情報を耳にして慌てたのは、日本政府であり韓国政府だった。

経産省は今年1月、TADF材料も技術管理スキームの事前報告対象にした。MLCCから始まって、これで合計19品目の技術が事実上、同志国以外には「門外不出」とされたのである。

すべてが整ったあと、経産省の担当室長は「日韓両国の協調は非常に重要なことと思います」と慎重に言葉を選んで語った。齋藤は「お話しすることはない」と詳細を明らかにしていない。

とはいえ、安閑としてはいられないだろう。先の福田氏は「技術流出規制を強化しても、中国には優秀な人材がたくさんおり、いずれ追いつくでしょう。規制を強化しても中国が追いつく速度を一時的に遅くする程度の効果しかありません」と指摘。そのうえで「結局は、日本は少しでも早く中国よりも先を走るしかないんです。そのためには政府の研究開発支援を強化していくべきだと思います」と話している。

(敬称略、肩書は取材当時)

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「週刊現代」2026年6月8日号より

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